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数学はギャンブルを超えた?のか”その2”〜ジョン・ケリーのケース

2022年01月23日 15時55分22秒 | 数学のお話

 前回では、エドワード・ソープのカジノ攻略に関する3つの戦略について述べましたが、少し説明が足りなかったようで、スミマセンでした。
 そこで今日は、ソープの3つの戦略の1つであるベッティングシステムに大きく寄与した”ケリーの基準”(掛け金方程式)を詳しく見ていく事にします。 

 ピナクルのライターであり、マルタ大学の数学者でもあるDominic Cortis氏は、”ケリー基準とは資金が指数関数的に増加するように、期待値(エッジ)よりも高いオッズ(配当率)の結果に基づいて賭けるベッティング資金の比率を計算する方法(比例ベッティング)と述べています。
 1956年、AT&Tのベル研究所で働いていたJohn Kelly.Jrが開発した”ケリー基準”は、最適な掛け金の計算を無駄なく数学的に正確な方法で提供し、期待するリターンとリスクの比率を考慮して資金全体の増加を最大化した((「ケリー基準の再考」))。
 判り易く言えば、A社の株式に投資する時、”全資産の何%の資金を投じるのが最も適切か?”を判定してくれる計算式の事ですね。因みに、ケリー自身はギャンブルに手を染める事はなかったとされる。


ケリーの”掛け金”公式(ケリー基準)とは?

 ”ケリーの公式”(掛け金方程式)とも呼ばれ、以下の超単純な式によって示されます。
 賭け金率=エッジ/オッズ
 しかし、実際に(1956年に)ジョン・ケリーが考案した公式は、”{(勝率)×(オッズ+1)–1}/(オッズ)”というものでしたが、「天才数学者はこう賭ける」(W・パウンドストーン著)では、少し形を変えた”ケリーの公式”を紹介し、”この方が覚えやすく、いろいろなギャンブルで使える”と書いている。

 エッジ(期待値)とは、実際にはブックメーカーのベッティングオッズ(配当率)よりも”有利”に保持する(と思う)アドバンテージです。
 このエッジは、”結果に応じた収益と確率を掛けた期待値”として弾き出すが、正確に把握する事は困難である。
 因みに、紛らわしいオッズの表記法ですが、各国で異なります。オッズが4の場合、英国では”4/1”との表記(勝率は1/5=0.2だが、£1賭けて£4獲得で儲けは£3)、ヨーロッパでは”4.0倍”の表記(同じく儲けは3)、アメリカでは”+400”の表記(賭け金100に対する獲得金)などといったものがある。

 例えば、公平なオッズの結果が2(で50%の勝率)の単純なギャンブルの場合、エッジは2×50%−1×50%=0.5と簡単に計算出来る。
 だが、ブックメーカーによってもオッズは異なるし、人によってもゲームの種類によっても勝率やエッジの見方は異なる。
 また、投資はギャンブルほど(数学的に見て)従順ではないので、ケリー基準が完全に機能する筈もない。”ハーフケリー”や”部分ケリー”なんて戦術が存在するのも、その為であろうか。
 つまり、”エッジ”とは、ケリー基準では”期待値”としてるが、”優位性”という意味もある。故に、勝ってるからとて(主観に囚われ)我を見失うと正確なエッジ(優位性)を予測する事が難しくなり、破綻する。

 ケリー基準は”比例ベッティング”とも呼ばれ、賭け金のサイズは資金のサイズに比例する。故に、資金が増加・縮小すると賭けのサイズも上下する。
 一方で、得られるアドバンテージの大きさとベッティングオッズの高さを考慮するが故に、アドバンテージが大きく、又はオッズが低くなるにつれ、(ケリー基準でも)賭けのリスクは高まる(「ケリー基準の再考」)。
 事実、比例法の賭けは利益を最適化するのにより適してるが、負けてる期間から巻き返すのに時間が長く掛かり過ぎるとの指摘もある。
 以上、「ウォーレンバフェットも使う投資サイズ判定法」(1億人の投資術)を参考にしました。


結局、いくら賭ければいいの?

