前回「#8-1」では、第6,7節でのガロアの主張である”素次数の既約方程式がべき根で解ける為の必十条件は、全ての根がその中の2つの根により有理的に表される”事を紹介しました。
ガロアは、”素数次既約方程式がべき根で解けるならば、その方程式の群はxₖ、xₐₖ₊ₑの形の置換のみを含む必要がある”としたが、その逆も示す事で、”素数次既約方程式がべき根で解ける為の必要十分条件は、全ての置換がk→ak+eの形になる”[定理E]事を証明した。
前回でも注意した様に、本当はeではなくbとした方が自然で判りやすいが、bの下付き文字がなく、eとする。
一方で、5次方程式のガロア群はS₅だが、この形で表現できない置換が存在する。故に、一般の5次以上の素数次既約方程式はこうした置換を含み、べき根では解けない。勿論これは既にアーベル証明した事だが、第7節の[定理7]の必要条件(⇒)を使えば、ずっと簡単になる。
もう1つの必要十分条件
ガロアは最後の第8節で、素次数の既約方程式がべき根で解ける為のもう1つの必要十分条件を提示した。
”素次数既約方程式がべき根で解ける為には、任意の2つの根がわかった時、その他の根から有理的に導かれる事が必要十分である。
第1に、それは必要である。何故なら、置換xₖ、xₐₖ₊ₑは決して2つの文字を同じ場所に置かないからである。第4節によれば、方程式に2つの根を添加すれば、明らかに群はただ1つの順列のみを含む所まで縮小する”[定理7]
つまり、ガロアは”素次数の既約方程式がべき根で解ける⇔根の任意の2根により他の根を表せる”と主張した。
この主張は[定理E]により”全ての置換がk→ak+eの形になる⇔根の任意の2根により他の根を表せる”と書き換える事が出来る。
ここで、ガロアと同様に(⇒)を示す。
”根の任意の2根により他の根を表せる”とは、”任意の2根を係数体Kに添加すれば、Kがガロア拡大体にまで拡大する”との意味で、与えられた方程式の根をx₀,x₁,x₂,…とすると、”K(xᵢ,xⱼ)=K(x₀,x₁,x₂,…)が成立する”事を意味する。
K(x₀,x₁,x₂,…)上の元は、x₀,x₁,x₂,…の有理式で表され、それを動かさない置換はεだけである。
一方で、[定理4]の”1つの方程式に、その根の有理式の値を添加すれば、その方程式の群は、この有理式を不変にする順列以外は含まない様に小さくなる”に沿えば、当然だが”x₀,x₁,x₂,…を添加すれば、方程式の群はεになる”と言える。同様に、xᵢ,xⱼを添加して方程式の群はεになれば、方程式は解け、K(xᵢ,xⱼ)=K(x₀,x₁,x₂,…)となる。
では実際に、xᵢ,xⱼを添加した時、方程式の群はどうなるのだろう。[定理4]に沿えば、”この有理式を不変にする順列以外は含まない”。つまり、xᵢ,xⱼを固定する順列のみになる。
そこで、”xᵢ,xⱼを動かさない置換はεだけである”事の証明だが、仮に、xᵢ,xⱼを動かさない置換があったとすると、このガロア群の置換はk→ak+eだから、modnで、ai+e≡i、aj+e≡jとなる。この2辺を引き算し、両辺にその逆数(i−j)を掛け、a≡iとe≡0を得る。
従い、xᵢ,xⱼを動かさない置換はk→kとなり、εだけとなる(証明終)。
”第2に、それは十分(⇐)である。この場合、群の全ての置換は2つの文字をその場に留めないだろう。従って、群はn(n-1)個以下の置換を含むであろう。故に、群はたった1つの巡回置換を含む(でなければ、少なくともn²以上の置換が存在する)。
従って、群の全ての置換xₖ,xₕₖは、h(k+c)=hk+Cを満たす必要がある。それ故、云々・・定理は証明できた”
ガロアは、最後に”云々”として証明を完全に抜かしている。そこで、証明を補完する。
方程式のガロア群Gのうち、x₀を動かさない置換の集まりをHとすると、x₀を動かさない置換に続き、x₀を動かさない置換を行っても、やはりx₀を動かさない置換になるので、Hは群となる。例えば、前回「#8-1」で考察したβを生成元とする群がその1例である。
そこで、GをHで右剰余類分解すると、G=H+Hτ₁+・・・となり、τ₁をx₀→x₁の置換とすると、Hτ₁はx₀を変えない置換に続き、x₀→x₁を行うので、結局はx₀→x₁の置換となる。
次に、τ₂をx₀→x₂の置換とすると、G=H+Hτ₁+Hτ₂・・・となり、これを続ければ、最後はx₀→xₙ₋₁の置換をτₙ₋₁として、G=H+Hτ₁+Hτ₂・・・+Hτₙ₋₁を得る。
故に、|G|=n|H|となり、Gの位数はn×(Hの位数)が解る。
そこで、Hの位数を考える。Hに含まれる置換はx₀を動かさないが、他の根をx₀に動かす事はあるのだろうか?
