象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

フライボール革命で復活した選手たち、Jターナーとドジャースとアストロズ〜飛ぶボールがフライボールを加速する?〜

2019年04月19日 03時00分49秒 | スポーツドキュメント

メジャーの厳しい現実

 2006年のMLBドラフト7巡目(全体207位)でシンシナティに入団。その2年後にはボルチモアへトレード。もうこの時点で、ジャスティン•ターナーの野球の運命は決まっていた。

 事実、翌年の9月にメジャー初ヒットを放つも、翌々年の5月にはクビ(戦力外通告)となる。まるで絵に描いた様な不遇の野球人生だ。しかし、メジャーの大半の選手が、いや9割以上の若き有望株が、こういった不遇のキャリアで呆気なく夢を閉じる。

 メジャーの世界は、私たち日本人が思う以上に厳しい世界なのだ。それは今、二刀流で脚光を浴びてる大谷も例外ではない。彼もここ数年で数字を残せなければ、クビは現実のものとなる。ファンには悪いが、大谷が肘の怪我から復帰できる可能性は低いと思う。

 イチローが日本のプロ野球を経由せずに、高卒後そのままメジャーに行ってたら、通算安打の世界記録は勿論、メジャーリーガーになる事さえ、ターナーの様にメジャーで不遇の人生を歩む事さえ、夢のまた夢であったろうか。
 しかしイチローは、日本のプロ野球で運良く大ブレイクし、ポスティングでメジャーに渡り、スター選手として迎え入れられ、その後の活躍は誰もが知る所だ。


J•ターナーの不遇と幸運と

 さてとそのターナーだが、クビになった5月にウエーバー(自由契約)を経てNYメッツと契約し、その翌年の2011年5月にはルーキー大賞に輝くも、内野の控えが精一杯で、2年後の2013年終了時には再びクビ(自由契約)になる。全くこれまた絵に描いた様な不遇の野球運命だが、人生も同じで一度悪い癖がつくとなかなか逃れられない。

 翌年の2月、ドジャースとマイナー契約を結ぶと、彼の運命は180度変わった。3月にメジャー契約を結び、内野ユーティリティだが、109試合で打率.340を記録し、レギュラーに定着する。野球の神様は彼を見捨てはしなかった。奇跡とは起こすものではなく起きるもんだ。

 しかし本当に存在したのは、神様ではなく、タブーとされた”打撃革命”だった。


J•ターナーの打撃革命

 ”メッツにいた頃(2010〜13)は、メジャーに残る事で精一杯だった。そんな時、チームメートのマーロン•バードから、何故スイングを変えたのかを聞いた。それでちょっと試してみたんだ。今までは、上からボールを叩きつけてた。子供の頃からそうやって教えられてきたんだ。しかしバードは、下からバットを振り抜いていだ”
 
 ターナーは見よう見まねで試してみた。いきなり結果が出た。

 ”今でも覚えているさ。9月のクリーブランドで2本のホームランを打った。その後、ワシントンでセンター直撃の二塁打を打ったんだ。その時、「オレの体に何が起きてる」と思ったよ。そこで、もっとこのスイングを突き詰めたいと思ったんだ”


フライボール革命との出会い

 オフに入るとターナーは、バードを指導したダグ•ラッタの元を訪ねた。まさにこれが運命の出会いであり、フライボール革命との出会いだったのだ。

 ロサンゼルス郊外でアマチュア選手を中心に教えている元高校野球部コーチだ。彼によるフライを打つという指導は長く亜流だった。今でもメジャーでは”なかなか受け入れられない”と語る。勿論、その年(2013)で契約が切れたターナーに失うものは何もなく、徹底的にスイングの改造に取り組んだ。

 結果が出るに時間は掛からなかった。14年以降の活躍は上述した通り。ドジャースとのマイナーからスタートし、29歳で覚醒した。

 実はマーロン•バードも、その前年(2012)にラッタから指導を受けていたのだ。2012年彼は、禁止薬物の使用で50試合の出場停止処分を受け、ターナー同様に野球人生のどん底にいた。

 このままでは行き場がない。彼にも失うものはなかった。”ボールをたたきつけろ”という従来の鉄則を捨て、”フライボール”に望みを託した。結果はターナーと同じだった。35歳で迎えた2013年にキャリア最多となる24本塁打をマークした。つまり打撃の神様は2人いたのだ。


フライボール革命のその後

 話を元に戻します。
 フライボール革命で復活したターナーは、2015年には三塁手に定着し、自己最多となる126試合に出場、打率.294、16本塁打、60打点と安定した。2016年は151試合に出場、8年目で初めて規定打席に到達、27本塁打、90打点を記録し、ドジャースと4年総額6400万ドルで契約を結ぶ。2017年には念願のオールスターにも初選出され、MLB史上最多となる2080万票を集めた。

 このフライボール革命元年ともなった2013年だが。偶然にも同じ頃、J•D•マルティネス(BOS)、ジョシュ•ドナルドソン(TOR)らが長距離砲として名を馳せる様になる。その後、クリス•ブライアント(CHC)、コディ•ベリンジャー(LAD)、クリス•デービス(OAK)ら多くの若い選手らが、新世代のフライボールスラッガーとして君臨する。

