象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

ケリー基準と数理モデルと国防費は誰が為にある

2022年12月14日 17時15分27秒 | 数学のお話

 防衛費の増額はGDPの1%が基準であり、現時点で約5.4兆円の規模がある。GDPの2%になれば10兆円を超え、現在の2倍となる。
 ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、中露の軍事的脅威に対抗するという事であれば、防衛費増強が必要との解釈になる。一方で、今回の議論は”金額ありき”で、各省の族議員が巨額予算を狙って水面下で激しい獲得競争を繰り広げてると。
 中露の脅威という現実に、増額の議論はスムーズに進んだとされるが、違和感を覚えた国民が大半だろう。
 しかし、今の日本に予算の余裕は全くない。故に、貴重な予算を最適に配分する必要がある。少なくとも、利権の積み上げで予算が決まるという”昭和的な決着”だけは何としても避ける必要がある(JBpressから一部抜粋)。


”戦争ありき”の無策な議論

 JBpressは、”日本は太平洋戦争で兵站を軽視し、壊滅的な損害を被った”と解説する。しかし、兵站を軽視したのではなく、”開戦ありき”で議論をし、突き進んだ結果が壊滅的な結果を生んだと言える。
 故にケリー基準で言えば、今は国防に血税の1兆円をベットする時期ではないし、”戦争ありき”で議論を進めるべきではない。
 つまり、数理モデルを作り、徹底的にシミュレーションをし、今ある予算内で最適に配分する必要がある。
 (安倍もそうだったが)リターンに浮かれ、リスクという概念のない岸田政権では無理なんだろうか?
 いや、あらゆる要素を抑止力と捉え、数理モデルに組み込んで計算しようという数学的脳を、彼らは持ち合わせてはいないのだろうか。

 かつて日本は、太平洋戦争とバブル崩壊と2つの大きなギャンブルで大損した。前者は800兆円で後者は1400兆円の天文学的額の大損失。ケリー基準を知ってさえいれば(いや知ってなくとも)、数字に強ければ簡単に避けられた惨劇である。
 事実、猪瀬直樹の「昭和16年夏の敗北」によると、日米開戦前夜に若きエリートらで編成された模擬政府は”日本必敗”を導いた。しかし、数理モデルを無視し、過去の経験と(勢いという)その場の空気だけで戦争に突入した結果がこのザマである。
 広島と長崎の悲劇も第二次世界大戦の本質が”原爆を何処に落とすか”という単純な理屈を知ってれば、明確に避けられた筈だ。
 そう、数学はウソをつかない。 

 一方で、森保監督がケリー基準を知る筈もない(多分)が、もし側近に数理に詳しい人物がいたら、クロアチアに勝てたであろうと思うと残念でならない。
 (何度もしつこい私だが^^;)そのクロアチアがブラジルを下したと聞いて、なお口惜しい。ひょっとしたら、PKにまで持ち込めば勝てるという公算を数理モデルを使って確信してたのだろうか・・・
 「オッズと数学の密な関係」でも述べたが、ケリーの方程式とは最適投資率の事で、エッジをE(期待値)、勝率をp、オッズをoとすると、(p(o+1)−1)/o=E/oで与えられる。
 つまり、エッジが最高に膨らんだ時が最大投資のタイミングだが、クロアチア戦の直前が日本に対する期待値が最も膨らんだ時でした。事実、当初は4対6で不利だったオッズが、直前になり6対4で有利になった。
 一方で、国力で12倍、石油生産量で700倍もの差を付けられてた日本は、太平洋戦争前夜はどれだけのオッズが付いてたのだろうか?少なくともエッジはゼロに近かった筈だ。
 また、バブル当時は日本の株価は天井知らずで、エッジは無限に膨らむと有頂天状態だったのだろうか。


期待値とギャンブルの密な関係

 但し、このエッジは(結果に応じた収益と確率を掛けた)期待値として弾き出すが、正確に計算するのは困難です。
 期待値を数学的にいえば、(例えば)n通りの結果(事象)xₙがあり、それぞれが起きる確率をpₙとすると、その時の期待値Eは、E=x₁p₁+x₂p₂+・・・xₙpₙで表す。
 一般に、確率変数をX=xₖとすると、E[X]=Σₖ(1,∞)xₖpₖで表される。
 そこで、サイコロの目が1の時は100円もらえ、2の時は200円、・・・、6の時は600円とする。この時の期待値は、100/6+200/6+・・・+600/6=350となる。
 これは、このゲームを1回行った時の期待値が平均して350円になるという事で確実に350円もらえるとはならない。期待値が1回試行時の”平均”とされるのはその為でもある。

