2001年6月30日(土)
フェイセズ「A NOD IS AS GOOD AS A WINK...TO A BLIND HORSE」(WARNER BROS.)
先日、第一期ジェフ・ベック・グループを取り上げたが、69年のグループ解散後、そのうちのロッドとロンのふたりが行った先がこのフェイセズ(当初はスモール・フェイセズ)。
このふたりが参入したことは、スティーヴ・マリオットという立役者を失っていたスモール・フェイセズにとって、またとない「戦力増強」であった。
確かに米国でも何曲かのヒットを放っていたものの、どこか英国ローカル色を抜けられなかったマリオット時代に比べると、大幅にパワー・アップし、全世界的な人気を獲得するようになる。
それは、なんといってもロッド・スチュアートの「スター性」によるところが大きい。
マリオットも音楽的実力はものすごいが、いまひとつスター性にかけるうらみがある。
これは、もう天性のものであって努力ではいかんともしがたい、そういうものなのだ。
ロッドの容姿、そして歌声のもつ「華」、これはスティーヴ・マリオットだろうが、ゲイリー・ホプキンスだろうが、まるでかなわない。
デビューして1年あまり、人気もうなぎ登り状態であった彼らのサード・アルバムがこれ、「馬の耳に念仏」である(しかし、この邦題、うまくつけたもんだね~)。
すでにロッドはフェイセズと並行してソロ・レコーディングにも力を入れていた。ほぼ同時期にリリースしたアルバム「エヴリ・ピクチュア・テルズ・ア・ストーリー」、シングル「マギー・メイ」も大ヒットした。
もちろん、グループのアルバムのほうも、大ヒット。日本のリスナーにもフェイセズの名を定着させたといってよい。
30年を経た今、あらためて聴いてみると、実にいいんだな、これが。
奇をてらった進歩的なサウンドを聴かせるわけでもない。これ見よがしのテクニックを披露するわけでもない。
あくまでもシンプルでオーソドックスなロックン・ロール、R&Bを聴かせるバンド・サウンド。
だが、ロッドの歌は何と言ってもうまいし、気の合った仲間をバックに生き生きと歌っている感じで、魅力的だ。
シングル・ヒットした「ステイ・ウィズ・ミー」(ロッド&ロンの共作)を中心の9曲。
ほとんどはオリジナルだが、唯一、チャック・ベリーの「メンフィス、テネシー」をカバーしているのが目につく。
このどこかイナタい曲を、イナタめに歌うロッドがイカしている。
アメリカ市場を狙って、ど真ん中にストライクが決まった、そんな感じだ。
他の多くの曲はロッド&ロンによるものだが、意外にがんばって何曲も書き、かつリード・ヴォーカルもとっているのが、オリジナル・メンバーのロニー・レイン(b)。
彼はマリオット在籍時、コンビで名曲を数多く生み出してきただけあって、ソング・ライティングにもセンスがあり、歌声にもロッドとは違った軽妙な味わいがある。もうひとりのリード・ヴォーカリストといっていいだろう。
それから、サウンド作りの上で面白く感じたのは、ロン・ウッドがほとんどギター・ソロらしいソロを弾かないということだ。あくまでも、歌のバッキングに徹しており、たまにスライド・ギターで短いソロを入れる程度なのだ。
他のメンバーの演奏についても同様のことがいえるが、アンサンブル重視で、誰かひとりがでしゃばるということはまるでない。
演奏重視の傾向の強いブリティッシュ・ロックのバンドには珍しい、ヴォーカルをまず重視したサウンド作り、このへんにフェイセズのアメリカでの人気の理由があるように思った。
このアルバムの後フェイセズは、ロニー・レインの脱退、山内テツの参加などいろいろあり、75年暮れには解散してしまう。
ロッドはご存知のように、ソロ・シンガーとして大成功をおさめ、ロンはストーンズへ迎え入れられ、残ったメンバーはマリオットとスモール・フェイセズを再結成することになるのだが。
とにかくこの一枚、スモール・フェイセズ以来の、「歌作り」を重視する姿勢が反映されていて、聴きごたえのあるアルバムに仕上がっている。
歳月の流れに負けて風化することのない一枚といえそうだ。
昔よく聴いたあなたも、ぜひもう一度ライブラリーから引っぱり出して、聴いてみてほしい。