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無限解析とオイラーの確信〜猿でも解る?バーゼル問題”その8”

2024年01月08日 17時51分34秒 | 数学のお話

 1昨年末以来の”バーゼル問題”ですが、間が空きすぎたので、簡単におさらいをします。

 前回「その7」では、無限解析によるバーゼル問題の完璧な証明を紹介しました。
 1734年の最初の証明には(微かな事でしたが)幾つかの問題がありました。だが、その10年後の「無限解析入門」(出版は1748年)では無限解析を用いてほぼ完璧な証明を与えています。
 オイラーの完全なる”バーゼル問題”の証明(1745、1748)では、多項式aⁿ−zⁿの有限積表示から始め、超越関数(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限積表示を求めました。


無限積展開とバーゼル問題

 そこで、aⁿ−zⁿ=eˣ−e⁻ˣより、nを無限大とした時のeˣ−e⁻ˣの無限級数を考えればいいんですが、n=∞とした時の超越関数(eˣ−e⁻ˣ)/2の無限級数展開は、(eˣ−e⁻ˣ)/2=x∏ₖ[1,∞](1+x²/k²π²)=x(1+x²/π²)(1+x²/4π²)(1+x²/9π²)(1+x²/16π²)・・・と展開できる。
 詳細は前回に譲るとして、オイラーはsinhx(=(eˣ−e⁻ˣ)/2)と呼ばれる双曲線(正弦)関数して、sinh(πz)=sin(πz√-1)/√-1=πz∏ₖ[1,∞](1+z²/k²)の無限積展開を与えた。
 そこで、上式にてx=z√(-1)とおき、両辺を√-1で割れば、sinz=z(1−z²/π²)(1−z²/4π²)(1−z²/9π²)(1−z²/16π²)・・・を得るので、sinzの無限級数展開(=z−z³/3!+z⁵/5!−z⁷/7!+・・・)との係数比較をとれば、(1+1/4+1/9+1/16+・・・)/π²=1/3!となり、バーゼル問題の完璧なる解答が得られる。

 前回では、sinh(πz)=πz∏ₖ[1,∞](1+z²/k²)の無限積展開の証明を省いたが、これはsin(πx)=πx∏ₖ[1,∞](1−x²/k²)を示せばいい。
 ここで、前回に寄せられたコメントを借りる事にする。
 まず、sin(πx)は複素平面上で正則より、無限次の多項式となるから、sin(πx)の零点は±nπとなる。故に、sin(πx)=cx∏ₙ[1,∞](1−x/n)(1+x/n)=cx∏ₙ[1,∞](1−x²/n²)と出来る。
 この両辺をxで微分しx=0を代入すればc=πを得て、目出度く証明としたいが、x→∞とすればsin(πx)は発散する。
 そこで、f(x)=πx∏ₙ[1,∞](1−x²/n²)/sin(πx)として両辺の対数をとり、logf(x)=logπx+Σlog(1−x²/n²)−logsin(πx)として、両辺をxで微分する。すると、d(logf(x))/dx=1/x+Σ(1/(n+x)−1/(n−x))−πcos(πx)/sin(πx)を得る。
 ここで、余接関数の部分分数展開公式であるπcot(πx)=1/x+Σ2x/(x²−n²)を使えば、d(logf(x))/dx=0となり、f(x)は定数となるので、f(x)=f(0)=1が導け、双曲線関数の無限積展開表示の証明となる。
 因みに、(coshx,sinhx)は双曲線x²−y²=1上にある事から双曲線関数と呼び、一方でx²+y²=1の単位円上にある(cosx,sinx)を円関数(三角関数)とも呼ぶ。
 以上より、円関数(三角関数)も双曲線関数も複素領域に拡張でき、無限級数や無限積展開が可能になる。故に、解析関数に昇華する事で対数微分が使える。更に、無限積はlog(対数)を取れば無限和になるから、証明の見通しは一気に明るくなります。

 一方で、sin(πx)=πx∏ₖ[1,∞](1−x²/k²)ですが、このオイラーによる無限積による三角関数の表現は、後のアイゼンシュタインにより二重無限積による楕円関数の一般化に結びつく事にも、大いに注目したい。
 少し長くなりましたが、今日はバーゼル問題の証明に関する、オイラーの自信の根拠について書きたいと思います。


