2001年11月4日(日)
バディ・ガイ「スリッピン・イン」(BMGビクター BVCQ-634)
1.I SMELL TROUBLE
2.PLEASE DON'T DRIVE ME AWAY
3.7-11
4.SHAME, SHAME, SHAME
5.LOVE HER WITH A FEELING
6.LITTLE DAB-A-DOO
7.SOMEONE ELSE IS STEPPIN' IN(SLIPPIN' IN, SLIPPIN' OUT)
8.TROUBLE BLUES
9.MAN OF MANY WORDS
10.DON'T TELL ME ABOUT THE BLUES
11.CITIES NEED HELP
バディ・ガイ、1994年の作品。エディ・クレーマーのプロデュース。
いつもハイ・テンションな歌とギターを聴かせてくれるバディだが、この一枚も勿論、全編気合いの入ったプレイがギッシリだ。
まずは、ボビー・ブランドのヒット、(1)。クレジットにはドン・ロビー=ディアドリック・マローンとあるが、当然ながらブランド自作の曲を買い上げたもの。
スロー・ブルースながら、のっけから歌のテンションは高く、ハイ・トーンのバディ節が全開である。
で、リズム隊の音、どこかで聴いた覚えがあるなあと思えば、今は亡きスティーヴィー・レイ・ヴォーン率いるダブル・トラブルの面々でした。
ベースのトミー・シャノン、ドラムスのクリス・レイトンのほか、この曲のみキーボードのリース・ワイナンスも参加。
SRVサウンド復活!という感じの、タイトな演奏が実にグーだ。
続く(2)はチャールズ・ブラウンの作品。アップ・テンポで、ガンガン飛ばしまくる一曲。
ここからは、チャック・ベリーのピアニストとして知られるベテラン、ジョニー・ジョンスンが登場。
ワウワウなどギター・エフェクト全開、若いもんにはまだまだ負けん!といわんばかりのギラギラしたバディのプレイが聴ける。それこそ、SRVも顔負け。
(3)もフェントン・ロビンスン作曲の典型的スロー・ブルース。
歌もギターも、(1)よりはメロウでしっとりとした雰囲気だ。また、ジャズィなセンスを湛えた、ジョンスンのソロ・プレイが味わい深い。
さて、曲調はまた一転、アップ・テンポの(4)へ。ジミー・リードの作品。
チャック・ベリーの「メンフィス」などと同系統のシャッフル・ナンバー。この「ノリ」が実に心地よい。バディも肩の力を抜いた自然体の歌&ギターを披露してくれる。
(5)はローウェル・フルスン作、タンパ・レッドのヒットで知られる、ミディアム・スロー・ナンバー。
マディの「フーチー・クーチー・マン」を思わせる重心の低いアレンジにのせて、バディの粘っこいギター・フレーズが炸裂! 聴き応え十分だ。若いロック・ギタリストにも参考になる、いかしたリック満載。
(6)はバディのオリジナル。歌詞から見るに、口説きソングといえるが、それにふさわしく、バディの歌も抑え目でムードがある。
スロー・ビートにのせた「泣き」のギターもまたよし。これを聴けば、世の女たちは皆イチコロ!?
アルバム・タイトルとしても引用された(7)はデニス・ラサール作、R&B系シンガーのカバーが多いナンバー。ファンキーなリフがいかしている。
シカゴのブルース・クラブではことのほか人気の高い曲だそうだ。
アルバム中では唯一のライヴ録音。客席の熱い反応がダイレクトに伝わってくる。
(8)ではふたたび、チャールズ・ブラウンの大ヒットを取上げている。ブラウン一流のメランコリックなメロディ・ラインが「気分」な、去って行った恋人へ贈るフェアウェル・ソング。
バディの歌もギターも実に繊細で、ちょっとオーティス・ラッシュ風。全体的にテンションの高い、このアルバムの中ではちょっと異彩を放っている。
(9)は、あらなつかしや、70年代エリック・クラプトンと共演した、「バディ・ガイ&ジュニア・ウェルズ・プレイ・ザ・ブルース」収録曲の再演。バディのオリジナル。
キャッチーなリフ、ヘヴィーなビート。今聴いても、なんともロック感覚あふれるナンバーで、ブルースという枠におさめきれないバディの幅広い音楽性を再認識できる。
(10)は、J・クインという詳細不明のアーティストのナンバー。
ブルースの本質とは何ぞや? そこそこにレコードも売れて名前も知られるようになったブルースマンが歌っているのは、本当に「虐げられた者たちの音楽=ブルース」といえるのか? そういう深く本質的な問題をつきつけたへヴィーなナンバーだ。
ハイ・テンションな歌、そして派手なスクウィーズ・プレイも絶好調の、スロー・ブルース。どことなく、アルバート・キングを匂わせるフレーズも聴かれる。
こうやって聴いて来ると、ギタリストとしての彼は、さまざまなギタリスト(ロック系も含む)の影響を受けながらも、コピーに終わることなく、必ず自分流に消化したフレーズを紡ぎ出しているのがよく判る。
最後の(11)は、ふたたびバディのオリジナル。「社会派」的な歌詞がちょっとユニークなナンバー。
ささやき、うめくような「引き」のヴォーカルは、ふだんの「押し」で迫る彼とはだいぶん趣きが違うが、これも結構イケてる。バディの引き出しの多さがよくわかる曲だ。
そしてギターのディストーション・トーンもまた、心にしみる。幕引きにふさわしい、味わいに満ちたナンバーだ。
アルバム発表当時、バディは57~58歳。一般社会では定年間近、決して若いとはいえない彼が、往時と変わらぬ迫力あるヴォーカル、そしてエネルギッシュなギター・プレイを聴かせてくれる。驚嘆せざるをえない。
もちろん、65歳となった現在でも、現役バリバリ。レコーディングに、ライヴに、決してテンションを落とすことなく、精力的な活動を続けている。「生涯現役ブルースマン」、バディ・ガイはやはり無敵だ。
そんな彼のアルバムの中でも、この「スリッピン・イン」は、完成度が高く、一聴の価値があると思う。
この一枚から、彼の不滅のブルース魂、そして常に新しい音を模索する、進取の気性を感じとって欲しい。