リーマンの謎にのめり込むキッカケとなったのが、「数学の夢〜素数からのひろがり」(イラスト)です。
この本では素数の謎が、オイラーやリーマンによって解明され、ゼータとゼータの謎を生み、このゼータの統一こそが絶対数学の夢に繋がるとあり、その先にリーマン予想があるとしてます。20年前に初版された本ですが、とても読みやすいです。
さて、本題に入ります。前回”旧4の1”では、リーマン予想と解析接続とゼータ関数の謎の大まかな概略について述べました。
因みに、ゼータの解析接続については、”その1(全12話)”の前半で詳しく述べてますので、そっちを参考です。
そこで、”ゼータ関数の生みの親”であるオイラーの偉業を紹介します。オイラーなくしては全ては始まらんのです。
ゼータの特殊値とは?
只でさえ厄介なこのゼータ関数は、とる値によって、非常に奇怪な数式と値をとります。
ゼータ関数に整数を代入したものをゼータ関数の特殊値と言いますが。特に正の偶数の特殊値にては、”バーゼル問題”を導いた同じ年にオイラーが導き出します(1735年)。
続いてオイラーは、整数のゼータの特殊値の全てを導き出します。
そこで今回は、正(整数)のゼータから始めます。正の整数の特殊値に関して言えば、ζ(1)=Σₙ(0,∞)1/n=∞(調和級数)、
ζ(2)=Σₙ(0,∞)1/n²=π²/6=1.664...、
ζ(3)=Σₙ(0,∞)1/n³=1.202...、
ζ(4)=Σₙ(0,∞)1/n⁴=π⁴/90=1.082...、
ζ(5)=Σₙ(0,∞)1/n⁵=1.036...、
ζ(6)=Σₙ(0,∞)1/n⁶=π⁶/945=1.017...、
と全く奇妙で奇妙でない様な値を取る。
ζ(s)は、sが正の偶数の時は後でも述べますが、π²ⁿ×(ベルヌイ数)の形で表現されます。しかし、sが正の奇数の時は無理数となり、ラマジャンの定理が使われます。
先ず、ζ(1)はゼータの起源と言われる”オーレムの定理”でゼータの極となります。
次に、ζ(2)=π²/6は、オイラーをスターダムに押し上げた、有名な”バーゼル問題”(1735年)です。
ζ(3)=1.202...は、アペリーの定数(無理数)と言われ、表示に関してはオイラーが発見します(1772年)。
バーゼル問題(1735年)
ゼータの特殊値を求める際、オイラーは最初にζ(2)を求めます。
先ず、sinxの無限級数展開より、sinx=Σₙ[0,∞](−1)ⁿx²ⁿ⁺¹/(2n+1)!
=x−x³/3!+x⁵/5!−x⁷/7!+•••と表現されます。
次に、sinxの解が、0、±π、±2π、±3π、、、であるより、sinx=x(x−π)(x+π)(x−2π)(x+2π)•••
=x(1−x/π)(1+x/π)(1−x/2π)(1+x/2π)•••
=x(1−x²/π²)(1−x²/4π²)(1−x²/9π²)•••
=xΠₙ[1,∞](1−x²/n²π²)
と無限級数(無限和)が無限積で表せます。これがヒントになり、2年後のオイラー積(1737)に繋がるんですかね。
そこでx³の係数を比較すると、
1/3!=1/ π²+1/4π²+1/9π²+•••となり、
π²/6=1+1/4+1/9+•••=ζ(2)と目出度くバーゼル問題(1735年)が導き出せました。
バーゼル問題の詳しい証明は、”旧4の4”でも述べますが、本当はこんな単純じゃないんですが。
”特殊値表示Ⅰ”(1735年)と正の偶数の特殊値
以下、係数を比較し、偶数の整数値のゼータ(ζ(4)、ζ(6)、、、)を次々と求めていくのもアリですが。オイラーが実際に示した様に、三角関数の対数微分を使うとずっと楽になる。以下大まかに説明です。
先ず、sinπx=πxΠₘ[1,∞](1−x²/m²π²)の両辺を対数微分しますが。この両辺の対数を取り、無限積を無限和の形にし、対数を取り去る為に両辺をxで微分します。すると、
Σₙ[0,∞]ζ(2n)x²ⁿ=−πx/2*cotπx+1/2と変形でき、オイラーの公式とベルヌイ数の展開式から、ζ(2k)=(−1)ᵏ⁺¹(2π)²ᵏB₂ₖ/2(2k)!という”特殊値表示Ⅰ”の公式を導き出します(1735年)。
この詳しい過程は少し複雑なので、ここでは省略します。悪しからず。
この様にしてオイラーは、ζ(2),ζ(4),ζ(6),,,という正の偶数における特殊値を求めたんです。
多分オイラーは最初は”解と係数の関係”を使い、手計算でゼータの値を求めようとした筈ですが。対数微分すれば、両辺の係数比較が楽になると思いついたんでしょうか。
因みにゼータは、解と係数の関係を通じて、ガロア理論にも結びつきます。
この特殊値の公式をよく見ると、上述し様に、ζ(2n)=π²ⁿ×(有理数=ベルヌイ数)の形になってますね。
