前回「#7の1」では、第5節の前半まで紹介しました。ガロアが[定理5]で述べた”上記の条件”とは、”ガロア群に正規部分群が存在し、その剰余類群の位数が素数”という事でした。
つまり、上記の様にしてラグランジュの分解式Eを作れば、Eᵖはこの正規部分群で不変となり、求める事が可能となる。
故に、そのp乗根を求める事でEが求まり、Eを元の方程式の基礎体に添加すれば、体は拡大し、ガロア群は”上記の条件”に従い、正規部分群へと縮小する。
ここまでくれば、代数方程式の可解性の条件は99%解明された事になる。
そこで今日は、第5節の後半に入り、ガロアの最終論文の仕上げに掛かります。
この”条件”を実際に確かめると、2次方程式のガロア群はS₂(2次対称群)となり、その位数は2で、εだけが正規部分群となる。また、S₂={ε,(12)}となり、S₂=ε+(12)εと分解でき、剰余類群の位数は2となる。故に、2乗根を求める事で解ける。
3次方程式も同様に、そのガロア群はS₃(3次対称群)でその位数は6=3!で、前回「#6」で確かめた様に, この正規部分群H={ε,(123),(132)}だったので、上と同様にして、S₃=H+(12)Hと分解でき、剰余類群の位数は2となる。故に、2乗根を添加するとS₃はHにまで縮小する。
また、εは正規部分群Hにより、H=ε+(123)ε+(132)εとなり、剰余類群の位数は3なので、更に3乗根を添加すれば、Hはεにまで縮小する。故に、2と3のべき根で解ける。
結論として一般の3次方程式は、最初に2乗根を求め、更に3乗根を求める事で解ける。実際、(例3)x³+3x−2=0の根が√の上に³√が乗ってるのはその為だ。
因みに、(例2)x³+6x−2=0の3次方程式の場合、ガロア群は{ε,(123),(132)}なので、その正規部分群εに対し、{ε,(123),(132)}=ε+(123)ε+(132)εと剰余類分解される。故に、3乗根を1度求めるだけで解ける。実際にこの方程式の根には³√だけがある。
4次方程式のケース
ガロアは一般の4次方程式について以下の様に解説する。
”4次方程式の群は(4次対称群S₄の)24=4!の置換を含むが、それに平方根を添加すると方程式の群は12の置換を含む群に分解する。4次方程式の根a,b,c,dとすれば、この12の置換は、abcd,acdb,adbcとbadc,cabd,dacbとcdab,dbac,bcadとdcba,bdca,cbdaの12=3×4の置換の元を持つ1つの群となる。
更に、この群は[定理2]と[定理3]により3つに分解し、3乗根を求める事で、{abcd,badc,cdab,dcab}の4つの元を持つ群が残る。この群は2つに分解され、平方根を求める事で、{abcd,badc}の群だけが残り、最後に平方根を求める事で、4次方程式を解く事が出来る。こうして、デカルトやオイラーの解法が得られる・・・”[注記]
因みに(「前回」では省略したが)、4次対称群S₄に含まれる24個の置換(の元)は、S₄={ε,(12),(13),(14),(23),(24),(34),(123),(132),(124),(142),(134),(143),(234),(243),(1234),(1432),(1243),(1342),(1324),(1423),(12)(34),(13)(24),(14)(23)}である。
そこで、S₄の部分群としてI={ε,(12)(34),(13)(24),(14)(23)}を考えると、これに出てきてない置換を左から掛け、S₄=I+(12)I+(13)I+(14)I+(123)I+(124)IとIで右剰余類分解できる。更に(左から掛けて)左剰余分解すれば、右剰余=左剰余となり、正規部分群となる。が、剰余類群の位数が6と素数ではないので、[定義5]の”上記の条件”は使えない。
