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ウォリスの無限積とオイラーの最終証明〜猿でも解る?バーゼル問題”その5”

2021年11月21日 05時41分54秒 | 数学のお話

 約1ヶ月ぶりの数学ネタで、少しボケてる所があるかもですが、ご勘弁を・・・

 ”バーゼル問題”の起源とその難関に最初に挑んだベルヌイ一家の冒険と苦難は、無限級数Q=1+1/2²+1/3²+・・・の精密な値を求めるという(バーゼル問題の)分厚い壁に果敢に挑んだ3人の数学者(ダニエル、ゴールドバハ、スターリング)に引き継がれました。
 そして、オイラーが無限級数Qの収束性を考察する為の加速法として用いた”オイラー=マクロリン級数”を使い、非常に精度の高い値(小数11位まで一致)を求めます。
 前回「その4」では、自然対数logₑx(=lnx)の級数展開を用いたオイラー自身2つ目の加速法を生み出すに至った。
 この方法だと、項数さえ増やせば幾らでも精密な値を求める事が出来、お陰でオイラーは”バーゼル問題に精密な数値を与える”という数学史上初めて”最初の楔”を打ち込みました。

 そこで今日は、”オイラー積”の起源となった?(と自分で勝手に思ってる)”ウォリスの無限積”とオイラーの第三の論文について紹介したいと思います。
 以下これまでと同じく、「バーゼル問題とオイラー」(pdf版、杉本敏夫)を一部参考にして紹介します。
 

ウォリスの無限積

 オイラーの有名な第三論文を紹介する前に、彼に潜在意識として大きく作用したと思われるウォリスの研究(1656)を見ます。
 ジョン•ウォリス(英、1616-1703、写真)は、L=∫dx√(1−xx)、(但し、x=0~1まで積分)の値を、当時(x=0~1までの)積分が可能であった∫dx√(1−(√x)ᵐ)ᵏ、(但しmとkは偶数)の値を多様に求め、それらの値を補間する事でLの値を求めようとしました。
 しかし、階乗n!(=1・2・3・・・n)でnが整数なら簡単だが、nが非整数の場合は簡単じゃない。故に上式を求めるには、階乗の(1/2)!の値を求める時のある種の”補間法”に匹敵する事を発見したのです。
 つまり、青年オイラーが階乗1・2・3・・・nに異常までに興味を抱いた事は明らかでした。
 ウォリスはその結果(中間的に)、(3/2)L>(2/3)/(3/4)L>(3/4)(15/8)L>・・・を得ます。

 これにより1/Lは、(3・3・5・5・・・13・13)/(2・4・4・6・・・12・14)√(1+1/13)>1/L>(3・3・5・5・・・13・13)/(2・4・4・6・・・12・14)√(1+1/14)ー①なる2つの不等式に挟まれる事を示しました。
 L=∫[0,1]√(1−x²)dは(円面積の1/4を求める積分で)π/4となり、明らかに1/L=4/πですね。

 オイラーは、恐らく(以下で述べる)この”ウォリスの無限積”を弄っている内に、2/π=(3/4)・(15/16)・(35/36)・・・=(1−1/4)・(1−1/16)・(1−1/36)・・・=(1−1/2)・(1+1/2)・(1−1/4)・(1+1/4)・(1−1/6)・(1+1/6)・・・なる変形に気付いたのかも知れない。
 しかし、これは(杉本氏の)身勝手な発見学的空想であり、オイラーの雑記帳などが開示されなければ確かめる事は不可能だとされる。 
 因みにウォリスの無限積(ウォリス積=ウォリスの公式)とは、∏ₙ[1,∞](2n)²/(2n−1)(2n+1)=(2・2/1・3)・(4・4/3・5)・(6・6/5・7)・・・=π/2の事で、(以下で述べる)”ウォリス積分”より得られる極限の式に帰着する。しかし、複素関数としてのsin関数の無限乗積展開の公式”πz/sinπz=∏ₙ[1,∞]n²/(n²−z²)”からの方が簡単?に導き出せます。
 事実、上の乗積展開公式にz=1/2を代入すると、ウォリス積である∏ₙ[1,∞](4n²/4n²−1)=∏ₙ[1,∞](2n)²/(2n−1)(2n+1)=π/2を得る(証明終)。
 但し、sinπzは複素平面全体で正則(マクロリン展開の収束半径が無限大)より、以下の無限次の多項式で表される。つまり、sinπzの零点(解)はz=0,±nより、sinπz=cz∏ₙ[1,∞](1+z/n)(1−z/n)=cz∏ₙ[1,∞]1/(1−n²/z²)となります。
 この両辺を微分し、z=0を代入すればc=πとなり、上の乗積展開を得る。