例えば、τ:xᵢ→x₀とすると、τ⁻¹:x₀→xᵢとなるが、τ⁻¹もHに含まれるので、x₀を動かさない事に矛盾。故に、他の根をx₀に動かす事もない。
また、(1234)→(3142)と(1234)→(3421)の様に、x₁の行き場所が同じでも異なる置換は存在するのか?
例えば、x₀を動かさない2つの置換τとσが共にx₁をx₂に動かす仮定する。そこで、τ:x₁→x₂、σ:x₁→x₂とすると、σ⁻¹:x₂→x₁より、τσ⁻¹はx₁→x₂→x₁と置換するので、x₁を動かさない。τもσもHに含まれるので、τσ⁻¹もHに含まれ、x₀を変えない。故に、τσ⁻¹はx₀もx₁も変えない置換となる。つまり、この様な置換はεだけであり、τσ⁻¹=εよりτ=σとなる。
従って、Hに含まれる置換は、x₁をx₂に動かす置換はあっても1つで、x₁をx₃に動かす置換はあっても1つ、・・・、となり、置換の数は多くともn−1個となる。故に、|G|=n|H|より|G|≤n(n−1)となる事が解る。
事実ガロアは、”群はn(n-1)個以下の置換を含むであろう”と書いている。
ここで、「序章」で[コーシーの定理2]”群Aの位数が素数pで割り切れれば、群Aは(0 1 2 … p−1)という長さpの巡回置換を含む”を紹介した。但し、この定理を一歩進んで一般化した[シローの定理]があるが、少しややこしいので、この定理を使う。
まず、|G|=n|H|より(nを素数とすれば)、Gの位数は素数nで割り切れ、Gは(0 1 2 … p−1)という長さnの巡回置換を持つ。ここで、長さ2の巡回置換が2種類あれば、少なくともn×n=n²個の置換がある筈だが、Gの位数がn(n-1)以下なので矛盾。
そこで、Gに含まれる長さnの巡回置換の1つ(0 1 2 … n−1)をsとし、sを生成元とする群をNとすると、N={ε,s,s²,s³,…,sⁿ⁻¹}と出来る。
Gには長さnの巡回置換は1種類のみなので、長さnの巡回置換は全てNに含まれる。ここで、Gの任意の元をτとすると、τsτ⁻¹の置換ではsの置換の型は変わらない。これは、長さnの巡回置換s=(0 1 2 … n−1)=(0 n−1)(0 n−2)⋯(0 1)と、(n−1)個の互換の積になる事より、理解できます。
故に、τsτ⁻¹は長さnの巡回置換であり、Nに含まれる。従って、Nは全体の群に対し、正規部分群になる。つまり、方程式のガロア群に含まれる任意の置換τに対し、τsτ⁻¹=sᵃとなる。
ここで、s:x→x+1、τ:x→τ(x)として、前と同様の考察をする。τsτ⁻¹はτ(x)→x→x+1→τ(x+1)と変換するので、τsτ⁻¹:τ(x)→τ(x+1)―①となる。一方で、sᵃ:x→x+aとでき、sᵃ:τ(x)→τ(x)+a―②を得る。
従って、τsτ⁻¹=sᵃと①②より、τ(x+1)≡τ(x)+aを得る。そこで、τ(0)≡eとおくと、τ(1)≡τ(0+1)≡τ(0)+a≡e+a、
τ(2)≡τ(1+1)≡τ(1)+a≡e+2a、
τ(3)≡τ(2+1)≡τ(2)+a≡e+3a、
⋯⋯⋯⋯⋯
τ(x)=ax+eを得る。
故に、”それゆえ云々”となる(証明終)。
以上を定理の形に纏めると、”素次数既約方程式がべき根で解ける⇔全ての根が任意の2根の有理式で表せる”[定理F]と出来る。これは、[定理E]の必要十分条件が”全ての置換がk→ak+eの形になる”事と同義である。
最後にガロアは、5次方程式のガロア群の例を上げて締め括っている。
”[定理7]の例
n=5とすると、群は次の様なものであろう。
(abcde),(bcdea),(cdeab),(deabc),(eabcd)
(acebd),(cebda),(ebdac),(bdace),(daceb)
(aedcb),(edcba),(dcbae),(cbaed),(baedc)
(adbec),(dbeca),(becad),(ecadb),(cadbe)
この群をよく見ると、前回「#8-1」の第7節で書いた(巡回置換の)群と中身は同じだが、順列の並べ方が異なる。但し、(abcde)を(01234)と見れば明らかである”
故に、ガロアはN={ε,α,α²,α³,α⁴}として、GをNで剰余類分解したものを並べた。
つまり、G=N+Nβ+Nβ²+Nβ³の順に並んでいる。但し、α:x→x+1、β:x→2xであった事に留意する。
事実、ε=(abcde),β=(acebd),β²=(aedcb),β³=(adbec)の順になっている。詳しくは、前回「#8-1」の上図を参照。
一方で、この20個の元の群こそが、べき根で解ける5次方程式が持つ、最大の群である。だが、一般の5次方程式のガロア群の元の数は120個なので、べき根で解けない事の別証明でもある。