ここでガロアが指摘する様に、最初は位数12の正規部分群で分解する。但し、ガロアが書いた”acdb”は置換(abcd)→(acdb)の事で、2→3→4→2→3→・・・と巡回し、この巡回置換を(234)とする。従って、ガロアが書いた正規部分群をHとし、置換の積を使って表せば、H={ε,(12)(34),(13)(24),(14)(23),(234),(243),(132),(142),(143),(123),(124),(134)}となる。
この正規部分群の位数は12なので、S₄=H+ (12)Hと、剰余類分解され、S₄の元は全て書き尽くせる。この乗類類群の位数は2より、最初に2乗根を求め、2乗根の添加によりS₄はまず、Hに縮小する。
次に、Hの正規部分群で最大のものをH₁={ε,(12)(34),(13)(24),(14)(23)}とすると、H₁に含まれない置換(234)と(243)を掛け、H=H₁+H₁(234)+H₁(243)と、H₁で剰余類分解できるが、実際、H₁(234)={(234),(132),(143),(124)}、H₁(243)={(243),(142),(123),(134)}と、Hの全ての元を書き尽くす。
ガロアはこの順序でHの置換を調べ、剰余類分解を明示した。
また、この剰余類群の位数は3となるので、3乗根を添加するとHはH₁に縮小する。
最後に、H₁には同じ位数2の3つの正規部分群{ε,(12)(34)}、{ε,(13)(24)}、{ε,(14)(23)}がある。最初の{ε,(12)(34)}をH₂としてH₁を剰余類分解すると、H₁=H₂+(13)(24)H₂={ε,(12)(34)}+{(13)(24),(14)(23)}と、H₁の4つの元(巡回置換)が書き尽くせる。
これはガロアが並べた”abcd,badc,cdab,dcab”と一致する。
故に、剰余類群の位数は2より、2乗根を添加すると、H₁はH₂に縮小する。更に、H₂を正規部分群εで剰余類分解すると、H₂=ε+(12)(34)εを得るので(剰余類群の位数は2より)、更に2乗根を添加する事で、群は最終的にεに縮小する。この時、体は拡大体にまで拡大する。
以上の様にガロアは、4次方程式の群となる4次対称群S₄の元をHで分解し12個(=24/2)に、更にHの元をH₁で4個(=12/3)に分解し、更にまたH₁の元をH₂で2個(=4/2)に分解して、最後には僅か1個(ε)にまで分解した。
”計算(置換)の上を行く”とは、まさにこの事である。
ガロアは、この第5節で(現代風で言えば)、”方程式のガロア群に対し、単位置換{ε}に至る正規部分群の列が存在し、その剰余類群の位数が全て素数である事が方程式がべき根で解ける為の必要十分条件である”とした。
つまり、Hはガロア群Gの正規部分群であり、H₁はHの正規部分群、H₂はH₁の正規部分群、…にて、G⊃H⊃H₁⊃H₂⊃⋯⊃{ε}となり、全ての剰余類群の位数が素数である時、この条件を満たす群を、現代では”可解群”と呼ぶ。
この可解群という言葉を使えば、第5節は”方程式がべき根で解ける⇔方程式のガロア群が可解群”[定理D]と簡潔に書ける。
まとめ
以上より、ガロアの第1論文での主張を整理する。
(1)与えられた既約方程式f(x)=0の根a,b,c,…の1次式で、a,b,c,…のあらゆる置換で異なる値をとる有理式Vを作り、Vの最小多項式(ガロア多項式=分解式)を求める。
このガロア分解式=0なるガロア方程式だが、①”全ての根が任意の根の多項式で表される”②”元の方程式の根もガロア方程式の任意の根の多項式で表される”との2つの特徴を持つ。
つまり、元の方程式の係数体をV、Vの共役をV₁,V₂,…とすると、K(a,b,c,…)=K(V)=K(V₁)=K(V₂)=⋯となる。故に、ガロア方程式がべき根で解ける事と、元の方程式がべき根で解ける事とは同値で、以降はガロア方程式が主役となる。勿論、ガロア方程式が素次数であれば(次回で述べる)第8節により累乗根で解けるが、ガロア方程式は普通は素次数ではない。
