夢の中で、私は地元のコロナ対策チームの一員として働いていた。
というのも、一旦は収束仕掛けたコロナ感染が、我が地元で大きなクラスターが発生し、感染爆発を引き起こしたのだ。
見る見るうちに拡大し、内閣府は私の地元に急遽、対策チームを派遣し、私もそのメンバーの1人に加わる事になる。
そこで話し合われたのが、地元住民の隔離と移動である。つまり、陽性者や濃厚接触者を含む感染者や疑わしい人たちを、まとめてコロナ感染がゼロの地域へ引っ越す案である。
当然、反対する者も現れた。
陰謀説を垂れ流す人や政府の差し金だと言い張る人、色んな理由をこじ付けて因縁をつけたがる人たち・・・
私は彼ら彼女らに、エビデンスと実データを比較し、安全を確保し、十分に納得行く説明をしたつもりだった。
何度も何度も説明する内に、少しずつ信じてもらえる様になった。
とにかくロックダウンになる前に、”集団引っ越し”を進めたかったのだ。
現代の”アウシュビッツ”
作業は順調に進んでいた。いやそのつもりだった。
しかしその時、まるで白馬の王子が如く、ある一人の男が立ち上がった。
その男は元競輪のスター選手で、地元の偉大なヒーローでもあった。
男は街頭に経ち、コロナ対策チームが差し出す案は”人類削減計画で、信用してはならない”と訴えかけた。
瞬く間に、男の声は地元の全住民に行き渡った。”現代のアウシュビッツ”とまで言い放った男の主張は、不思議と説得力があった。
歳を食ってもなお、その精悍な顔立ちは、住民の心を鷲掴みにし、芸能人や著名人の間でも未だ人気は衰えてなかった。
男は私の悪い噂を全てぶちまけた。
そのうえ奴は、私がコロナ対策でヒーローになり、政界へ進出するつもりだと、罵った。
よく見ると、その男は私の中学時代の部活仲間に似ていた。
私は東京から助手として恋人を同伴してたから、余計に立場が苦しくなった。その恋人は何と飯島直子だったのだから・・・因みに、彼女が夢に出てきたのは、「その26」と「その51」以来3度目である。
彼女はまだ若く(とはいっても30代後半程だったろうか)、何とかスレンダーな肉体とそこそこの美貌を保ってはいた。故に、住民は余計に私の事を勘繰ったのだろう。
結局、住民投票に掛けられ、我らコロナ対策チームは大敗し、惨めな状況に追い込まれた。
飯島直子は私に、男と話し合うように申し出た。一応知り合いだからというので、私の方からも説得してみると言う。
私は反対した。
”アイツは絶対に何か企んでる。君が目当てなのかもしれない”
女は首を振る。
”考えすぎよ。彼だって色々噂はあるけど、悪い人でもないわ”
私は彼女の説得に応じ、全てを任せる事にした。しかし、それが間違いである事は火を見るよりも明らかだった。
善が悪に変わる時
女は、男と付き合う様になっていた。いや少なくとも私にはそう映った
私はキレた。そして男を問い詰めた。
男はシラを切り、何食わぬ顔で言い放った。
”この勝負はアンタの負けだ。だから女をもらう”
私は愕然とした。
”最初から彼女が目当てだったのか?それで敢えて陰謀説や私の悪口を言い放ったのか?”