 一方で、宝くじの様に総配当額がくじの売上総額の45%と決まってる場合は、期待値は(単純に)購入金額の45%となる。つまり、一等賞が1000万だと大きく期待させても、200円を投資した時の期待値は僅かに90円(=200×45%)のままだ。
 勝率は単純に数値化された確率だが、期待値を求める際に必ず必要となる。宝くじの例でも、各当選等級の金額と数が事前に発表されてるので、期待値の計算が可能となる。
 実際のジャンボ宝くじは、1等が当選する確率は2000万分の1で、その前後賞は1000万分の1とされる。その他の等級の確率も合わせ、それぞれの払い戻し金額を合計し、総購入金額で割れば期待値が算出できる。

 勿論、サッカーは宝くじの様に単純ではないから、ゲームオッズも流動するし、正確にエッジを求める事はとても難しい。
 しかし、日本チームへの期待がより高まってた事だけは確かであり、オッズを見ただけでもエッジ(期待値)が膨らんでたのは事実である。
 つまり、”エッジ/オッズ”で表されるケリーの最適投資率は最高に膨らみ、ギャンブルをするにはクロアチア戦が絶好の機会だったのである(私も相当にしつこい^_^;)。
 一方で、太平洋戦争前夜やバブル末期の日本はケリーの最適投資率がゼロに近くまで激減した時でもあった筈だ。故に、ギャンブルには絶対に手を出してはいけなかったのだ。
 もし、太平洋戦争やバブル末期にオッズが予想されてたら、殆どの投資家はアメリカに賭けたであろう。そして結果もオッズ通りになる。
 この2つの天文学的な規模の大失態は後の世代に引き継がれ、大きな反省のもとに経験として蓄積された筈だが、国防費増強という同じ様な失態を再び繰り返そうとしている。
 そう、経験と精神論は全く当てにならない。

 結局、当時の日本はギャンブルという感覚がないままに戦争に突入し、バブルにのめり込んだ。大鑑巨砲とか経済大国とかいう幼稚な経験主義的盲信に支えられ、数理モデルという算術を軽視してしまった。
 勿論、日本人全てが数理が苦手というのではない。むしろ、日本は数学王国になれる素地を持ち合わせてはいる。事実、先進国の仲間入りをした頃の日本の数学力はイスラエルについで第2位だった。”ジャパン・アズ・No.1”とは、この数学力が起因になったのだろうか。
 それに比べれば、ベスト16で森保監督がギャンブルが出来ないまま、引き分けに終わり、エッジ(期待値)は急速に萎み、経験値の高いクロアチアにPK戦で敗れたのは、実に可愛いものだ。
 過去の記事でも森保監督へ少し口惜しい指摘をしたが、私が賭けるとしてもクロアチアに傾いてただろうか。そのクロアチアが数理シミュレーターを使って(日本はともかく)ブラジルを丸裸にしてたのかもしれない。
 そう(私もしつこいし)、シュミレーションは嘘をつかない。

 そこで今日は、シュミレーションが如何に大切かを知る為に、”ケリー基準”の道標となった”ベルヌーイ試行”についての考察です。


”ベルヌーイ試行”が導く新たな景色

 そこで、「オッズと数学の密な関係」のコメントに寄せられたジョン・ラリー・ケリーJr(1923-1965)の”ベルヌーイ試行”(1956)を大まかに確認します。
 因みに、ベルヌーイ試行(二項試行)とは、公平な試行の結果が成功と失敗の2つのみで、1つ1つの試行は独立し、成功の確率pと失敗の確率(1−p)が一定になる。
 つまり、1回目の試行が2回目の試行の結果に影響を与える場合は、ベルヌーイ試行とは呼べない。

 ケリー基準では、リスクにはリターンを増大させる最適範囲があり、これをベルヌーイ試行を使って弾き出し、およそレバレッジ(借金によるリターン向上)2倍と見積もりました。しかし、多くの投資家は慢性的な過剰リスクに曝されてた為に、リーマンショックに代表される様な昨今の暴落現象が起きてしまった。
 ケリーのベルヌーイ試行の主な目的は、予想される投資による資産成長の対数を最大化する事にありました。
 以下「最適ベッティング戦略」から一部抜粋&参考です。

