NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#56 フリートウッド・マック「THE MASTERS/LONDON LIVE '68」(Eagle)

2022-01-09 05:02:00 | Weblog

2001年7月28日(土)



フリートウッド・マック「THE MASTERS/LONDON LIVE '68」(Eagle)

先月、マックの「ブルーズ・ジャム・イン・シカゴ」を取上げてみたが、この一枚も、彼らがアルバム・デビューして間もない時期に録音されたものである。

タイトルでわかるように1968年4月、ロンドンは「ポリテクニック・オブ・セントラル・ロンドン」にてのライヴ盤。

聴衆は(推定)ほぼ全員オトコ。いかにもブルーズマニアな連中の「集会」という趣きのコンサート。

エルモア・ジェイムズの「ガット・トゥ・ムーヴ」にてステージは始まる。

もちろん、マックの看板スライド・ギタリスト、ジェレミー・スペンサーの最も信奉するアーティストへのトリビュートである。

続いての「アイ・ヘルド・マイ・ベイビー・ラスト・ナイト」も、エルモアのカバー。

リード・ヴォーカルはジェレミー・スペンサー。エルモアをほうふつとさせる、ラフで攻撃的なシャウトが聴ける。

彼もまだ、20代前半。圧倒的に「若い!」って印象の歌声である。

もう一曲、スペンサーのスライドを前面にフューチャーした「マイ・ベイビーズ・スウィート」。これはサニーボーイIIの作品。

「マイ・ベイビーズ・ア・グッダン」は、どこかで聞いたことがあるようなタイトルだが、スペンサーのオリジナル。

アップテンポのシャッフル・ナンバー。もちろんこの曲でも、スペンサーの達者なスライド・ソロが聴ける。

エルモアの「ダスト・マイ・ブルーム」の影響がモロに出た、ノリのいい曲、そして演奏だ。

一転、次の「ドント・ノウ・フィッチ・ウェイ・トゥ・ゴー」ではグリーンがリードギターを弾く。

ウィリー・ディクスン、パイントップ・パーキンス作のスロー・ブルース。

このソロが、実にいい。グリーンのお家芸、泣きとタメのギターが存分に楽しめる。

次はテンポを上げて、軽快なシャッッフル・ナンバー「バズ・ミー」を演奏。

ここでも、グリーンのレスポールは、素晴らしく伸びとツヤのあるフレーズを奏でている。ファン必聴。

「ウォリード・ドリーム」は、B・B・キングの作品。グリーン十八番のマイナー・スロー・ブルース。

「ブラック・マジック・ウーマン」の名演でその名をとどろかせたグリーンの、真骨頂が凝縮された一曲。

とにかく、その音色といい、フレージングといい、「神の技」の域に達している。

「ザ・ワールド・キープス・オン・ターニング」は、珍しくオリジナル。グリーンの作品。

重たいビートのギター、唸るようなヴォーカルが印象的な、スロー・テンポのワン・コード・ブルース。

オリジナルとはいえ、どう聴いても、後年のポップなマックの面影など全くない、純度120%のブルーズ・ワールドだ。もう、濃いのなんの(笑)。

ステージはミディアム・テンポの、「これぞブルース!」という歯切れのよいチューン、「ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット」で佳境を迎える。

ラストは再び、スペンサーのスライド・ギターをフィーチャーした「ブリーディング・ハート」。

これまた、エルモアのナンバーである。

こうやって全編を聴いてみて感じたのは、彼らがもう、頭に「ど」がつくくらい「ブルーズ一徹」な集団だったということ。あたまのてっぺんからつま先まで、どっぷり黒人ブルース漬けなんである。

この音を聴いて、彼らがのちに、全米ナンバーワン・ヒット・アルバムを出すようなグループに変身するとは、誰が想像できたであろうか。

そういう意味で、マックほど変遷を重ねたバンドも珍しいといえるだろう。

「噂」以降でマックを知り、聴くようになったファンがこの一枚を聴いて、どのように感じるだろう。

おそらく、「何、これ?」なんであろうが(笑)。

でも、筆者的には、この「純粋にブルースを追求するマック」も大好きである。

なんといったって、ピーター・グリーンという不世出のギタリストの、一番旬な時期の演奏がきけるんだから。

「くさやの干物」のように、最初はそのブルース濃度の高さに「オエッ」となるかも知れないが、聴けば聴くほど、味わいの出てくる一枚でっせ。

だまされたと思って(笑)、一度聴いてみておくんなせえ。