「JXとの統合に反対」、東燃・中原元社長が激白
東洋経済オンライン http://toyokeizai.net/articles/-/102832より
──経産省は、設備廃棄を促すエネルギー供給構造高度化法(高度化法)や産業競争力強化法を盾に、石油業界再編を後押ししてきた。
業界は戦前から統制色が濃かったが、今のやり方はまったく時代と逆行している。高度化法は2010年の民主党政権時代に作られたもの。それを安倍晋三政権になり、経産省がいわば悪用し、高度に統制的なものにすげ替えてきた。
高度化法には罰則が設けられており、いちばん厳しい金融商品取引法並みだ。統制経済の思考で再編を進めたいだけだろう。経産省の手法は1963年の亡霊を思い出させる。当時は旧通商産業省が自動車などの産業保護のため、国際競争力強化法案を作ろうとした。その後、本田宗一郎さんの反対で特定産業振興臨時措置法案と名を変えたが、廃案になった。
今回は悲願の特振法が日の目を見たことになる。TPP(環太平洋経済連携協定)が世界経済の主流になる中、矛盾した動きである。
石油開発のINPEXに集約する動きも
──国内では石油元売り会社が3グループに集約されようとしている。
1960年代は成長産業を助ける名目だったが、今日では斜陽産業の石油業界を何とかしようとしている。足元では石油元売りや商社の持つ“水浸し”の上流権益を、準国策会社のINPEX(国際石油開発帝石)に集約しよう、という動きもあるらしい。
非常に驚くべき話で、既得権益の権限拡大を許せば、政治家の介入や官僚に対する饗応など、ずいぶん弊害が出る。INPEXやJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)のトップは経産省出身者が多い。
経産省が石油業界の一部のようになっている。何かしら、望ましくないような事態が起こるのではないか、といささか危惧する。
──経産省は石油産業の国際競争力を高めるため、という題目を掲げているが。
国際競争力って何ですか。1960年代の特振法でも、同じテーマを掲げていたが、収益力を高める具体的なメニューが見えない。(元売り各社が計画に掲げる)アジアでの精製販売事業なんて、欧米の石油メジャーがとっくに捨てたマーケットですよ。
肝心の国内の精製販売事業の収益力をどう立て直すのか。それこそが日本の石油供給の安定につながる。寡占化で国内の競争がなくなるのは、石油元売りにとってはうれしいだろう。統合でシェアが50%を超えれば、ガソリンや灯油の価格決定力が格段に上がる。私がJXの社長だったらバンザイ三唱ぐらいはするでしょう。
──再編は寡占化を生み、消費者のためにならないと。
安倍政権の経済政策の根幹は、海外に比べて高い日本のエネルギーコストをいかに安くするか、だ。石油価格を上げて家計を圧迫するのは、電力自由化の動きなどとまるで逆行している。今後の公正取引委員会の判断は、非常に大きな意味を持つだろう。
統合決議は数票の僅差だった?
戦前から日本には、民族系と外資系の石油会社が共存していた。わが国の政府は外資を制約しようと、1934年の第一次石油業法に続き、1962年に第二次石油業法を作った。民族系が有利になるよう、石油精製能力拡張を割り当て、さらに共同石油を設立した。
その後、1980年代後半に私と出光興産の出光昭介社長の二人で、石油審議会で自由化を主張して、石油業法は撤廃に追い込まれたわけだ。
──元売り各社は低収益体質にあえぐ。東燃元社長としてJXとの統合には反対か。
かつての東燃ゼネラルは日本のエクセレントカンパニーだった。だが、今や財務が悪化し、2014年は子会社を減資してまで利益を計上。ついには自力更生の道を放棄したようだ。東燃ゼネラルを愛している従業員や関係者は、みな失望していると思う。JXと東燃ゼネラルの統合は、売上高10兆円対3兆円と完全にアンバランスで、東燃ゼネラルはのみ込まれる。
いちばん問題なのは、影響力のある株主がいないこと。現経営陣はマネジメント経験がまだ浅く、十分な収益を上げていない。いつまで38円という高配当を続けられるか。
東燃ゼネラルが統合を決議した取締役会は、トップが強く働きかけたにもかかわらず、数票の僅差だったと聞く。売上高3兆円の巨大な東燃ゼネラルが存在感を失ったのは誠に残念なことだ。
(「週刊東洋経済」2016年2月6日号<1日発売>「核心リポート01」を転載)