 そこで(勝率が50%とはならない)”歪んだ”コイントスを例に取り、その結果を1(勝ち)で−1(負け)とし、勝率をp(1/2<p≦1)、負け率qを1−pとする。勝てば賭け金の2倍、負けたら賭け金没収というオッズ2(1:1)の単純なゲームを考えます。
 まず初期資産をW₀として、毎回資産の一定比率fを賭ける。
 ここで、n回プレイ後の資産価値をWₙ、ゲームの結果をwₙ∈{1,−1}とすると、Wₙ=(1+f)Wₙ₋₁(wₙ=1の時)、Wₙ=(1−f)Wₙ₋₁(wₙ=−1の時)となります。
 そこで勝った回数をmとすると、m回勝つ度に初期資産W₀は(1+f)ᵐの割合で増え、(n−m)回負ける度に(1−f)ⁿ⁻ᵐの割合で減るから、Wₙ=W₀(1+f)ᵐ(1−f)ⁿ⁻ᵐと書ける。
 更に、この両辺をW₀で割り、更にⁿ√で括り、その両辺の対数を取れば、n回目の資産の期待成長率Gₙ(f)は、Gₙ(f)=log(Wₙ/W₀)^(1/n)=log{(1+f)^(m/n)*(1−f)^((n−m)/n)}=(m/n)*log(1+f)+((n−m)/n))*log(1−f)と書ける。
 但し(後でも述べますが)、この資産期待成長率は”幾何平均の対数と等しい”事に注意です。

 次に、上で得たn回目の資産の期待成長率Gₙ(f)の期待値は、E[Gₙ(f)]=g(f)=plog(1+f)+qlog(1−f)=E[logW]を得る。但し、”大数の法則”(試行を無限回繰り返すと期待値は平均値に近づく)によりE[(m/n)log(1+f)]は勝率pとその確率変数log(1+f)の積となり、同様にE[((n−m)/n))log(1−f)]は負け率qとlog(1−f)の積となる。一方で、E[Gₙ(f)]=E[(1/n)log(Wₙ/W₀)]=(1/n)E[log(Wₙ/W₀)]=(1/n)(Σlog(Wₖ/W₀))=(logW₁+・・・+logWₙ)/n−logW₀=E[logW]となる(多分*_*;)。
 因みに、あるデータの対数を取るとそのグラフは正規分布の形に近づき、統計学的な解析法が使える。
 つまり、n回目の資産価値Wₙを対数変換し、その幾何平均をとれば、n回目の資産の期待成長率Gₙ(f)と等しくなり、その期待値E[Gₙ(f)]=g(f)のグラフは(中央部が山頂になる様な)正規分布の形に近づき、最適投資額を容易に見つける事ができる。
 これは、資産成長データをa₁,a₂,...,aₙとすると、これらデータの対数を取って平均すれば、(loga₁+・・・+logaₙ)/n=log(a₁・・・aₙ)/n=log(a₁・・・aₙ)^(1/n)となる事から、対数データの平均は”幾何平均(全てのデータをかけて累乗根を取る)の対数に等しい”とされる。
 つまり、投資による資産成長のデータを対数をとり、正規分布化し、その正規曲線の最大値(最適解)を最適投資とケリーはみなした。

 ここで、g(f)の最大値を求めれば、最適の投資比率fを求める事が出来る。
 故に、g′(f)=0を解けば(その解をfˣとすれば)、g′(f)=p/(1+f)−q/(1−f)=((p−q)−(p+q)f)/(1+f)(1−f)=0より、p+q=1からfˣ=p−q,p≥q≥0が得られる。
 また、g(fˣ)=plog(p)+qlog(q)+log(2)>0と、2次導関数g′′(f)=−p(1+f)2−q(1−f)2<0より、g(f)が上に凸の関数となってるので、勝率や回数を入力するだけで最適比率が求まります。
 但し、このケースではオッズは1:1(=2)となる公平なギャンブルですが、オッズがo:1の場合は、任意のo∈R+をとり、po−q>0且つ、g₀(f)=plog(1+of)+qlog(1−f)と仮定すると、最適投資比率fˣ=(op−q)/o=エッジ/オッズというシンプルなケリーの公式を得る。
 pdf版も少し参考にしましたが、多少曖昧な所があるのは悪しからずです。


最後に

 以上、(n回目の)資産の期待成長率のデータを対数変換し、幾何平均をとれば資産成長率の2次導関数が導け、掛け金の最適比率を弾き出した。
 こうして数学の景色でギャンブルを眺めると、ケリーの試行(1856)というややこしい計算から、とてもシンプルな公式が導ける事がわかる。
 逆を言えば、単純なギャンブルでも最適な賭け率を求めるには、これだけのややこしい数理モデルが必要になる。国家間の戦争や経済ならば、もっとシビアで途方に暮れる様なシミュレーションが必要になるだろう。

