Ivy League Ladyの悦楽と告解
タイトルがタイトルだけに、物議を醸しだしそうな雰囲気だが読んでみると、レヴューで言われてる程、興味本位でも風俗系でもない。
この本を徹底的に紹介しようと思ったのは、レヴューがイマイチなのもあるが。バルザックの人間観察と同じく、コールガールの喜悲劇を学術的見地から描いてるからだ。さらっと読んで理解出来る代物じゃなく、非常に重たく、教材に出来る程のドキュメントでもある。少なくとも、アンネフランクやヘレンケラーよりかは、ずっと教育に向いてるだろう。
人類学の博士号を持ってるだけあって、人類の生理学的視点から描がいた、洗練された才気溢れる学術的な文筆には、思わず惹き付けられる。勿論、やってる事には余り感心できませんが。
著者であるジャネット・エンジェルは、ハーバード、MIT、ロンドンスクール等で人類学、社会学、歴史学の講義を持つ、当時33歳の大学教師(講師)だ。
因みに、副題では”私はプロフェッサー”としてるが、アメリカでは助教授や講師等も教授職(プロフェッサー)と呼ぶそうで、講師にも当然、常勤と非常勤があり、ジャネットは非常勤で生活も相当に不安定だった。
そのジャネットも人類学の博士号を取得し(社会学、歴史学にては修士号を)、常勤講師を経て、教授への青写真を描いてた真っ最中に、悲劇は起きた。
恋人の逃亡と悲劇
同棲してた、シャブ中で薬の売人の恋人のピーターにまんまと逃げられた。大切な預金も全て盗まれ、全くの文無しになった彼女が取った行動とは?
因みに、アメリカの教育費は、有名私立で年間400〜600万はするという。彼女は奨学金でそれを賄ってたから、借金も半端なかったのだ。
原書の副題で、"Ivy League Ladyの悦楽"としてるのも、高騰する学費を支払う為、売春に手を染める女学生が、後を経たない事の現実か。
元々、豊乳だったし、体型には自身があった。30を超えてたが、20代でも通用する程の美貌だった。お陰で、男性経験も豊富で、イカせる事には自信があった。つまり、SEXには元々免疫がついてたのだ。
そもそも、コールガールの時給は良く、税金を納める必要がない代り、社会保障からも外れるが、てっとり早く稼ぐには、もってこいのビジネスだ。それに、彼女が所属するエージェンシーにも恵まれた。女には最低でもカレッジ卒の学歴を要求した。お陰で、中間層の学のある比較的マナーのいい?客が集まった。
経営者のピーチという女
ピーチという女経営者は、性と知的な会話に需要を見いだした。部屋はモーテルかスィート。とにかく、1時間に$200を払う経済的余裕のある事が客の一番の条件だ。
コールガールの一番のタブーは客を盗む事。これをやると命の保証はない。最後に述べるが、ジャネットもこれに引っかかり、この仕事をやめる羽目となる。
彼女は、売春もコンサルタント業の一つと割り切った。魅惑と誘惑に関する専門的知識を用い、快楽を与え、客と交わした契約を満たす。故に、コールガールもSEXという一分野にて、深く広い知識を備えた専門家なのだ。
つまり彼女は、大学教師でありながらも、エスコートガールとしての資質も十分に備えてたのだろう。
"人生を小綺麗な箱に納め、完璧に整理し、どんな邪魔も入らない様にしておくなんて、どだい無理な話"
コールガールも"相手を一瞬で見極め、値をつける"(Wチャーチル)事が重要なのだ。その"一瞬"で全てが決まる商売。見切りを少しでも誤ると大怪我をするお仕事だ。
初仕事
彼女は相手に応じ、22〜29歳の間で使い分け、公称のサイズは上から91、66、88。しかし、体型や実年齢なんて、客は望まない。望むのは満足と快楽だけ。彼女は本能的に、SEXや恋愛が得意だと判ってた。欲しいと思う相手は誰でも”落とす”事が出来たのだ。
ただ、前恋人のピーターを欲しいと思った事が唯一の間違いだった。あのシャブ売りのインポ野郎をだ。人生経験と教養は性的魅力に通じる。"今の私なら、20の小娘にも負けないわ"。事実、その通りになった。
女経営者のピーチは、このエージェンシーを8年続けてた。バリバリのキャリアウーマンか?艶やかなマネキン女王か?しかし、実際は、印象派の絵画に描かれてる様な、緑色のキレイな瞳の持ち主だった。
"貴方警官なの?"
"私、警官に見える?"
"もし、少しでも嫌な予感がしたら、仕事をしてはダメ"
これが会って最初の会話だった。
因みに、違うと答えたら、本物の警官でも逮捕できないとか。最後に判るがこれは少し怪しい。
ジャネットは、この女経営者に会った時から、彼女自身がエスコートサービスで働ける程に、若く美しくスリムで魅力的であった事に、喜びを隠せなかった。一方、女経営者は、ジャネットの図抜けた賢さだけが不安だった。それ程、賢くもないのだがと当の本人は笑う。
乞う続編!
私が今まで題材にしてきた人物は皆、多才で多様な溢れる感性を持ってるという事ですね。
日本では、多才とか多様とか、育ち難い土壌にあるのですが。欧米では、多感な天才って多いですね。一つの事に秀でる事を良しとする日本とは大きく異なりますが。
バルザックの『幻滅』に、"小説なんてプロスティチュートみたいなもんさ"というフレーズがあるんですね。日本で言えば、江戸時代の後期に、こんな言い回しをしてたとは、フランスも随分マセた国だったんですね。
アメリカの有名私大の学費ってこんなに高いんですか。副題にある様に東部の有名な私大の女学生がエスコートガールになるのも無理はないですかね。
生活の為というより、学費の為に心身をも削る。勉強なんて大金を払ってするもんすかね。
結局、学歴というブランドが欲しい訳で、本末転倒の様な気もしますが。
昔、学費を稼ぐ為にメジャーリーガーになった選手がたくさんいた事を思い出しました。特にヤンキースやボストンはプレーオフの常連で、ワールドシリーズに出れば結構な報償金が出るのでそれだけで学費が稼げたとか。
いきなりですが。
直にコールガールというよりは、象が転んださんの”Ivy League Ladyの悦楽と告白”というタイトルで、丁度いい様な気もします。
日本人にとって、このタイトルは少し露骨過ぎるかと。それとピンクのカバー色は何故か。
全くですね。同じ学生でもコールガールとメジャーリーガーでは、待遇も信用も天と地の違いがあるでしょうに。
結局、そのままメジャーの選手になった人も多かった様で、お陰で黒人を排除してもMLBの基盤を支えれたとも。少し調べましたです(笑)。
日本とは全く異なる理由で、売春に手を染めるんですね。”Pleasure”としてる所も楽観的というか、感覚が全く違うんです。
ま、売春を気まぐれな放蕩と捉えれば、日本人が思うような悲壮感は全く無い訳で、そこに違法だとか合法だとかいう堅い事は存在しないかもですが。
私なりには、”若きエスコートレディの悦楽と放蕩”としたいですかね。もうコールガールとか売春という言葉こそが違法であって、古臭く感じますもの。
慰安婦という言葉も、何度も聞かされると、だから何だって開き直りたくもなる。コールガールというタイトル故に、引いた日本人も多かったでしょう。
”性”を売る買うというより、快楽をファンタジーを売る買うという領域に移行してるわけですから。如何わしいとされた売春も、そういう所に収束しつつあるというか。違法とか合法とかの領域ではないのかもです。