象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

大谷はルースを超えたのか?〜されど大谷”その23”

2021年10月01日 06時57分52秒 | ベーブルース

 NHKBSのメジャーリーグ解説の武田氏は、”ルースはたった29本で大谷は45本だから、既にルースを大きく超えている”と吠え?ていた。
 まるで、第三次世界大戦で日本がアメリカに勝利した様な喜びようである。確かに彼は、二言目にはWBCの話題をしつこい程に口にする。余程、オープン戦で世界一になったのが嬉しかったのだろう。

 しかしこの人は、ルースが29本(9勝)を打った時の、チームの最高本塁打数をご存知だろうか?いや、その前年にルースが11本(13勝)を打った年の、チームの最高本塁打数をご存知だろうか?
 それもアメリカの娯楽の王様がベースボールの時代。それに、メジャーが最も光り輝いてた時代。それに比べ、今や”オールドボールゲーム”(時代遅れの球技)と見下される野球とは、(次元の)異なる尺度で考える必要がある。


ルースを超えた?

 日本のメディアは早くも”ルースを超えた”とか報じてるが、果たしてそうだろうか?
 大谷がフルシーズンで二刀流を通したのは今年が初めてである。が一方で、今年が二刀流の最後になるかもしれない?事も忘れてはならない。
 メジャー1年目こそ、”10登板(4勝)、22HR”の偉業を成し遂げ、新人王に輝く大活躍を魅せたが、右肘靭帯の部分断裂が判明し、同年10月トミージョン手術に踏み切る。翌2年目はリハビリを兼ねながら、打者(DH)に専念し、18HR(106試合)をマーク。
 二刀流復活が期待された20年、投手としては僅か2試合で1回2/3の登板に終り、右肘の故障が再び発覚。打者としても44試合で打率1割台(7HR)という不振に陥る。
 DHとリハビリの”二刀流”で無理が祟ったのは、明らかだった。
 ”マンガじゃあるまいし、今の時代に二刀流なんて?”と、その時は思った。

 私は以前から、”二刀流は危険すぎる”と言い続けてきた。しかし日本の解説者たちは、真顔で”40本で20勝”と喚いている。私は彼らをクレイジーだと思う。
 しかし大谷は、どこ吹く風で二刀流を押し通し続けた。後半こそ疲れが見えたが、9/29の段階で45本&9勝(3.18)は、正直言って超出来過ぎの感がある。
 辛口のMLBジャーナリストも、50本はともかく”シーズンMVPは確実だ”と太鼓判を押すが、私も同じ意見だ。

 ただ、なぜ途中で大きな怪我もなく、殆どスランプもなく、二刀流をこなせたのだろうか?
 「その22」に寄せられたコメントに、”アリーグ東地区だったら投手大谷は、前半戦で潰されてただろう”とあった。
 これにも私は同感である。
 確かに、アリーグ西地区はメジャーの中でも最もレベルが低い。ナリーグでは万年最下位のお荷物球団だったアストロズは、今や地区優勝の常連なのだから。
 それに、年々球場は狭くなり、ボールも飛び過ぎる様になった。
 今のメジャーのレベルを考えると、半分の15球団で十分過ぎる程だろう。事実、一昔前のメジャーの次元にある球団は数える程しかない(と言ったら言い過ぎか)。

 勿論、昔と比べ質が落ちたと揶揄され、客離れが目立つ昨今のMLBだが、これは他のプロスポーツでも同じ事だろう。
 しかしそんな悲しい状況の中でも、大谷の躍動は、大金を稼ぐ他のスーパースターらと比べても圧巻の存在ではある。


ルースとリアル三刀流

 1918年のベーブ・ルースは、登板日以外は外野を守るというフルシーズンの”三刀流”を初めて経験する事になる。
 メジャー入団の年(1914)、すぐにマイナー落ちし、”(本職の)投げる方でダメなら打つ方で”と、密かに打撃練習をした。
 投・打・守ともに、”チャンピオンの街”ボストンの中心に君臨する若きルースは、2年目は18勝で4本、3年目は23勝で3本、4年目は24勝で2本を記録。
 そして5年目(三刀流の4年目)には、13勝11本という”2桁勝利2桁本塁打”という偉業をなし遂げ、本塁打王にも輝いた。
 たかが11本(95試合)と思われるかもだが、当時では驚異的な数字で、チーム本塁打の最高が15本の時代にである。
 しかし翌年、23歳の若き肉体は悲鳴を上げ、監督とは2度衝突。一度は疲労でダウンしたが、休養後は打に専念し狂った様に打ち捲った。
 お陰で19年は、9勝29本(130試合)の空前の大偉業を記録。これまた、チーム本塁打の最高がNYYの45本の年だ。
 この年のオフ、ルースはNYYにトレードされ、5年間の三刀流にピリオドを打つ。
 翌20年シーズンには倍近くの54本(142試合)のアーチを放つが、”去年が異常だった、20本打てれば上出来だろう”とされた中での信じ難い快挙だった。
 これを境に、メジャーは”飛ばないボール”から”飛ぶボール”の近代ベースボールの時代に突入する。因みに、この年のチーム本塁打数は、NYYの116本が最高で、ナリーグはPHIの64本が最多で、ナリーグの本塁打王は僅かに15本であった。
 今の時代と直接比較するまでもないが、2019年度のチーム本塁打数はツインズの307本(162試合)が最高で、単純計算だとルースの54本(2020年)は143本に、29本(1919年)は198本に、11本(1918年)は225本になる。