更に言えば、一般の5次方程式のガロア群は平方根を添加する事で位数60までは縮小できるが、それでも位数20には届かない。
つまり、一般の5次方程式は代数的には可解になり得ない事が判る。
最後に
以上、「ガロアの論文を読んでみた」(金重明著)を忠実に、全12話に渡ってガロアの最終論文を項を1つ1つ踏む様に紹介しました。
時代を超越したこの論文の中には、置換の定式化に始まり、ガロア群から正規部分群の発見を経て、方程式が代数的に解ける為の必十条件を発見した過程が書かれている。一方、簡潔で省略の多いガロアの記述ですが、高校数学でも理解できる様にと著者の金氏は語るが、実際に書いててそんなヤワじゃない事を思い知る。
アーベルは方程式の解の置換に着眼し、背理法を使って5次方程式の中に代数的に解けないものが存在する事を示した。解の置換については、ルフィニもコーシーも気づいてたが、証明する事は不可能だった。
ガロアは更にその先を飛び、(秋山仁氏風に言えば)”与えられたn次方程式にて、解に関する置換群を作り、その群を可能な限り簡単な群に連鎖的に分解し、その過程で分解された群が全て素数回の操作で元(恒等置換)に戻る巡回群となるならば、元の方程式は代数的に解ける”事を発見し、証明した。
確かに、ガロアの記述は画期的だったが難解であり、置換群とかその分解とか、巡回群への連鎖的分解とか、そうした事の意味は解明されてはいなかった。
事実、ガロアの死後20年程は、この理論を理解してる人は殆どいなかった。E・T・ベルによれば、中でもクロネッカー(1823-91)は、40年代後半にガロア理論の体系に深く通じてた唯一の数学者であったとされる。
このクロネッカーの研究により、ガロア理論は代数学者の共有財産となり、体論や類体論の公理的主義的な定式化及びその拡張の源を辿ると、結局はガロアの元に行き着いてしまう。
こうしたベルの考察は、ガロアの威光を端的に表してると思える。
殆どわかりませんでした(?_?)
でもガロアっていう人
数学の上を跳ぶ人だったことだけは
ナーンとか理解できました(*_*)
少し後悔しています。
過去に色々と紹介したんですが、これとして明確に最後まで理解できたものはありませんでした。
だったら原文を読んで、ガロアに少しでも近づこうと、手にしたのが「ガロアの論文を読んでみた」でした。
言われる通り
置換論を理解するのは、ハードルが高過ぎますよね。
コメントありがとうです。
ルフィニの議論を受け継ぎ、独自の置換論を花咲かせたコーシーですが、そのコーシーの議論を引き継ぎ、ルフィニの穴を埋めて代数的非可解性を一般化したのがアーベルでした。
そして、アーベルの理論を更に進め、代数的可解性を完全化したのがガロアとも言えますね。
全12話完結、お疲れ様です。
理解し難い記事を12回も書いて、少し反省する所もあります。
ガロア群に関しては
過去に「方程式のガロア群」と「天才ガロアの発想力」を参考に紹介しましたが、共に途中で頓挫しました。
「ガロアの論文を読んでみた」は目を通した事あったんですが、置換が壁になり敬遠してました。
が、ガロア群の本質を見抜くには原文(翻訳)を項を踏む様に読むしかないと、今回の12話に至りました。
最後まで辿り着いたという安堵感と、ガロアによる代数的可解性の完全化が、アーベルにはどう見えたかが非常に気になります。
そこで今、「アーベルの証明」(山下純一訳)を読み、アーベルの本意を探ってる所です。
結局、アーベルもガロアと同じ景色を見てたんですが、その途中で夭逝した。
これも後々、記事にしたいと思います。
色々と応援してくれてありがとうです。
代数方程式の非可解性を証明したと思うのですが、コーシーの置換論にも強く惹かれました。
そのコーシーもルフィニの論文を土台に、有名なコーシーの定理を生み出すのですが、そのガウスもコーシーも辿り着けなかった極みがアーベルとガロアには見えてたと思う。
つまり、ガウスの代数学の基本定理を係数が有理数バージョンを更に一歩進め、明確にしたものが、アーベルやガロアの代数的非可解性の証明とも言えるのでしょうか。
微妙ですが、いい表現だと思います。
ガウスも自身が発見した円周等分方程式で、既約方程式が代数的に解けるという例外には気付いてましたが、それを一般化するまでには到達してなかったと思います。
アーベルはガウスの腹の中を見て、その上を進もうとしました。
一方で、ガロアはアーベルの背中を見て被さる様にして、アーベルの議論を更に推し進めました。
一方で、仲間外れの感があるルフィニですが、彼がいなかったらコーシーの置換論はなかった筈ですし、アーベルの代数的非可解性の証明も頓挫してたでしょうか。
何時もコメント勉強になります。