 国防や戦争は一部の政治家の幼稚な丁半賭博ではない。
 あらゆる要素を組み入れた数理モデルで注意深くリターンとリスクを見積もり、ケリー基準のような試行を何度も繰り返す必要がある。
 勿論、この計算は気の遠くなるような作業かもしれない。しかし、資金に困ったからとて、血税に頼り、復興費を削る安直な岸田のプランでは命が幾つあっても足りない。
 ここまで言っても、数理モデルよりも経験や精神論が大切だと唱える人もいるだろう。いや、陰謀説をばらまく人もいるだろう。

 確かに、数学には様々な矛盾や誤解があるのも事実である。
 勿論、数字をそのまま信じればバカを見る。だが、数学そのものは(不完全かもしれないが)ウソをつかない。
 いや、ケリー基準を見る限り、数学的思考が如何に大切であるかは理解できる筈だ。



4 コメント

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フランスVSアルゼンチン (tomas)
2022-12-15 09:54:22
記事のテーマと思い切り外れちゃいますが^_^;

転んだサンの願い通り
ベスト4はオッズ通りになりました。
両者共に横綱相撲でしたし、でも2試合連続PK勝利のクロアチアは疲れてましたね。
監督からしたら、今大会はベスト4が目一杯だったんでしょう。それでもアッパレです。
モロッコも後半は厳しく攻めたし、ベスト4に恥じないプレーでした。

決勝直前のオッズはほぼ互角となりそうですが、ベストな試合を期待したいです。
数学は不完全だけどウソはつかない。
いい言葉です。 
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tomasさん (象が転んだ)
2022-12-15 15:32:58
ややこしい数学の部屋へようこそ・・・
と言いたい所ですが

やはりサッカーの話題に傾斜しますよね。
この記事も本当は”日本のベスト8ならず”をケリー基準で解析しようと温めてたんですが、あまりに拘りすぎると熱狂的なサポーターに叱られそうなので、国防費増額のテーマにシフトしました。
そういう所もtomasさんは見抜いてたんですね。アッパレです。

流石にベスト4はオッズ通りになりました。
モロッコもクロアチアもベスト4に値するフェアな戦いをしてくれました。
さてと決勝ですが、順当に行けばフランスの連覇でしょうね。特にムバッペとデンベレは驚異で、ベンゼマがいなくてもこの強さですから、層の厚さが違いますか。
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戦争勃発の確率 (腹打て)
2022-12-18 14:27:45
オッズから言えば
台湾有事が米中戦争になる確率は2.0倍前後との所だろうか。

勿論、そのオッズは中米双方の出方次第だけど、昨今の論調では中国が台湾に攻め込むとの一辺倒で、安倍の元側近であった高橋洋一は‹日米同盟がある間は中国は日本を巻き込めない。それはデータが証明している›と説明してたが、これも実に危険すぎて怪しい。
実際、高橋はコロナ問題でデータを見間違えるという大失態を犯したよな。

一方で、よく言われる中立論だが、外交の脆さを露呈した日本には、これも絵に書いた餅で終わる可能性もなくはない。
今はこの2つのシナリオだけが独り歩きしてる感があるけど、防衛費増額よりも第3のシナリオを早急に考えないと戦争が始まってからでは遅い。
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-12-19 01:22:21
台湾国民の本音としては
独立はしたいけど戦争は絶対に避けたい。
戦争狂いのアメリカも昔ほどは当てにならないし、台湾有事は以前に比べ、日本にとってもリスクが大きすぎる。
つまり、エッジ(期待値)はより低くなり、ケリー基準によれば、日本にとっても防衛費増強は無謀な賭けで、”降りた”方が正解だと思います。

日米同盟支持者や元安倍シンパは、未だにアメリカを頼りにしてますが・・・
ウクライナもアメリカ寄りになった途端、プーチンに攻め込まれましたから、事実上のアメリカの傀儡である岸田内閣も同じ様な道を辿る確率は高いですね。
それに、台湾の蔡総統が統一地方選挙で敗れた様に、もし台湾が中国との融和に傾けば、中国の台湾侵攻による米中戦争の確率は低くなります。

まずは、中国の南シナ海政策と台湾問題を切り離して考える事で打開策を見つけたいのですが・・つまりは、米中の妥協点をどこに見出すか?互いに様々な条件を提示すると思いますが、その中で最適解を見つけ出せればいいんですが・・・
いずれにしても難題には変わりはないですね。
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