ウォリス積分

 一方で”ウォリス積分”での証明だが、ウォリス積分とはsinのn乗の積分の事で(sinとcosの対称性にて)、Iₙ=∫[0,π/2]sinⁿθdθ=∫[0,π/2]cosⁿθdθで定義されます。
 まず、Iₙの計算は部分積分を使い、
Iₙ=∫sinⁿθdθ=∫sinθsinⁿ⁻¹θdθ=∫(−cosθ)’sinⁿ⁻¹θdθ=[(−cosθ)’sinⁿ⁻¹θ]−∫(−cosθ)(sinⁿ⁻¹θ)’dθ=(n−1)∫sinⁿ⁻²θ(1−sin²θ)dθ=(n−1)(Iₙ₋₂−Iₙ)と変形し、Iₙ=(n−1)Iₙ₋₂/n、n≥2の漸化式を得て、これよりnの偶奇に応じて以下の様に、Iₙの値が求まります。
 nが奇数の時は、Iₙ=((n−1)/n)・((n−3)/(n−2))・・・=I₁(n−1)!!/n!!=(n−1)!!/n!!。
 nが偶数の時は、Iₙ=I₀(n−1)!!/n!!=π/2・(n−1)!!/n!!。但し、初期条件でI₀=π/2とI₁=1を使ってます。
 ここで、”!!”とは1個飛ばしの”2重階乗”を表し、nが偶数の時はn!!はnまでの偶数の積で、奇数の時は(n−1)!!はn−1までの奇数の積となります。
 一方でこの2重階乗”!!”を使えば、ウォリスの無限積は”lim[n,∞]((2n)!!)²/(2n−1)!!(2n+1)!!”で表されます。
 そこで”ウォリス積分”を使い、無限積の公式を導くには、0~π/2ではsinθ≥0よりI₂ₙ₊₂<I₂ₙ₊₁<I₂ₙを満たす事と、上で求めたIₙの値を使う。
 I₂ₙ₊₂=π/2・(2n+1)!!/(2n+2)!!、I₂ₙ₊₁=(2n)!!/(2n+1)!!、I₂ₙ=π/2・(2n−1)!!/(2n)!!となり、π/2・(2n+1)!!/(2n+2)!!<(2n)!!/(2n+1)!!<π/2・(2n−1)!!/(2n)!!の不等式を得る。
 そこで、この式に(2n)!!/(2n−1)!!を掛けると、π/2・(2n+1)/(2n+2)<((2n)!!)²/(2n−1)!!(2n+1)!!<π/2を得ます。
 ここでn→∞とすれば、”はさみ打ちの原理”により、ウォリスの無限積である∏ₙ[1,∞](2n)²/(2n−1)(2n+1)=π/2を得る(証明終)。
 以上、「高校数学の美しい物語」を一部参考にしました。

 ウォリスの無限積を書き下して計算すると、π(円周率)が登場するという摩訶不思議な発見ですね。公式には1個飛ばしの自然数の積(2重階乗)が登場しますが、この証明にウォリスは、sinのn乗の積分(ウォリス積分)を思いついたんですかね。
 このウォリスの無限積は形としてはキレイですが、収束が甚だ遅く、計算には適さない。つまり、円周率πに収束する無限積としては根号を含まず計算しやすいが、(収束が遅く)実用的ではない。
 例えば、上式①に示したn=14項までの積×平方根では、1.27498・・・>1.27323・・・>1.27172・・・しか求まらない。つまり目標の1.27323・・・(=1/L=4/π)に比べ、両側の数値はかなり遠いんですね。
 しかし(冒頭で述べた様に)、ウォリスの無限積(1656)が後のオイラー積(1737)に結びついたのも、偶然とは言えない気がするのは私だけだろうか。


