私が数学の記事を書くようになったのは、”バーゼル問題”がきっかけである。
何気なく眺めたこの式が、とても美しく思えた。逆平方数の和が円周率πの2乗を使って表せるという幻惑に近い等式。
故に、私の数学ブログには、このバーゼル問題がしばしば顔を出す。
1/1+1/2²+1/3²+1/4²+・・・=π²/6という実にあっさりとした魔法みたいな式だが、これこそがベルヌイ一家を生涯悩ませた世紀の難題でもあった。
今では様々な証明法が紹介されてるが、最もポピュラーで明快簡潔なのは、sinxのマクロリン展開(級数)を使うやり方で、sinx=x/1!−x³/3!+x⁵/5!−x⁷/7!+・・・さえ知っておけば、(極論だが)ヘビでも解ける?問題でもある(ウソ)。
誰でも解る、バーゼル問題
簡単に説明すると、sinx=0の解はx=0,±π,±2π,±3π,...より、sinx=x(x−π)(x+π)(x−2π)(x+2π)・・・=0と書ける。
但し、これだと右辺の各因子の積は発散して扱い難い(特に、右辺の1次の係数がπ・2π・3π・・・となり発散する)から、x±nπをnπで割り−1を掛け、1±x/nπの形にする事で無限積の収束性をよくし、扱い易くする。こうした一寸したトリックも数学の世界では重要になりますね。
よって、sinx
=x(1−x/π)(1+x/π)(1−x/2π)(1+x/2π)・・・
=x(1−x²/π²)(1−x²/4π²)(1−x²/9π²)・・・
=xΠₙ[1,∞](1−x²/n²π²)=0と変形できる。
故に、sinx=x/1!−x³/3!+x⁵/5!−x⁷/7!+・・・=xΠₙ[1,∞](1−x²/n²π²)という無限級数(無限和)=無限積の形が顕になる。
この両辺でx³の係数を比較すれば、
1/3!=1/ π²+1/4π²+1/9π²+・・・となり、
π²/6=1+1/4+1/9+・・・という”バーゼル問題”を導き出す事が出来る(1735年、オイラー)。
因みにオイラーは、このバーゼル問題を解く過程で、上の”無限和=無限積”をヒントに、この2年後に”オイラー積”という偉大な発見を数学の世界にもたらします。
勿論、結果を知ってさえいれば(ヘビでも解ける程に)簡単ですが、オイラーが最初からこの事に気付いてる筈もない。多くの解説ではオイラーがこの事に気付き、偶然に近い形で解いたとあるが、現実と数学はそんなにヤワで単純じゃない。
私ですら、sinx=0の因数分解とマクロリン展開を思い浮かべただけで、バーゼル問題はすんなりと解けたのだから・・・
ただ、マクロリン展開を見て、πという記号がオイラーの頭の片隅にあった事は間違いないだろう。それに、無限級数(及び無限積)の本質がその収束性に依存する事をオイラーは既に見抜いてたのかもしれない。
つまり、この無限級数が明確な値を持つ事は想定出来た筈だが、この明確な値を導き出すに予想以上の困難さが待ち構えてる事を、若き天才オイラーですら予見できなかったのだ(補足)。
1644年、ピエトロ・メンゴリ(伊)により提起され、1735年にレオンハルト・オイラー(1707−1783)により解かれ、オイラーとベルヌイ家の故郷の名を取り、”バーゼル問題”と呼んだ。
通常なら、メンゴリ予想とすべき所だが、この超のつく難問が如何に、バーゼルを故郷としたオイラーを含む(天才数学者を数多く排出した)ベルヌイ一族を悩ませたがが理解できる。
そこで今日は、この”バーゼル問題”の闇に隠れた?真相について述べたいと思います。
因みに、「リーマン旧4の4」でもベルヌイ一家とバーゼル問題について書いてますので、大まかに理解したい方は参考にしてみて下さい。
ヤコブとヨハン
ヤコブ・ベルヌイ(1654-1705)とその弟ヨハン(1667−1748)は、逆数級数(調和級数と呼び、ここではUとおく)U=1/1+1/2+1/3+・・・が発散する事を厳密な形で証明しました。
特にヨハンは、U=1/1+1/2+1/3+・・・=log∞を証明し、この級数がゆっくりと無限大(発散)になる事に注目します。
この漸化式の証明ですが。
現代微積分学の巨人と称されるヨハンは”積分判定法”(長方形の総和>広義積分=Σ[1,n]1/k>∫[1,n+1]dx/x=log(n+1))を駆使します。これでn→∞とすれば、1+1/2+1/3・・・=log∞が導き出せます(「リーマン”2の5”」参照)。