 長々と堅苦しい説明でしたが、ケリー基準を簡単に説明すると、いくら期待値(エッジ)が高くても全部賭けてしまうと、逆の目が出た時に全財産を失う。一方で、期待値の高いギャンブルなのに掛け金をケチるのは勿体ない。
 じゃあ、いくら賭ければいいの💢ってなる。
 このギャンブラーにとっての永遠の悩みに対し、数学的に答えを出してくれたのがケリー基準なんですね。
 以下、「ケリー基準(まとめ)」より一部抜粋です。

 ”最適投資率=エッジ/オッズ”という、こんなにも単純な数式(掛け金方程式)でこの悩みを解決してくれるとは・・・
 例えば、きれいなお姉さんとジャンケンやって、勝てば掛け金の2倍もらえ、負ければ掛け金の全てを支払うという、単純な丁半賭博があったとする。
 勝った時のリターン(オッズ)は200%で、その確率を単純に50%とすると、リターン×確率=100%。一方、負けた時のリターンは−100%で確率は50%、リターン×確率=−50%。故に、期待値は100%−50%=50%と算出できる。
 この時の掛け金率は、50%(エッジ)÷2(オッズ)=25%となり、まずは軍資金の1/4だけを突っ込め!というのが数学的な答えとなる。
 因みに、勝率を55%に上げると、期待値は65%に上り、投資率は32.5%に。つまり、勝率が5%増えれば期待値は10%に、投資率は7.5%上がる計算になる。
 もし貴方の財布の中に1万円あれば、(単純な丁半賭博では)最初は2500円をつぎ込み、勝てば5000円を獲得し(資金は)12500円に増える。故に次に賭ける額は、12500×25%=3125円となる。逆に、負ければ資金は7500円となり、次に賭ける額は1875円となる。
 これを繰り返す事で効率よく資金を増やす、つまり”リターンが最大になる様に(注意深く)リスクをとる”のがケリー基準の肝である。

 以上、こんな単純な丁半賭博ですら、この程度しか賭けるべきではないのだ。感覚的には(一か八かで)全部突っ込みそうになるとこだが、数学は美しく素晴らしい。
 つまり、ギャンブルで破綻する人の殆どは”賭け過ぎ”が大きな原因であるというのも頷ける。

 そこで、ケリー基準を使って長期投資を考察してみます。
 ピーター・リンチは、年率20~25%程度の成長が期待できる株を3~5年程度保有する前提で投資する事を勧めている。 
 この場合のエッジをざっと100~200%とし、オッズを10倍=1000%とすると、最適投資率は(100~200%)÷10=10%~20%となる。
 つまり、ウォーレン・パフェットやリンチが言う様に、5~10銘柄程度に集中投資(1銘柄当たりの投資率を10~20%)するのが最適となる。
 但し、この投資割合は多くの方には心理的に厳しすぎると。ギャンブルの世界でも、ケリー基準はボラティリティ(変動)が激しすぎて心理的に持たない人が多いそうです。
 そこで考案されたのが”ハーフケリー”。つまり、最適投資率=エッジ÷オッズ÷2で、ケリー基準の半分を最適投資とする。
 この他にも”初心者ケリー”(ケリー基準の1/4)で、5銘柄(総投資で10~25%)ほどに分散させる安全なリスク回避のやり方も紹介されてます。
 以上、エナフンさんのアメーバブログからでした。


ケリー基準って、実際はどうなの?

 エドワード・ソープは、自身の成功の多くは”ジョン・ケリーの賭け金方程式のお陰だ”と話している。
 ベッティング戦略が重要なのは確かだが、何をもって有効な戦略と言えるのか?  
 そこで、2つの選択肢がある賭け(55%の勝率)で、5つのベッティング法に従って500回の模擬ベットを行った時の成功率を調べます。
 但し、初回の掛け金は(①を除き)資金1000円の10%の100円とする。
 以下、「ベッティングとは?大きな差を生む戦略」より一部抜粋です。

 試した5つのベッティング法とは、
①毎回全額を賭ける。
 この利点は大きなリターンを素早く得る事だが、負けた時点でゲーム終了となる。
②毎回定額を賭ける
 各ベットで定額100円を賭け、いくら勝っても金額を変えない。バンクロール(資金)を失う確率を劇的に減らせる筈だが、勝利金は実際には少しずつ着実にしか増えなかった。
③マーチンゲール法
 勝つまで賭け金を倍にして、勝利金で損失を埋め合わせする。定額の賭け金よりも素早く増やせる筈だが、連敗が続くと莫大な損失が生じる。
④フィボナッチ法
 賭け金をフィボナッチ数に従って増やす。マーチンゲールと同様の弱点があるが、連敗しても賭け金が増える割合を減らせる(但し、勝つ割合も減る)。
⑤比例ベッティング(ケリー基準)
 ここでは投資率を10%に設定(エッジ=20%、オッズ=2)し、1000ドルの10%の100ドルが最初の掛け金とする。勝利金が定額の賭け金システムよりも速く増え、損失の減りが遅くなる事が特徴である。