正弦(SIN)関数の因数分解

 オイラーのあまりにも有名な第三論文(1734、1740)ですが、「逆数の級数の和について」でオイラーは、次の様に推理を進めた。

 ”根0を持たない、n次の方程式P(x)=0がn個の根a,b,c,,,μ,vを持つならば、P(x)=(1−x/a)(1−x/b)(1−x/c)・・・(1−x/u)(1−x/v)と因数分解される”
 そこでこの右辺を級数に展開すれば、P(x)=1−(1/a+1/b+1/c+・・・+1/u+1/v)x+(1/ab+1/ac+・・・+1/bc+・・・+1/uv)x²+・・・。
 ここで、xの係数が−(1/a+1/b+1/c+・・・+1/u+1/v)なる事に注目する。
 オイラーは大胆(無鉄砲)にも、”この有限次数の方程式の場合に成立する根と係数の関係が、無限次数の友程式にも成立する”と考えた。
 つまり正弦関数の級数展開より、P(x)=sinx/x=1−x²/1・2・3+x⁴/1・2・3・4・5−・・・ー②の無限個ある根は±π、±2π、±3π、、、であると。
 故に、この場合も因数分解であるP(x)=sinx/x=(1−x/π)(1+x/π)(1−x/2π)(1+x/2π)(1−x/3π)(1+x/3π)・・・=(1−x²/π²)(1−x²/4π²)(1−x²/9π²)・・・ー③が成立する。
 これは根と係数の関係により、有限次数の時に成立するのだが、”無限次数でも成立する”と(飛躍して)オイラーは考えた。
 つまり、②と③のx²の係数を比較し、−/1•2•3=1/π²+1/4π²+1/9π²+・・・に−π²を掛けて、とうとうバーゼル問題の本質である”π²/6=1/1+1/4+1/9+・・・”を得る。

 このオイラーが得た結果は、印刷される(1740)よりも前(1734)に手紙によって欧州
を駆け巡った。 ヨハン•ベルヌイは、”もし私の兄が生きていたなら!”と悔やんだ。
 やがて異論も現れる。
 ヤコブの甥ダニエルは、”0,±π,±2π,±3π,,,が方程式の凡ての根である事を証明していない”と批判した。
 またヤコブのもう一人の甥ニコラスも、”方程式の根±π,±2π,±3π,,,以外に実根がない事は示したが、その他に虚根が有り得ない事を証明していない”と食い下がる。
 しかしオイラーは、先の「その4」で求めた1.644934066847494なる値が、π²/6と小数11桁も一致する事 (一致の確率は1/10¹¹でしか生じないほど稀有の事とされる)から、絶対の確信は揺らがなかったのだ。

 以上、ウォリスの無限積で長引き、オイラーがバーゼル問題の本質を暴いた所で、今日は終わりにします。
 次の最終回「その5」では、オイラーの洗練されたケチのつけようのない証明を紹介したいと思います。



4 コメント

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ウォリス積とオイラー積 (paulkuroneko)
2021-11-22 03:33:31
ウォリス積はΠ(2n)²/(2n−1)(2n+1)=π/2で、
オイラー積はζ(s)=Π(pˢ/pˢ−1)で、ζ(2)=Π(p²/(p−1)(p+1)=π²/6=バーゼル問題です。
つまり、ウォリス積とオイラー積は2nがpに変わっただけで、バーゼル問題を通じて蜜に繋がってるとも言えますね。

故に、転んだサンの思い込みでもないような気がします。
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paulさん (象が転んだ)
2021-11-22 09:25:28
そう言われると嬉しいです。
確かに、Π(p²/(p−1)(p+1)=4/8・9/8・25/24・・・=(2・2/1・3)・(3・3/2・4)・(5・5/4・6)・・・=π²/6となってますもんね。
まるで、ウォリス積に瓜二つのような気もします。

それにオイラーはウォリス積を弄るうちに、(3/4)(15/16)(35/36)・・・なる変形に気づいてましたから。形としても中身としてもオイラー積によく似てますよね。
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無限解析 (腹打て)
2021-11-22 17:43:55
オイラー積が全ての素数に渡る無限積ならば
ウォリス積は有理数に渡る無限積とも言える。
オイラーはウォリス積を眺めてるうちに、無限積とπの蜜な関係に気づいたんだろうか。
無限解析の父とも言われたオイラーならではの直感だったかもだ。
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腹打てサン (象が転んだ)
2021-11-23 01:58:58
ウォリスの直感とオイラーの直感が
ほぼ見事に重なったとしか言いようがないんですが
ここら辺になると、我ら凡人には妄想を描くだけで精一杯ですね。
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