オイラーの自信の根拠とは

 オイラーはバーゼル問題に完璧なる証明を与えた論文(1742)の中で、”これらの和を完全に正しいものとして印刷するに何の躊躇いもなかった”とその絶対的な自信を述べている。
 確かにオイラーの最初の証明(1734)には、ダニエル、ヨハン、ニコラスらのベルヌーイ一族やクラメルからイチャモンがついていた。
 しかし、その自信の根拠には”近似値の偶然とは考えられない”程の一致がある。
 オイラーはこの論文の最後に、以下の様に6つの値を記した。
1+1/2²+1/3²+1/4²+・・・=π²/6
1+1/2⁴+1/3⁴+1/4⁴+・・・=π⁴/90
1+1/2⁶+1/3⁶+1/4⁶+・・・=π⁶/945
1+1/2⁸+1/3⁸+1/4⁸+・・・=π⁸/9450
1+1/2¹⁰+1/3¹⁰+1/4¹⁰+・・・=π¹⁰/93555
1+1/2¹²+1/3¹²+1/4¹²+・・・=691π¹²/6825・93555

 ここで、上から順に分母の値をA,B,C,D,Eとすると、A=1/6,B=2A²/5,C=4AB/7,D=4AC/9+2B²/9,E=4AD/11+4BC/11となる事は、”計算の神様”オイラーのなせる技だとしても驚愕である。
 それに、これらの値が全て以下で述べる計算法による近似値と、小数点以下15桁近くまで一致している。
 例えば、1/n²をバカ正直に足し合わせるのは収束が遅すぎて効率が悪い。そこでオイラーは極めて収束が早い計算方法を編み出した。
 それこそが現在”オイラー=マクローリン法”と呼ばれる巧妙なアルゴリズムである。
 数十項の和だけで数十桁の精度をはじき出す事が出来、かつて”天才計算家”ラマヌジャンも多用して、様々な等式を発見したとされる。

 そこでオイラーは、(かなりややこしくなりますが)以下の様にこの計算法を導いた。
 まず、S(x)=f(x)+f(x+1)+f(x+2)+f(x+3)+・・・とおき、S(x+1)=f(x+1)+f(x+2)+f(x+3)+f(x+4)+・・・と表す。
 ここで、D=d/dxとしてマクローリン展開を使えば、S(x+1)=S(x)+S’(x)1+S’’(x)1²/2!+S’’’(x)1³/3!+・・・=(Σ[0,∞]ₙDⁿ/n!)S(x)=e^D・S(x)と書ける。
 因みに、eˣはΣ[0,∞]ₙxⁿ/n!とテイラー級数で表され、e^D=Σ[0,∞]ₙDⁿ/n!と表せる。
 そこでy=S(x)とすれば、S(x+1)−S(x)=−f(x)とS(x+1)−S(x)=e^D・y−yの二通りで表せます。故に、(e^D−1)y=−f(x)の微分方程式の特殊解を求める為に、1/(e^D−1)をベルヌーイ数Bₙを用いた無限級数で表すと
 1/(e^D−1)=(e^D−(e^D−1))/(e^D−1)=(De^D/(e^D−1)−D)/D=(Σ[0,∞]ₙBₙDⁿ/n!−D)/D=(B₀+B₁D+Σ[2,∞]ₙBₙDⁿ/n!−D)/D=1/D−1/2+Σ[2,∞]ₙBₙDⁿ⁻¹/n!を得る。
 因みに、ベルヌーイ数の母関数表示”x/(eˣ−1)=Σ[0,∞]ₙBₙxⁿ/n!”を使ってますが、eˣ−1のテイラー展開式とx/(eˣ−1)を掛けたものがxである事から、ベルヌーイ数の漸化式”Bₙ=-1/(n+1)Σ[0,n-1]ₖBₖ(n+1)!/(n+1-k)!k!”が導ける。
 そこで、この漸化式を使いBₙを求めると、B₀=1,B₁=1/2,B₂=1/6,B₄=-1/30,B₆=1/42,B₈=-1/30,B₁₀=5/66,B₁₂=-691/2730,...およびB₂ₖ₊₁=0(k≥1)を順に得る。

 以上を(e^D−1)y=−f(x)に当てはめると、
1/(e^D−1)=−y/f(x)=1/D−1/2+Σ[2,∞]ₙBₙDⁿ⁻¹/n!となり、y₀=−f(x)/D+f(x)/2−Σ[2,∞]ₙBₙDⁿ⁻¹f(x)/n!
=−∫f(x)dx+f(x)/2−Σ[2,∞]ₙBₙf⁽ⁿ⁻¹⁾(x)/n!ー②
という形式的な特殊解を得る。
 但し、−f(x)/D=g(x)とおけば、dg(x)=−f(x)dxとなり、∫dg(x)=∫−f(x)dxから−f(x)/D=−∫f(x)dxを得る。