 説明だけ見れば、ケリー基準が一番有利なようですが、結果(図参照)もダントツでした。
 ①の全てを賭ける場合、他のシステムが最初の7回で稼ぐのと同じ額を1回のリスクで稼げる。しかし、7倍の明るさで燃えるランプが燃える時間は1/1000だが、結果はわずかR2で終わった。
 つまり、55%の賭け方でR1000まで到達するのは事実上不可能。万が一、R26まで到達すれば670億ドルを稼げますが・・・
 累進ベッティングである④フィボナッチと③マーチンゲールも勢いよくスタートしたが、連敗が長引くと賭け金が膨れあがった。
 実際にR83で11連敗したが、ここでフィボナッチとマーチンゲールの資金は消滅。連敗最後の11回目では、マーチンゲールでは40万3000ドルを賭ける必要があり、最大資金は僅かに6300ドル。同じくフィボナッチの最大ベットは3万3500ドルで、最大資金は4100ドルでした。
 ⑤のケリー基準以外で損失を避けたのは、②の定額ベット。資金は少しずつですが、安定して増え、R83までには3400ドルに達した。その後、2300ドルまでに減らしたが、500回目では6400ドルを稼ぐ。
 11連敗はケリー基準にもかなりの打撃を与え、勝利金を7359ドルから2286ドルに減らす。この金額は定額のベッティングがどれくらい勝利金を保護するか示した。しかし、比例ベッティングでは定額ベットの3倍の1万8275ドルを最終的には稼ぎ出した。
 ケリー基準の成功には、自分にエッジ(優位性)があるという前提に基づく。エッジがなければ、結果は劇的に変わり、全滅するか?500回目のベットの後に1万8275ドルを稼いでいるか?の違いは(単純に)適切な賭け方によると言える。

 つまり、理想のシステムは存在しない。
 ケリー基準は上記の例では上手く行ったが、異なる種類のゲームではより高度なシステムが必要となるかもしれない。研究やシミュレーションを通じ、どの賭け方がベットに適してるか見分ける事も大切だ。
 また、ケリーシステムでは賭け金を計算する為にエッジを使用するので、エッジが分かっている場合に限り機能する。そうでない場合、何をするにしても困難なベットになる。
 以上、GOALからでした。


最後に

 結局は、賭け方次第という事なのだろうか。
 ケリー基準に忠実であってもボロ負けはするだろうし、シュミレーション通りに上手く行くかもしれない。
 つまり、その場その場のシチュエーションに応じた柔軟な対応が必要になる。
 例えば、上記の例でのケリー基準では投資率を少な目の10%に設定したが、通常なら32.5%になり(それだけ変動のリスクも増すが)、もっと急カーブの指数曲線を描き、儲けを出したであろうか。
 勿論、負けが混めば投資率を下げ、勝ちが続けば、上限を32.5%にして投資率を調整する。期待値とは(冒頭でも言った様に)あくまで希望的観測である。勝てばイケイケになり、負ければステバチになる。

 つまり、主観や感情に頼ればあっさりと自滅するだろうし、希望を失えば、ギャンブルの意義はなくなる。
 それでも、ケリーの掛け金方程式の有効性は今の時代でも無視できないし、そうした人間の感情の浮き沈みまでをもシュミレートする数理アルゴリズムが開発され、より強力でハイパーなケリーシステムが登場するかもしれない。
 例えば、脈拍数をセンサーが感知し、超高性能のスマホが即座に適切なベッティングを弾き出す。ある時はマーチンゲールで、ある時はケリー基準、そしてある時はダブルダウンとAIが自動判別する。
 それにケリー基準とても、ソープが駆使したベッティングシステムの1つの基本的手法に過ぎない。それ以外にもベーシック戦略やカードカウンティングを織り交ぜ、実践を通じて、攻略法を完全な形で完成させたエドワード・ソープの手腕には、やはり頭が下がる。

 そういう事を考えると、我らズブ素人は関わらない方がいいのか?
 数学がギャンブルを超える時、この世からカジノがなくなるのだろうか?
 かつて無理数の発見により、神の存在が大きくグラついた様に。高度な”ギャンブル破壊方程式”が登場した時、カジノのあり方も根底から覆されるのだろうか?



2 コメント

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はらたいらに5000点 (tomas)
2022-01-23 22:06:18
定額ベッティングが意外にも検討してますね。
それにしても、転んだサンの執念がこちらまで伝わってきます。

でも本当はギャンブルなんてガンガンやりたいんでしょ?転んだ基準なんかを開発して・・・
クイズダービーじゃないけど、はらたいらに賭けとけば、まずは安心って時期がありました。
賭け事も堅実こそが基本ですかね。
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tomasさん (象が転んだ)
2022-01-24 11:26:15
はらたいらとクイズダービーですか
とても懐かしいですね。
それに大橋巨泉サンもいました。
言われる通り、手堅く賭けるのが王道である事をあの番組で教わりました。

記事にする気はなかったんですが
週末はケリー基準とギャンブルで頭の中が一杯になり、強引に記事にしたんですが、ダラダラと締りのない判り難い説明で、これまたスミマセンです。
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