ルースの時代

 しかし少なくとも、ルースの三刀流最後の年である29本(9勝)は、昨今の狭い球場と飛び過ぎるボール、それに球団拡張や野球離れによるプレーや選手の質の低下からして、少なく見積もっても120本ほどには相当するだろうか。
 今は”飛び過ぎるボール”が話題になってるが、ルースの台頭と共に”ライブボール”の時代(1920年以降)と言われた事がある。事実、1918年と1921年を比較すると得点は40%、本塁打は4倍に跳ね上がったが、ボール自体に変更はなかった。
 本塁打が急増した為、1931年にはコルクをゴムで包み、縫い目を高くする改善が行われた。ライブボールの真相は未だ不明だが、1920年に試合球の交換が義務付けられたのが大きいとされる。

 ただ原因の一つに、世界大戦の終結とルースの登場と、そして景気の上昇がある。
 観客動員は急増し、ファンは投手戦より打撃戦を好んだ。選手やファンの意識にも大きな変革が起き、ルースの奔放なアッパースィングは”業界標準”となり、誰もがドライバーの様なヘッドの太い奴を使った。
 球団拡張にしても、ルースが活躍した時代は両リーグ8球団ずつの16球団。それに今やMLBは数あるプロスポーツの1つに過ぎないし、メジャーの質の低下は避けられる筈もない。

 球場の大きさも、ルースが1919年まで在籍したBOSのフェンウエイパークは両翼が3mだけ広いが、中堅149m、最深部167mと、今の119mと128mとは大きな違いである。
 1920年から3年間本拠地としてたポログラウンズは、左翼85m、左右中間138m、中堅147m、右翼79mと左打者に有利だったが、ポールを巻く打球はファールとされた。
 60本を放ったヤンキースタジアムも左翼92m、左中間149m、中堅148m、右中間131m、右翼90mと左打者に有利だったが、今のヤンキースタジアム(97m,116m,124m,117m,96m)と比べると、その広さはケタ違いである。

 
最後に〜ルースと大谷

 1920年前後のベーブルースと2021年の大谷翔平を、同じ土壌で比較できる筈もない。
 しかし日本のメディアは、数字だけを取り上げ、”本塁打王でサイヤング賞”と大風呂敷を広げる。まるで、太平洋戦争に無謀に突き進む(全体主義の勢いに乗り捲った)日本島民を彷彿させる。
 私は、シーズン途中に故障か大きなスランプにより一時離脱を予想していた。二刀流とはそれだけ危険な領域だと思っていた。
 しかし、今年の大谷は大きな調子の波もなく実に安定している。

 ルースは、BOS時代の5年間の三刀流の後、(NYY時代は)毎年の様に原因不明の故障に悩まされ続けた。勿論、三刀流の蓄積疲労が原因なのは明白だったが、それでも50本以上の本塁打を打ち続けたのは、信じ難い偉業でもある。
 大谷が来年以降も二刀流を出続けるつもりなら、ルースが苦悶した様なタフなシーズンになる事を覚悟する必要がある。いや、それ以前に選手生命自体を脅かすかもしれない。
 私が大谷なら残りの試合を欠場し、来季に備えるだろう。それでもシーズンMVPは当確だし、”45本&9勝”はルースと並ぶ偉大な軌跡でもあり、それ以上に”150奪三振&300塁打”はルースでも成し得なかった記録である。

 一方で、無理をしてケガでもすれば、故障は慢性化し、商品価値は急落し、来季以降の保証もない。
 ルースの様に、外野を守っての三刀流じゃないから多少は楽かもだが、二刀流による蓄積疲労は、確実に大谷の若き肉体を蝕み続ける。

 ”ルースを超えた”と騒ぎ立てるのは自由だが、それは”ルースの領域を超えた”のではなく、崩落しつつある現代ベースボールが生み出した幻想の1つなのかもしれない。
 1919年のベーブルースと2021年の大谷翔平では、明らかに時代と野球そのものが違いすぎる。数字だけを見て大はしゃぎし、同じ土壌で比較する事自体、大谷にとっては危険過ぎる妄想なのかもしれない。



10 コメント

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異なる尺度と野球観 (tomas)
2021-10-01 09:53:30
最終戦の登板回避は大谷本人が決めたらしい。
勿論、球団や周りのスタッフの助言を聞いての上だとは思いますが、とても懸命だったと思います。
ただ今から打つ方に専念しても結果は早々望めないようにも思う。ヒットは出るんだけど本塁打の打ち方を忘れたみたいで・・・

