夢の中で、私はある大学の入学式へと向かっていた。
何処かで見たような大学だった。
そう、私が苦労して卒業した大学だったし、最も行きたくない大学だった。
人間とは不思議なもので、最もなりたくない人間になる。これも人生最悪の収束定理とでも言おうか。
私の前には一人の女が歩いていた。私とは一回りも若い女だった。
”アナタはこの大学の卒業生?それとも入学生?”
私は答えに戸惑った。
”不思議に聞こえるかもだが、その両方なんだ。それも自分を苦しめ続けた最悪の大学”
女はあざ笑う様に言い放つ。
”そんなに嫌なら、縁を切れば・・・”
”それが出来れば苦労はしない。今の自分の力では自分の運命を変える事は出来ない”
”運命の奴隷のまま、死に絶えるつもり?”
”いや、逆らおうと思ってもそれが出来ないんだ。何度卒業しても、この大学に舞い戻ってしまう。俺はどうしたらいい?”
女は微笑んだ。
”だったら、無視すれば?全てなかった事にするの。運命を変えたいんじゃないの”
”ああ、出来ればそうしたいんだが・・全てを無視すれば、それでうまく行くってもんでもない”
”そんなに簡単じゃない?”
”若い時は感じないけど、歳を食うと色々と考える。簡単な事かもしれないけど、運命の分厚い壁に見えた”
”入学式には出席する?”
”現実的ではないし、悪夢そのもの。卒業式も最悪だったのに、入学式なんてキロチンで処刑される様なもんよ”
”本当に嫌だったのね”
”嫌というより、運命だと諦めた。もうどうなってもいいと・・・”
”その時点で運命の奴隷です”
”囚人のジレンマ状態で、自分では最適利得を追い求めたつもりなんですが・・・”
”もうお手上げ?つまり、人生の運命の負け犬?”
”言うねぇ〜。アンタだって、この大学出てもデリヘルがやっとよ”
”言いますねぇ〜少しばかり美人だからってデリヘルはないでしょ?”
私は入学式に出席するのを辞めた。
当然の事だが、嫌な事は一回きりでいい。嫌な運命もい一回きりでいい。
私は最適戦略を選んだつもりでいた。しかし、周りはそうではなかった。
特に学部長は怒り心頭だった。
”なぜ君は出席しないんだ。それでは敵前逃亡じゃないか。それは卑怯者のする事だ”
私も怒り心頭だった。
”アンタが馬鹿だから、大学も馬鹿になる。アンタの知能は無能に過ぎない。これ以上バカと付き合うと自分が可哀想そうだ”
”タダで済むと思うなよ。この雑魚めが”
私はすでに自分を見失っていた。いや、自分を絶望なる運命から開放したかった。
私は、近くにある黒板消しを学部長の顔めがけて思い切り投げつけた。165kmとは行かなくとも140kmは出てたであろうか(嘘)。
”ウギャ〜”
黒板消しは学長の左頬をかすめ、後ろの窓ガラスを打ち破る。
顔を真っ赤に硬直させた学部長だが、落ち着き払ってはいた。
”テメエは最初から気に入らんかった。だから再び入学式に呼んだんだ。雑魚は雑魚らしく、何度も何度も負け犬の運命を受け入れろ。お前には勝ち目はない”
私は一流大出の男にトドメを刺したかった。雑魚の獰猛なる執念を男に突きつけた。
右の拳を一発アゴに見舞い、男のアングリと空いた口の下顎と上顎の間に両手を差し込み、左膝を男の後頭部に押し付け(それを支点にして)、満身の力を込めて一気に引き裂いた。
私の運命の復讐は終わった。
翌日目が覚めると、警察からの任意出頭の通知が届いている。
”夢に違いない”と、その時は思った。
運命に敗れ去った私は、人までも殺してしまった。それも無名の大学とは言え、学部長という地位のある人である。
私はある生協の食堂にいた。
すると、いつも世話になってるオバさんがやってきた。
”アンタ・・学部長を殺したんだって?”
”ああ、生きる価値すらない爺だ。後悔はしていない”
”とにかく逃げなよ。すぐに逃げなよ。逃げ回ってるうちに、時代も運命も変わるさね”
”逃げるが勝ちか・・・そうかも知んないね”
私が逃げた先は、廃墟と化しそうな古ぼけた大学の中庭だった。
私は学生が集まってる教室に忍び込んだ。
彼ら彼女らは入学したばかりだったろうか、みな初々しかった。運命や人生なんて全てがバラ色のように思い込んでるみたいだ。
その古い教室で、私は教壇に立っている。
”自分にとって最高の選択が、相手にとっては最悪の展開になる事もある。勿論その逆も真なりだ。が、運命を変えるには、最悪の戦略を選択する時もある”
”人を殺すって事ですか?”
”いや、もう1人の嫌な自分を殺すっていう意味かな。君たちがこの大学を選んだ事自体、最悪の選択なんだが、いずれ解るだろう。最悪の戦略が最悪の結末になり得ない事もあるだろう事を・・・”
生徒らは戸惑いを隠せないでいた。
そういう私は学部長を殺したお陰で、この大学の教壇に立っている。
人生の選択を誤り、運命には負けたが、結果的には悪くはない。
そうこう思ってるうちに夢から覚めた。
最後に
とても嫌な夢だったが、最後に登場した古ぼけた大学の中庭は、とても居心地が良かった。
昨晩はとても寒かったので、なかなか寝付けなかった。そんな中で見た夢だったから、奇怪な夢に映ったのだろうか。
しかし私には等身大の現実に思えた。つまり、嫌な事は繰り返される。それも永遠にである。それら負の絶望の運命を振り切るには、最適ではなく最悪の戦略を選択する必要もあるだろう。
夢の中では、嫌な学部長を殺した事で、私は教壇に立ち、生徒に向かって説教をたれていた。
学生らは”何を偉そうに・・所詮は人殺しじゃないか”って思ってたようだが、不思議と悪い気はしなかった。
そう、私は運命の復讐を遂げた事で自己満足に浸ってたのだ。それだけの安っぽい夢だった様に思えた。だが、決して不機嫌でもなかった。
老兵(と嫌な記憶)は死なずただ消えゆくのみ
多分、学部長は消え去っただけで死んではいなかったのだろう。そう嫌な運命ともう1人の嫌な自分は(嫌な手を使ってでも)その記憶から消し去るべきものかも知れない。
それだけ(肉体を含め)自分の容姿に自身があるんでしょうか・・
インテリほど自身の才能を商売にする傾向にあると思うんです。
今や娼婦って”prostitute”との言葉が使われてますが、元々は才能を活かす職業の意味で(画家や作家や男娼らも含み)、貴族社会全盛の中世欧州では軽蔑されてたそうです。
”Lost Lady"ですが
Ladyには貴婦人の意味があるから、”迷える貴婦人”となるんでしょうか。
確かに、バルザックの小説に出てくる貴婦人は殆ど娼婦ですもんね。
インテリ系の娼婦が多いと聞いたことがある
転んださんのコールガールでも紹介してたよね
むこうの女学生って性に関する倫理がゆるいのかな(--)言い換えればそれだけ自由奔放ってことだけど
デリヘルって言葉聞いて
日本もそんな国になりつつあるのかな(--)