これは、以下で述べるオーレムの”比較判定法”と比べても興味深いですが、”メルカトル級数”(1668年)の逆数の交代級数となる1−1/2+1/3−1/4+・・・=log2と非常によく似通ってますね。
この級数を発見したニコラウス・メルカトル(1620-1687、独)も”区分積分法”を使い、x−x²/2+x³/3−・・・=log(1+x),−1<x≤1というマクローリン展開に相当する概念を、解析学が未発達な時代に既に見出してました。
つまり、ヨハンはメルカトル級数の事は知ってた筈で、この積分法を上手く受け継いだ形となりますね。
因みに逆数級数が発散する(1/1+1/2+1/3+・・・=∞)事自体は、ニコレ・オーレム(1323−1382、仏)が14世紀に証明してました(オーレムの定理)。1+1/2+(1/3+1/4)+(1/5+1/6+1/7+1/8)・・・>
1+1/2+(1/4+1/4)+(1/8+1/8+1/8+1/8)+•••
=1+1/2+1/2+1/2+・・・=∞と、実にあっさりとした証明です(「リーマン”2の1”」参照)。
しかし、ヤコブとヨハンの逆数級数の考察と厳密な証明が大きなきっかけとなり、その後ヤコブ兄弟は、逆平方数の級数(ここではその級数の和をQとする)Q=1/1+1/4+1/9+1/16+・・・を求めようとしたが、大きな壁に阻まれる。
(以下でも述べるが)ヤコブは、この逆平方数の級数Qの和が有限で2より小さい事までは証明しますが、その値を求める事はとうとう出来なかった。
”この級数の和の値を求めるのは甚だ困難に思える。もし誰かがこれを解く事が出来たら、私に知らせてほしいものだ”と、ヤコブは晩年に語っている。
特に、逆数級数(調和級数)の和も逆平方数級数の和も、ゼータ関数ζ(s)=Σₛ[1,∞]1/nˢの最も簡単な例である。逆数級数U=1/1+1/2+1/3+・・・=ζ(1)、逆平方数の級数Q=1/1+1/4+1/9+1/16+・・・=ζ(2)となりますね。
一方で、”オイラー積”(1737年)という”無限積”の式からゼータ級数(ζ(n)=1+1/2ⁿ+1/3ⁿ+・・・)という”無限和”が導いたオイラーこそが、ゼータ関数(級数)の創始者とされます。
事実オイラーは、ゼータ級数ζ(n)を素数に渡るオイラー積(=2ⁿ/(2ⁿ−1)・3ⁿ/(3ⁿ−1)・5ⁿ/(5ⁿ−1)・・・)に分解し、発散する逆数級数と比較して、”素数が無限に存在する”事を人類史上初めて数学的手法で証明します(「リーマン”2の1”」参照)。
最後に
以降、ヤコブとヨハンの意思を受け継ぐかの様に、ヨハンの次男であるダニエルと彼のライバルであるゴルドバハが、互いに競う合う様にして逆平方数の級数Qの近似値を求めていきます。
この二人以外に(オイラーと同世代の)スターリングも、級数の形を巧妙に変形する事で、非常に精度の高い近似値を弾き出します。
本当は、この1回目で彼ら4人の奮闘ぶりを紹介したかったんですが。バーゼル問題の起源と歴史を紹介するのに、過去に書いた記事を参考に多くを費やし過ぎたので、ここら辺で終わりにします。
次回は、ダニエルとゴールドバハとスターリングのバーゼル問題の取り組みについて紹介したいと思います。
収束するように弄ってやればいいんだよな。
x±nπじゃ各因子が発散して扱いにくいから、1±x/nπの形にして各因子を無数に懸けた時の収束性をよくするってことだけど
でも転んだ君は”xで割って”と書いてるけど、”nπで割って”が正解だよね。
結果さえ分かってれば、ヘビのように条件反射的に解けそうだけど、一寸した”捻り”もまた必要なんだ。
つまり、無限級数の収束性のその本質は、その収束性に隠されてんだよ。
ジャーナリズムの本質がヘビのような獰猛な執着心に隠されてるようにね。
お陰で助かりました・。
無限級数の本質はその収束性に依存し、ジャーナリズムの本質はその広がりに依存するんですかね。
でもどちらもその本質を見抜いてからが大変な作業なんですが・・・
ヘビ以下ってことよねぇ〜
でも因数を割ったり掛けたり
そんなこと勝手にできるの?
それこそヘビ以下って思うんだけど🐍
教えてgoo〜
でも数学者ってヘビみたいにしつこいんですよね。
難題を解く為にはどんなトリックをも使う。
因みに、今回のトリックはπxで割っても−1を掛けても、解は不変だし、方程式(無限級数)の本質には変わりないし、問題ないんですよね。
sinxの因数分解の式でそのまま展開すれば
その式の1次の係数がπ×2π×3π×・・・となり発散します。
だから扱い難いんですよね。