象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

フェルマーの最終決着”4の1”〜ラメとコーシーの大騒動とクンマーの参入

2021年07月26日 04時53分19秒 | 数学のお話

 前回「その4」の追記や編集を繰り返してたら、1万字を優に超えるボリュームになったので、4つ程に分けて再投稿します。
 そこで「その4」はそのまま残し、追加の形で紹介していきたいと思います。
 クンマーが研究した円分体とそのイデアル類類数の理論は、その後のイデアル論の基礎となるものを確立し、L関数のp進解析にまで推し進めます。
 クンマーの円分体と理想数(イデアル)の概念は一般の代数体の場合へとデデキントとクロネッカーにより拡張された。つまり、代数的整数論はここにて一般論の基礎が確立され、(クロネッカーの)類体論へと繋がっていく。

 ウィキでは、クンマーは計算が苦手と紹介されてますが。類数の計算を見る限り、遥か神の領域にある事は明白で、終生計算を続けたとされます。
 前回は、クンマーの偉業の外枠を述べたにすぎず、類数などのややこしい整数論の技法を紹介する必要があります。つまり、クンマーの代数的整数論なくしては、フェルマーの最終決着は有り得なかったと思う。
 前回とダブる所が多々ありますが、ご勘弁をです。今回も「整数論の源流」(足立恒雄著)を参考にしてます。
 

ラメの主張とリューヴィルの指摘

 前々回「その3」では、フェルマーの大定理の証明の基礎を築いたソフィー・ジェルマンの生涯と華麗なる定理について述べました。
 そのジェルマンの定理を受け継いだラメとコーシーの大騒動について述べますが。特に前半は前回とダブりますから、復習のつもりで軽く流して下さい。

 1847年3月1日、FLT(7)を証明したガブリエル・ラメ(1795-1870、仏、イラスト左)は、パリ学士院の集会で”とうとうフェルマーの大定理を証明した”と興奮した様子で語った。
 この証明には、xᵖ+yᵖ=(x+y)(x+ζy)・・・(x+ζᵖ⁻¹y)という因数分解(の一意性)を基本アイデアとした。
 因みに、ζは1の原始p乗根(p乗して初めて1になる複素数の解)で、ζ=cos(2π/p)+isin(2π/p)=e^(2πi/p)と書ける(ド・モアブル)。
 また、ζʲ(j=0,1,2,...,p−1)が1のp条根の全てであるから、xᵖ−1=(x−1)(x−ζ)・・・(x−ζᵖ⁻¹)となり、xᵖ+1=(x+1)(x+ζ)・・・(x+ζᵖ⁻¹)も成り立つ。
 これから、xᵖ+yᵖ=(x+y)(x+ζy)・・・(x+ζᵖ⁻¹y)という因数分解が導ける。但し、これはクンマーも使った分解式でもある。

 ラメは、このp次円分体Q[ζ](有理数Qにζを添加した体)上での因数分解をリュービル(仏)との対話から思いつき、栄誉を分け合いたいと熱狂した。
 しかしリュービルは、”一流の数学者(ラグランジュ、ガウス、ヤコビら)ならそんな因数分解は思いつくものだ。それに複素数での素因数分解の一意性を用いているが、その根拠が不明だ”として、ラメの証明を拒絶した。
 最後に講演に立ったのはコーシー(仏)だったが、彼は”数ヶ月前にその因数分解を思いついてたが、忙しくてFLTの証明に取り掛かるのが遅れた”と、言い訳がましく主張した。
 このコーシーは、クンマーの一連の偉大な功績にまでしつこく異論を挟むのだが。


ラメvsコーシーの大論争とクンマーの手紙

 それからが大論争の始まりである。
 ラメはリュービルの指摘を認めたが、明確に解決できるものと踏んでいた。
 一方コーシーは、この問題について一連の論文を発表する。
 息詰まる鍔迫り合いが展開する中、5/22にリュービルはクンマー(独)からの手紙を受け取り、事態は一転する。
 リュービルはディリクレ(独)と仲が良かった。一方、エルンスト・クンマー(1810-1893、独、イラスト右)はディリクレの弟子で親友でもあった。故に、ディリクレからパリの喧騒を聞いたクンマーは、リュービルへ手紙を書いたのだ。
 事実、ドイツの整数論に通じてたクンマーは、既にフェルマーの大定理の研究に関して大きな成果を挙げていた。
 手紙の内容は、”自らが発見した理想数(イデアル)という概念を使えば、素因数分解の一意性に関するリューヴィルの指摘は正しい”というものだった。その上、”自分はフェルマーの大定理を2つの条件に還元する事が出来た。後は2つの条件を全ての素数が満足するかをチェックするだけだ”とも語った。
 詳しく言えば、xⁿ=1の根から構成される複素理論で、素因数分解の一意性という本質的命題は、a₀+a₁x+・・・+aₙ₋₁xⁿ⁻¹の形の合成複素数を使ってる限り、一般には起こらない。しかしクンマーの理想複素数を使えば、一意性を解決できると。
 彼が1844年に発表したこの画期的偉業は、ベルリンアカデミー(1846年3月)に紀要され、そして、xⁿ+yⁿ=zⁿの不可能性(FLT)を素数nの2つの性質を関連付ける所まで成功していた。