 実際に、この”オイラー=マクローリン法”を使い、1/nˢの級数の和(=ζ(s):ゼータ級数)を求めるには、aを適当な大きさの自然数とし、途中までの項Σₙ[1,a-1]1/nˢを求めます。
 更に、上で求めた特殊解の式にf(x)=1/(a+x)ˢを適用して特殊解S(x)を見出し、残りの和S(n)=Σ[0,∞]ₙ1/(a+n)ˢを求める。
 ②式より、S(x)=−∫(1/(a+x)ˢ)dx+1/2(a+x)ˢ−Σ[2,∞]ₙBₙ(1/(a+x)ˢ)⁽ⁿ⁻¹⁾/n!=1/(s−1)(a+x)ˢ⁻¹+1/2(a+x)ˢ+Σ[2,∞]ₙBₙs(s+1)・・・(s+n−2)/n!(a+x)ˢ⁺ⁿ⁻¹を考える。
 しかしnが偶数の時、|Bₙ/n!|~2/(2π)ⁿであるから、右辺の無限和は発散する。これは、ζ(s)=|Bₙ|(2π)ⁿ/2n!とs(s+1)・・・(s+n−2)/(a+x)ˢ⁺ⁿ⁻¹→∞から明らかですね。

 そこで、この近似値を求める際には、発散し始める前の有限和で計算を打ち切る。これは論理の飛躍にも思われるが、もしf(x)が多項式なら十分に高い導関数は0となり、上の解法により特殊解を多項式として書き出せる。
 一方で、f(x)が多項式でない時は(同じ様な解法で)局所的に微分方程式を満たす関数の中から大域的にS(x)に近似する関数を見いだせる。
 因みに、これらの正確な誤差はf(x)の高階導関数と周期関数との積の積分で表される(「UBASICによる解析入門」)ので、有限和で計算を打ち切る事ができるとある。 

 以上より、f(x)が局所的に多項式に近似すると考えれば、それ程矛盾した事ではない・・・
 私から見れば気の遠くなる様な計算だが、つまり、オイラーの確信はこういう所からも見て取れる。


最後に

 一般のオイラー=マクローリン法は、部分積分を繰り返して厳密に証明される。確かに、こっちの証明の方が論理の飛躍はないので解りやすいかもしれない。
 一般形の公式はややこしいので、ここでは省くが、公式の左辺に現れるのは、関数の値の和Σ[1,n]f(x)と定積分∫[0,n]f(x)dxとの誤差(微分を用いた誤差補正)という単純な形になる。
 丁度、関数f(x)曲線の下側の面積を短冊状の細い長方形の和で近似するイメージです。

 公式の右辺も(同じ様にΣと∫の差になりますが)各項の分母には階乗が、分子には高階微分f⁽ⁿ⁾(x)があり、Σの項にはベルヌーイ数Bₙが、∫の項にはベルヌーイ関数Bₙ(x)が現れる。
 因みに、Σの方はBₖとf⁽ᵏ⁾(n)−f⁽ᵏ⁾(0)の積の形を、∫の方はBₙ(x)とf⁽ⁿ⁾(x)の積の形をしている。
 証明は、n(実際には2m)に関する数学的機能法を使う。詳細は省くが、n=1の時はベルヌーイ数とベルヌーイ関数の初期条件から明らかで、n=n+1の時は部分積分とベルヌーイ数の性質を使って式を変形し、証明する。

 オイラーは自らの著作の中でも、微分方程式による解や近似値を数多く調べている。
 つまり、微分方程式による解法はオイラーにとって中心的なテーマでした。彼は方程式そのものを解くだけでなく、それらを適用し、世界の様々な現象を調べた。特に天体の運行の計算には多大な力を注ぎました。
 この微分方程式を解く中で、関数の世界はどんどん広がり、「無限解析入門」の中でオイラーは関数を”解析的表示式”と呼んだが、それらがどんな関数を指してたかは定かではない。
 現代的で言えば、1変数の複素解析関数に近いとされるが、実はもっと広い意味があったのかもしれない・・・

 「オイラーの無限解析」(高瀬正仁訳)は、18世紀最高の数学者であるレオンハルト・オイラーの名高い3部作の第1作「無限解析序説」(全2巻)の第1巻の和訳である。
 解析学に現れる”無限”をどの様に普遍的かつ代数的に扱えば良いか・・という問題意識に貫かれているが、無限級数と無限乗積の世界を自由に往還するオイラー数学の闊達さやそのスケールの大きさには、憧憬の念を抱かざる負えない。
 一方で、例えば解析的数論や(変数分離型)微分方程式の代数的積分の理論など、オイラーの偉大さを再認識する事が出来る
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2 コメント

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オイラーマクロ―リン法 (HooRoo)
2024-01-10 17:36:39
無限積展開までは
何とかクリアできたけど
マクローリン法の方?が全くでーす 
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Hooさん (象が転んだ)
2024-01-11 01:56:05
オイラーマクローリン法については
参考文献を見失ってしまい、判りづらい所がありました。
ほんと申し訳ないです。

オイラーマクローリン法に関して
後日、記事を新たに書くつもりですが、少しでも参考になればと思ってます。
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