(2)Vをその共役であるV₁,V₂,…に置換する操作としてガロア群を定義する。但し、(V→Vₖ)は元の方程式の根a,b,c,…の置換の一部と1対1に対応するが、a,b,c,…の全ての置換と対応してる訳ではない。従って、a,b,c,…の全ての置換は対称群となるが、ガロア群はその部分群に過ぎないし、以下の2つの特徴がある。
①ガロア群の置換で不変⇔基礎体の元。
②ガロア群の置換は拡大体の演算を保持する。つまり、θ(V)=0⇔θ(Vₖ)=0を満たす。
(3)ガロア群の部分群が正規部分群である時に限り、剰余類が群を成す。更に、剰余類群の位数が素数pであれば([コーシーの定理]により)、剰余類群は(12…p)を生成元とする巡回群となる。
ここで、正規部分群の置換で変化せず、その他の置換で変化するVの多項式をθとし、それぞれの剰余類の置換でθがθ₁,θ₂,…と変化したとする。つまり、置換を施す度にθはθ₁,θ₂,θ₃,…と変わり、p回施せばθに戻る。
この時、θ,θ₁,θ₂,…によるラグランジュの分解式Eを作る。そこで、1の原始p乗根(xᵖ=1なる1以外の根)をζ=cos(2kπ/p)+isin(2kπ/p)とし、E=θ+ζθ₁+ζ²θ₂+…+ζᵖ⁻¹θₚ₋₁とすると、「#4-1」でも詳しく述べたが、剰余類群の置換は巡回置換であり、その置換によりζの何乗かが変わるだけで、EはζᵏEへと変化する。従って、剰余類群の置換でEᵖは変化しない。
つまり、Eᵖは基礎体に含まれ、そのp乗根を求める事でEが求まる。そこで、もとの体にEを添加すれば、体は拡大し、ガロア群はその正規部分群へと縮小する。
(4)方程式のガロア群Gに、”G⊃H⊃H₁⊃H₂⊃…⊃{ε}”の様な正規部分群の列H,H₁,H₂,…が存在したとすると、それぞれの剰余類群の位数が素数である時に限り、上記の(1)(2)(3)で述べた方法により、方程式はべき根で解ける。この条件を満たす軍を可解群と呼ぶ。
つまり、第1論文の結論は”方程式がべき根で解ける為の必要十分条件はガロア群が可解群”となる。
最後に
一方で、ガロアの第1論文の偉業を2言で纏めれば、正規部分群の発見(第3節)と対応定理(第4節)にある。
但し、ガロアが最も苦悩した第2節での”補助方程式の根を添加した場合にガロア方程式がどの様に変化するか”を検討し、正規部分群を発見する経緯ですが、正規部分群の存在が最初から判ってれば、この節は無視出来るのですが、17歳のガロアには確信がなかった。だが、20歳のガロアは敢えてこの節を遺した。
これも500年先を見据える天才が持つ優しさなのだろう。
後者の対応定理ですが、これはガロア群と拡大体が1対1対応する事で、これにより一気に正規部分群の定義から方程式の可解性へと突き進みます。
更にガロアは、(4)で挙げた代数的可解性の条件の応用として、素次数の既約方程式がべき根で解ける為の必要十分条件が”方程式の全ての根が任意の2根の有理式で表される”事も示している。
これに関しては、ガロアの第1論文を審査したポアソンが”ガロア君の主張が正しいとして、可解性を判断する為には根が判ってなければ一歩も進めないではないか”と突っぱねた。
確かに、従来の数学では解を求める事が全てであった。だが、未来の数学は解を求める事自体が困難になる領域にまで達しようとしていたのだ。
既にガロアは、代数的関数を超えた楕円関数などの超越関数の研究にコマを進め、計算を行わずに解法を求める為の構造を追究していた。つまり、若干17歳のガロアはポアソンのずっと先を見つめてたのである。
江戸時代は算木(さんぎ)と呼ぶ小さな角棒を用いて、方程式を解いたらしいです。
まるで、麻雀をやるような感じで数学に接したんでしょうね。
お陰で、学問だけでなく娯楽としても、広く庶民の中に一気に普及・浸透します。
日本で未だ数学が広まらないのは、受験一辺倒で遊びの部分がないからでしょうか。
チンプンカンプン
全くお手上げです
転象さんは天才
ワシは中学2年の
連立方程式で終了
「アルキメデスの戦争」には
チト興味あるけどね〜😁