 ”フライボール”の流れが加速するのは、フライの方が得点に繫がるというデータの裏付けがはっきりしてきたからだ。事実、2015〜17の以下のデータが全てを物語る。
 ゴロ、打率.249、長打率.270、wOBA.228。フライ、打率.235、長打率.735、wOBA.381。但し、wOBAは得点への貢献度を示す。
 結局、”イチロー革命”は革命ではなかったんですな(悲)。


アストロズのフライボール革命

 こうしたデータに早くから目をつけたのが万年最下位のアストロズだ。2011から3年連続で年間100敗を喫していた彼らにも何も失うものはなかった。2011年12月にジェフルーナウがGMに就任すると、フライボールを核としたデータ分析は、チーム復活の要となる。

 “ランチアングルガイ(launch angle guy)”という言葉もそんな中で生まれた。打球の角度を意識して打つ打者を指し、そこに打球の初速を組み合せる事で最強のデータとなる。
 打球初速が158キロで、打球角度(ランチアングル)が26〜30度が理想で、この条件を満たす打率は.822、長打率は2.386という驚異的な数字を弾き出す。

 こうしてアストロズもドジャースも見事な復活劇を成し遂げたのですな。

 フライボールの有効性、そして”どんな打球を放てばいいか”が明らかになってきた事で、メジャーリーグではいわゆる「フライボール革命」に拍車が掛った。実際、2017年にはMLB歴代最多の本塁打数(6105本)を記録する事となる。


フライボール理論の是非

 事実、年々進化する守備シフトも、データ分析が進み、最近は打者ごとに極端な守備位置が敷かれる。これまで内野手の間を抜けていたゴロが、簡単に捕球される時代になった。

 17年にナリーグ最多213安打を放ったブラックモン(COL)も、”強い打球を打っても、野手のシフトの正面を突く、ならば内野を越える打球を狙った方がいい”と語る。アッパースイングに改良した後は、打率と本塁打共に自己最高を記録した。

 前述したJDマルチネスも、”コーチはライナーでセンター返しをしろと言う、しかしそれではシングルにしかならない。数字は嘘をつかない、フライボールの方が数字は良くなる”と語る。
 以降マルティネスは、旧来の打撃指導に疑問を持ち、一流打者のスイングを分析。彼らの多くがアッパースイングであると気づき、大きく成績を向上させた。

 今そこにあった常識が危機となるのか?それともタブーこそが救世主になるのか?

 一方、当然ながらマイナス作用も生まれた。淡泊な攻撃が増え、ボールを強打する打者が増え、三振数も激増。安打数も減り続け、メジャー史上初めて三振数が安打数を超えた。
 確かに、カスッた様な当りが楽々とスタンドインするのを見ると、シラっとなる。これは野球じゃなくピンポンかって。

 かつて日本では”ヒットの延長がホームラン”という格言があった。今でも日本では”野手の間を抜く当りを打て”なんて指導してるが。”ヒットはたまたま野手のいない所にボールが落ちただけで、運の問題だ”という声もある。”ホームランを狙った当り損ねが安打になる”と。ホンマかいな。


ヒットは偶然の産物?まさか!

 事実セイバーメトリクスの代表的な研究者ボロス•マクラッケンは、”フェアグラウンドに飛んだ打球が安打になる確率は、打者や投手の実力に関係なく3割前後になる”事を発見した。この「安打は運の産物」理論は、アメリカでも衝撃的だったが、未だに否定する事ができない。荒唐無稽の様な理論こそが、最新の野球理論なのだ。

 もう一つの統計によると、”ゴロよりもフライの方がアウトになる確率が低い”という事がデータにより明らかとなった。
 古いが2013年のプロ野球のデータでは、ゴロでアウトになる確率が77%、ヒットになる確率が23%。一方、フライでは63%(ヒット)と37%(アウト)となり、10%以上もフライの方がヒットになる確率が高い結果となった。


 しかしだ。三振かホームランかの二者択一の雑なゲームに魅力はあるのか?日本がお得意とする緻密な野球は何処へ行った?守備だけで唸らせる選手はもう出てこないのか?
 でも、インサイド•ベースボールをスモール•ベースボールと真顔で語る日本の野球評論家がいる限り、やはりフライボールに凌駕されるのか。

 貴方はこのフライボール革命を信じるか?それとも単にボールが飛ぶだけなのか?それとも球場が狭いだけなのか?それともストライクゾーンが小さいだけなのか?

 野球が詰まらなくなったとされる昨今、フライボール革命は救世主になり得るのか?そんなにホームランを見たけりゃ、打撃練習を見ればいい。

 俺はヤッパリ信じない。どうも見ても無理がある様な気がするのは私だけ?


2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
メジャーの厳しい現実 (hitman )
2019-04-19 16:18:53
フライボール革命ってイチローへの当てつけみたいに聞こえますが、データはウソをつかない。確かに言われれば。

勿論、データはデータとして重視する必要があるんだけど、ヒットが偶然の産物とは言い過ぎじゃないのかな。フライといっても完璧に捉えた当りはまず本塁打になるわけだし。

転んだサンと同じく、フライボール革命って少し曖昧かな。
返信する
hitmanさんへ (lemonwater2017)
2019-04-20 04:12:19
確かにデータから見ればフライボールは正論かもですが。30度〜45度の角度で上がった打球をフライと見ればの話ですかね。

私が思うフライとは凡フライのイメージが強いので、どうもフライ革命が凡フライ革命に思えてならないです。

という事でフライボール反対派です。やっぱりダウンスイングに限る。タイカップ万歳。
返信する

コメントを投稿