男は薄ら笑いを浮かべ、自慢の高級車に乗って、無言で立ち去ろうとする。
男は勝つ為に、悪を行使したのだ。
プロの競輪では、多少のイカサマや微妙な不正行為が許される。男はそうやってスターダムにのし上がっていた。
私も腹を括り、悪には悪で対抗しようと覚悟を決める。
私は、今にも発車しようとする高級車の前に仁王立ちし、目の前のボンネットに満身の力を込めて、拳を練り込ませた。
ボンネットの中央が丸く凹み、男は血相を変えて、私の方に向かってくる。
”なんて事を?アンタはそれでも研究者か?弁償はしてもらうからな、かなり高く付くぜ”
私は男の胸ぐらを掴み、一撃を見舞った。
手応えは十分だった。男は私の膝の前に崩れ落ち、私はもう一度、男を渾身の力を込めて踏みつけた。
男はピクリともしない。
益々怒りに震えた私は、車の中にあったジャッキを使って高級車をボコボコに破壊した。
そこに、飯島直子がやって来た。
”アナタは全てを台無しにしたわ。もう少しで説得できる所だったのに・・・信頼を失えば私達はもう終わりね”
女は男を抱え上げ、去っていく。
しかし、不思議と悪い気はしなかった。
”お互いに悪を行使したんだ。だったら力で打ち負かした方が勝者さ”
そう自分に言い聞かせた。
初老の男と飯島直子
その時、夢の舞台が変わった。
初老の私は、小さな娘に算数を教えていた。
娘は、私が出した問題をせっせと解いてみせた。答えは大半が間違っていた。
しかし、それでいいのだ。答えというのは存在しない。だったら自分なりの解答を見つければいい。ただそれだけの事だ。
私がその間違った解答を褒めると、娘は”オジサンは優しい人ね”と呟いて、喜び勇んで立ち去っていく。
その時、ある女が近付いてくる。
別れた筈の飯島直子であった。
少し歳を食ってはいたが、まだまだ可憐さは残ってた様な気がする。
女は、私が座ってたベンチに腰を掛けると優しく微笑んだ。
”答えって最初から存在しないのよね。そういう事を知ってたら、あの男を説得しようなんて思わなかった”
私は首を降った。
”人を説得するなんて出来る筈もないさ。本人に理解する意思がない限り無理さね”
”だからボコボコにした?”
”いや、ヤツに理解する気がないから、私もヤツを理解しなかった。ただそれだけの事さ”
”らしいわね”
”らしくもないさ。数学の世界では善を行使した方が結果的には利回りがいいけど、現実は全くの逆なんだ。あの時、半ば強引に陽性者の集団移動をしてればよかった・・・”
”それって正義のアウシュビッツなの?”
”・・・それで男はどうなった?”
女は明るく微笑んだ。
”聞いた所によれば、毒性の強い変異株に感染し、肺の半分を切り取ったらしいけど”
”説得できなかったんだ”
”最初から説得出来る筈もなかったわ”
”でも説得した?”
”東京へ送り返したかったの。そのまま東京で大人しくしてたら、痛い思いせずに済んだんだけどね”
”そんな簡単じゃないさ。男って一度火がついたら、最後まで行き着くもんさね”
そこで夢から覚めた。
最後に
私はワクチンは打つべきだと思う。
下手な陰謀説をに比べれば、ワクチンはより効果的である。
それでもウイルスはワクチンを乗り越え、蔓延するだろう。
やれるべき事をやって、ダメだったら諦めるしかない。しかし、やるべき事をやらずしてダメになったら、後悔しか残らない。
全てを疑うのは、その後で十分である。
人はいつかは死ぬ。善を行使しようが、悪に染まろうが、人はいつかは死ぬ。
生きるとは、そういう単純な事なのかもしれない。
そういう事を教えてくれた様な夢だった。
すごくいい夢ですね。
DreamDiver夢日記の先駆者、『夢記(ゆめのき)』を書かれた明恵上人、転象さんご存じでしょうか。
夢と向かい合うのは胆力が必要です。明恵は僧侶ですが武家の出なので、たいへん勇気がありました。
ユングっぽいエピソードに溢れている明恵の夢日記、お薦めです。
「答えって最初から存在しないのよね。」
しびれますね。
夢を40年以上に渡り書き続けた人が鎌倉時代に既にいたとは・・・
ブログでは”こんな夢を見た”という記事を偶に目にしますが、詳細となると途端に曖昧になります。
私も1昨年くらいからですか、夢を書くようになったのは。それも有名人が出る夢って闡明に覚えてるんですよね。
お褒め頂いて恐縮です。
夢とは曖昧で抽象的なものであるが故に言葉にするのが困難ですが、考察と思考に優れた彼女は夢の全体像をいち早く掴み、現実に焦点を合わせ、手記や和歌にしてたと思われます。
日本島民は洞察や考察に劣り、閃いた事を素早く明確で的確な論調に表現できない欠点がある。これこそが欧米とは大きく遅れてる所でもあります。
でも、たかが夢と言えばそれまでなんですが・・・
その夢を実現するには
人並外れた勇気と創造力が必要になる
こういうことでいいんでしょうか
卓越した洞察と考察が必要な数学者も夢見る人が多いですから
そういう意味では数学も夢を見る学問であり、その夢を実現する学問かもしれません。
全ては創造と想像の世界なんですよね。