このベルヌイ数Bₙとは、1713年にヤコブ•ベルヌイが導入し、後でも述べますが、x/(eˣ−1)=Σₖ[0,∞]xᵏBₖ/k!のベルヌイ数の定義と、(eˣ−1)のテーラー展開との係数比較により比較的容易に求める事が出来ます。
但し、B₀=1,B₁=−1/2,B₂=1/6,B₃=0,B₄=−1/30,B₅=0,B₆=1/42,B₇=0,B₈=−1/30,,,で、求め方は”旧4の4”に回します。
因みに、ヤコブの弟ヨハンはオイラーの師匠で、ヨハンの息子ダニエルはオイラーの先輩で友人です。
”特殊値表示Ⅱ”(1739年)と負の特殊値
以下に述べる、負(整数)のゼータの特殊値に関してもオイラーは、ζ(0),ζ(−1),ζ(−2),ζ(−3),,,が全て有理数になり、ζ(1−n)=(−1)ⁿ⁻¹Bₙ/nと簡単に書ける事を発見(1739年)。これを”オイラーの特殊値表示Ⅱ”といいますが、正のゼータの特殊値表示から4年掛かってます。
一方で、B₃=B₅=B₇=•••=0より、ζ(−2)=ζ(−4)=ζ(−6)=•••=0は明らかですが、これは史上初のゼータ関数の零点の発見でもあり、その120年後の1859年にリーマンがさらなる零点を研究するきっかけを与えました。
またオイラーは、mが正の偶数の時、ζ(m)とζ(1−m)の式を比較し、ζ(1−n)=Γ(n)2(2π)⁻ⁿcos(πn/2)ζ(n)という”非対称型関数等式”を発見します(1739年)。因みにガンマ関数Γ(s)の公式より、上式は、ζ(s)=Γ(1−s)2(2π)ˢ⁻¹sin(sπ/2)ζ(1−s)と変形され、リーマンが1859年の論文で使ったゼータの第1の関数等式となります。
ζ(0)=−1/2、
ζ(2)=π²/6⇔ζ(−1)=−1/12、
ζ(4)=π⁴/90⇔ζ(−3)=1/120、
ζ(6)=π⁶/945⇔ζ(−5)=−1/252、
ζ(8)⇔ζ(−7)、ζ(10)⇔ζ(−9)、、、を比較し、
ζ(2)=ζ(−1)*(−2)π²、
ζ(4)=ζ(−3)*(4/3)π⁴、
ζ(6)=ζ(−5)*(−84/315)π⁶、、、
を見出し、オイラーは上の関数等式を推測しました。天才の領域を遥かに超えてますね。
因みにリーマンは、このオイラーの非対称型関数等式を解析的に厳密に証明し、更に推し進め、完備ゼータ関数を使い、完全対称型の第2の関数等式(詳しくは”1の4”を参照)に書き換えます。
最後に
以上を纏めると、まずバーゼル問題及び正の偶数でのゼータ値の発見(1735年)をきっかけに、オイラー積(1737)⇒非対称型関数等式及び負の整数でのゼータ値の導出(1739)⇒オイラー積分表示(1768)⇒素数分布の推測(1775)へと繋がり、リーマンの素数公式を経由し、リーマン予想(1859)に至った。
因みに、ζ(3)のアペリーの定数(無理数)に関しては、既にオイラーが表示式を見つけてましたが(1772年)。この時Z(ラテン読みでゼータ)が使われてたという事で、ゼータ関数論において”ゼータ”が使われた最初とされます。
こうしてオイラーは、オイラーの積表示だけでなく、ゼータの特殊値表示(sが整数の時のゼータの値)と、ゼータ関数の対称等式(ζ(n)⇔ζ(1−n))というゼータの3大性質を全て一人で発見した。これには全くの驚きです。
そして、このオイラーの数々の偉業が、リーマンの偉業に繋がっていく。
正の偶数でのゼータ値の発見(1735年)をきっかけに、オイラー積(1737)⇒関数等式(1749)⇒積分表示(1768)と繋がり、リーマン予想(1859)に至ったとは、実に見事な流れです。
お陰で、リーマン予想の流れがハッキリと掴めました。そして、このリーマン予想がゼータ関数の謎に繋がるんですね。そして、このゼータを統一し、絶対数学へと導くんです。
ギリシャ時代の、素数に対する素朴な疑問が、数学の礎となり、オイラーの夢がリーマンの夢に受け継がれ、そして今、絶対数学への扉が開かれようとしてる。
リーマン予想とは、この開く筈もない絶対数学の扉をこじ開ける事だたんですかね。
転んださんみたいに、リーマン予想というものを、単なる難解な数式で紹介するより、大まかな流れとしてイメージする方が、ずっと判り易いです。これからも、リーマンブログを楽しみにしてます。
いつも何時も鋭いですね。もしかして『数学の夢』読んでますね。絶対数学という言葉に、ピンときました。実は、私もこの本を参考にしました。この本こそがリーマン予想のバイブルですね。
最初にこの本を読んでれば、遠回りせずに済んだのに、初心者も上級者も読める優れ本です。2008年に出版されてんですが。まさに、リーマン予想の”一突き”となった本ですね。これも付け加えておきますね。
これからも、リーマンブログを宜しくです。