言われる通り
二桁勝利二桁本塁打よりも
150奪三振300塁打のMLB記録のほうが金字塔としては相応しいですよね。
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tomasさん (象が転んだ)
2021-10-01 13:32:37
レンジャーズ戦とマリナーズ戦は消化試合なんで、思い切り休んで来季に備えた方がいいのかな。
本塁打は3本差がついたし、MVPは確実だし、今ここで無理をする必要もないと思うけど。

ネット上でも、ここまで来たんだから最後までという意見と、もう十分すぎるという意見と半々ですが、その気持ちよく察します。
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まるでTVゲーム (#114)
2021-10-01 14:11:54
ルースの時代がライブボールなら
今の大谷の時代はビックリボール
とにかくボールが飛びすぎる
TVゲームの世界のようによく飛ぶ
ペレスのカウフマンでの場外弾も
通常なら考えられない
大谷のセーフコでの3階席もそう

ボールが飛びすぎるから
打撃の質が落ち
それは打率の低さが証明してる

ボールがよく飛ぶ
→打者は振り回す
→打撃が雑になる
→調子を崩しやすいし戻りにくい
→投手のレベルも落ち全体のレベルも落ちる

こうした負のスパイラルも
プレーの低下を加速させている
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Unknown (象が転んだ)
2021-10-01 18:34:46
#114さん

”ボールがよく飛ぶ
→投手のレベルも落ち、全体のレベルも落ちる”
全くですよね。
アリーグは3割1分台で首位打者が決まりそうです。
こういうのを見るにつけ、メジャー全体の質と量が落ち込んでるのが解ります。
そういう意味では、ルースの時代が羨ましいです。生で見たかったです。
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戻らんな〜 (tomas)
2021-10-03 19:20:19
言われる通り
最後まで本来の打撃は戻らんかった。
四球攻めもあったけど
それ以上に打撃が湿ってた。
あれだけ振ってるんだから当たれば飛ぶはずだけど、野球ってそんなに単純じゃない。

明日は最後だけど
笑ってる割には、打撃のスランプは深刻だと思う。
来シーズンに響かなければいいが・・・
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tomasさん (象が転んだ)
2021-10-03 23:01:03
球団も
来季の二刀流の結果で契約の方向が決まるかもしれません。
今シーズンは何とか持ち堪えましたが、来季は全くの白紙です。
浮かれる気持ちも解りますが、少しは来季以降の事を今から考える必要がありますね。
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46本100打点 (tomas)
2021-10-04 21:22:07
で今季を終えました。
でも最後まで4シームには手こずりました。
久しぶりに本塁打が見れて嬉しかったんですが、
ロスの地元紙は<2021年を再現できる保証はない>との契約延長に関しては慎重な姿勢をとってます。

結局は、二刀流で怪我なく続けられるのか?ってのが重要なんですよね。
1年だけなら活躍できるけど、それ以降はわかりませんじゃ長期の大型契約は難しいし
でも大きな怪我がなくてホッとしてるのが大谷の本音でしょうか。
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tomasさん (象が転んだ)
2021-10-05 00:48:15
ロスメディアも目が肥えてますね。
私と全く同じ見解です。
でも今季残した彼の記録と記憶は、メジャーの歴史において延々と語り継がれるものであり、今秋に行われる労使交渉では、サラリーキャップの大きな論点となるでしょうね。

つまり、大谷の今季の数字が限度額の基準となるかもです。
但し、飛びすぎるボールが生み出した前人未到の神話とも言えますね。
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満場一致 (tomas)
2021-11-19 21:53:45
予想されてはいましたが
イチローですらなし得なかった満場一致のMVPで思わず興奮しましたね。
大谷はこれからがピークと言ってますが
今年がピークだったのかなとも思います。
来年は勝負の年というより怪我との戦いになるのかなと心配も・・・
それだけ今年は出来過ぎの感もあったけど
ツキというのにも恵まれてたようにも思います。

投げる方はとてもいい感じで終わったけど
変化球を狙い打たれたら少しきついかなとも思うけど
問題は打撃ですよね。
オールスター以降はかなり崩れてましたから

ということで
転んださんには来シーズンの大谷を予想してもらいます。
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tomasさん (象が転んだ)
2021-11-20 01:18:52
大谷のこの偉業は日本だけでなく、メジャーの歴史においても大きなカンフル剤となりました。
でも、そう少しベーブルースの偉業を等身大に詳細に評価してほしかったです。

個人的には大谷の二刀流には今も反対ですが、今年は怪我もなく過ごせた事は非常にラッキーでした。
来年が大きな問題で怪我は勿論ですが、殆ど丸裸に調べあげられるので、今年程には上手くは行かないでしょうが、大谷のピークが先にあるのかは微妙ですね。
予想としては、開幕を無事にスタートできるかに全てが掛かってると思う。ダメだったらシーズンすら棒に振るかも・・・
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