 この手紙はリューヴィルの雑誌に搭載された(1847)が、流石のラメも完全に黙り込んだ。そしてコーシーもしばらくは抵抗したが、夏の終わりには沈黙した。
 そこでラメの因数分解の矛盾を正してみよう。


ラメの矛盾した証明

 ラメは1のp乗根ζを使った(前述の)p次円分体Q[ζ]で証明を試みたが、ここは簡単の為に、ζを1の3乗根(≠1)とする。
 ζはx²+x+1=0の根より、ζ=((−1±3i)/2)。
 この時、x³+y³=(x+y)(x+ζy)(x+ζ²y)ー①が成立。これは、x³+y³=(x+y)(x²−xy+y²)で−ζ,−ζ²がx²−x+1=0の解だからである。
 いま、x³+y³=z³ー②に整数解x,y,z(≠0)が存在したと仮定すれば、①により(x+y)(x+ζy)(x+ζ²y)=z³ー③が成立する。
 つまり、Z[ζ]という(後に述べる)”整数環”の世界で因数分解が得られた事になる。
 そこで、③の左辺の3つの因数がZ[ζ]で互いに素(公約因数を持たない)と仮定すると、積は立方数だからそれぞれの因数も立方数になる。故に、x+y=3乗数、x+ζy=3乗数、x+ζ²y=3乗数ー④となる。
 これより、ラメは②式の整数解を作り出し、”無限降下法”により、仮定の矛盾(整数解にはなり得ない)を示し、フェルマーの大定理の証明とした。

 しかし、この証明には少なくとも2つの大きな欠陥がある。
 1つ目は、積が立方数として各々が立方数である事が結論づけるのか?これは”素因数分解の一意性の問題”でもある。
 2つ目は、一意性がたとえ言えたとしても、④の様には書けないし、”単数”(1の約数)の問題が大きく絡んでくる。

 例えば、整数Zの世界では単数は±1だけで有るが、Z[i]ではx+iy=ε(u+iv)²と表せ、ε(単数)=±1,±iとなる。しかし、Z[√2]では(1+√2)(−1+√2)=1で、(1+√2)は単数となる。故に(√2+1)ⁿ(√2−1)ⁿ=1で、(√2±1)ⁿは全て単数となり、Z[√2]には無数に単数が存在する(ディリクレ、1846)。
 この様に、ZとZ[i]とZ[√2]とでは大きく単数の構造が異なる。よって、互いに素なα,βに対し、αβ=p乗数ならば、α=ε₁×(p乗数),β=ε₂×(p乗数)が結論できるか?という大問題が発生する。 


クンマー登場

 以上の様に、ラメやコーシーの証明は成功しなかったが、整数論から代数的整数論へ発展する際に解決すべき問題を洗いざらしぶち巻けたという点では、大きな役割を果たしたとも言える。
 それに、後述のクンマーがすんなりとこれら難関を解決した訳でもない。
 クンマーは理想数(イデアル)の概念(同値関係)を導入する事で難関を突破したとされるが。しかし実際には、”素元分解の一意性”を(正しいと)仮定したとても、”単数”に関する深い考察なくしては、フェルマーの大定理の”第一の場合”しか解決出来ない。
 それに加え、”類数”(因子類群の位数)の概念と類数公式の決定など、乗り越える難関は山ほどあったのだ。

 クンマーの実質上の師匠は、FLT(5)を証明したディリクレであり、彼とヤコビの推薦でクンマーがブレスラウ大の教授に就いた当時、ドイツの整数論の主要なテーマは、フェルマーの大定理よりもガウスの平方剰余の相互律の一般化にあった。
 因みに、x²≡a(mod p)が解を持つ時(a,p互いに素)、aはpを法として”平方剰余”と呼び、解の判定法を平方剰余の”相互法則”と呼ぶ。
 ルジャンドル記号(a/p)を使い、(a/p)=1の時は解を持ち、(a/p)=−1の時は解を持たない(非平方剰余)。これは元々オイラーが発見したもので、”オイラーの基準”とも呼ばれ、ガウスが証明します。更に、3次や4次の法則はヤコビやアイゼンシュタインが独立に与えた。

 そこでクンマーは、ヤコビの相互律を発展させる為に、円分整数の因数分解について研究し、p≡1(mod l)ならばpは一意的に素元分解される(p,l:素数)と勘違いする(1844)。これはヤコビにより誤りが指摘され、l=23の所で矛盾が出る事に気づく。
 しかしクンマーは、理想数を使えば部分的にではあるが、素因数分解とその一意性が回復される事を示した(1845)。
 つまりクンマーはこの時点で、フェルマーの大定理を証明できると踏んだのだ。その時、上述したラメ=コーシー騒動(1847)を師のディリクレを通じて知り、リューヴィルに手紙を出したのである。
 理想数を発見してからのクンマーの勢いは奔流のごとく、素因子類群の有限性の証明、単数群の構造、類数公式、p進数の導入、ベルヌーイ数の研究へと繋がっていく。



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