NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#68 ハニードリッパーズ「VOLUME TWO」(プライヴェート盤・HDS-A1381CD)

2022-01-21 07:25:00 | Weblog

2001年10月7日(日)



ハニードリッパーズ「VOLUME TWO」(プライヴェート盤・HDS-A1381CD)

さて、今日は昨日に引き続いて、またもハニードリッパーズ。

筆者はある日、中古CDショップでこの1枚を発見した。おお、彼らのセカンド・アルバム!

が、たしか一作のみで終わったプロジェクトのはずである。「VOLUME TWO」とは、これいかに…?

よくよく確かめてみると、これはライヴを録音したプライヴェート盤(いわゆるブートですな)。

しかも、録音されたのは「ヴォリューム・ワン」に先立つこと3年も前の、81年4月13日。

これはどういうことかというと、元々「ハニードリッパーズ」というグループ名は、ZEP解散後のプラントが、ソロ・デビューするまでのしばらくの間活動していたバンドにつけていたもの。

そのグループではレコードを出すまでに至らず、このライヴ録音のみが残っていた、ということだ。

要するに、「ヴォリューム・ワン」のハニードリッパーズとはまるきり別のバンドなんでご注意を。

さて、このアルバム、ロバートの故国イングランドはノッティンガム、「ザ・ブルー・ノート・クラブ」でのライヴ。

観客はどうもZEPの時代とはうってかわって、男性客、それも中年以上ばかりのようで、プラントが登場しても黄色い喚声が上がらず、はなはだ盛り上がらない(笑)。

が、めげずに何度も「GOOD EVENING」と呼びかけ、「リトル・シスター」からスタート。

もちろん、プラントが最もリスペクトするシンガー、エルヴィス・プレスリーのヒット曲だ。

「ラスト・ダンスは私に」で知られる名ソングライター、ドク・ポーマス、モート・シューマンのコンビによる作品。

この軽快なロックン・ロールに続くのは「ヘイ・メイ」。

ケイジャン・ミュージックと呼ばれるジャンルでの代表選手、「ルイジアナ・マン」や「ディギ・ディギ・ロー」のヒットがある、ダグ&ラスティ・カーショウ兄弟の自作ヒット。シェイキン・スティーヴンスのカバー版もある。

迫力あるコーラスをバックに、ワイルドにキメるプラント。

三曲目はジーン・ヴィンセントをカバーした「アイ・ウォント・ユー・バック」。

低音で抑えたヴォーカル、ソリッドなギター・プレイ、いかにもいかにもな、ロカビリー・サウンドである。

続く「トゥルー・ラヴ」もまた典型的なノリのいいロカビリー・チューン。

「ディープ・イン・ザ・ハート・オブ・テキサス」は、ハーシー=スワンダー・コンビ作による、ビング・クロスビーがオリジナルのカントリー。

というよりむしろ、レイ・チャールズ、ペリー・コモ、デイヴ・エドマンズも歌っている、カントリー・スタンダードと呼ぶべきか。

続いて、ギター、2本のサックスをフューチャーしたインスト・ナンバー。

バックをつとめるハニードリッパーズは、ローカル・バンドっぽいイナタい演奏で、格別うまい!という感じではないが、50年代頃のR&Bバンドの持っていた「ムード」はうまく再現している。ギターはリズム感がシャープで、ジミー・ペイジよりちょっと上手い、かな(笑)。

ZEPと比較すると、ドラムスがドカドカ、ドスドスという感じのプレイで、あまりに聴き劣りするのだが、それをいっちゃあおしまいよ、なんだろう。

ボンゾがスゴ過ぎたのであって、こちらが格別ひどいわけではない。

ここはZEPのことはさらりと忘れて、虚心に聴いていくことにしよう。

ステージの前半は白人音楽中心だったが、後半はブラックものがメイン。

「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」はもちろん、ハウリン・ウルフのナンバー。

ウルフのダミ声とは対照的な、超高音でのシャウトが圧倒的迫力。

続くはアルバート・キングのナンバー「クロスカット・ソー」。

ここでは、ギターの泣きのプレイがなかなかグー。

かつてのZEPナンバーも、一曲だけ登場。サニーボーイ・ウィリアムスンIIの「ブリング・イット・オン・ホーム」である。

ただし、ZEP流でなく、サニーボーイの原曲に忠実なアレンジで。ここでプラントはお得意のハープをじっくり聴かせてくれる。

このハープの響きが深~くて、実にいいんだな。

すっかりブルース・モードになったところで、ダメ押しの一打は、マディ・ウォーターズの「キャント・ビー・サティスファイド」。スライド・ギターのプレイがまたいい。

さらには、ビッグ・ビル・ブルーンジーの「ホワット・キャン・アイ・ドゥー」も。アップ・テンポでぐいぐいと飛ばして、まさに痛快。

お次は白人ロッカー、バディ・ホリーのナンバー「テル・ミー・ハウ」。ホリーの盟友、ジェリー・アリスン、ノーマン・ペティらの作品。

いかにもホリー・サウンドらしい、軽快にかき鳴らされるリズム・ギターがナイス。

ステージは「クィーン・オブ・ザ・ホップ」でいよいよ佳境へ。50~60年代活躍したロック&ポップス歌手、ボビー・ダーリン(「マック・ザ・ナイフ」で有名)のスマッシュ・ヒット。

ダーリン=ハリスのコンビによる作品。これがいかにも威勢のいいロックン・ロール。

さらには再び、ジーン・ヴィンセントのヒット曲「シー・シー・シー・シーラ」を熱唱。

アンコールは、なんとマディ・ウォーターズの「モジョ・ワーキン」。

ちょっとベタ過ぎる展開じゃないの?と突っ込みたくもなるが、このキラー・チューンのおかげで、場内は大熱狂の合唱大会。

サックスもここぞと吹きまくり、ギターやハープも暴れまくる。

興奮のうちにライヴは終了。なんともローカル・バンドそのもの、カバーばかりのベタなステージ構成に思わず笑ってしまった。

ZEPの、緻密に計算、演出されたステージに比べれば、だいぶんラフで適当、リラックスした演奏。

でも、けっこうノレるんだな、これが。

「まず演奏する自分たちが楽しむ」という「バンドの基本精神」が感じられるということか。それが、お客をも自然と引きつけ、リラックスさせる源なのである。

なにより、ZEPというトップ・バンドで歌うというプレッシャーから解放されたためだろうか、プラントの歌は実に生き生きとして魅力的である。

「メジャーになる」「ヒットを出す」などということより、まず「演奏を楽しむ」、これがバンドの原点なんだなと教えてくれた1枚でありました。