2001年10月7日(日)
ハニードリッパーズ「VOLUME TWO」(プライヴェート盤・HDS-A1381CD)
さて、今日は昨日に引き続いて、またもハニードリッパーズ。
筆者はある日、中古CDショップでこの1枚を発見した。おお、彼らのセカンド・アルバム!
が、たしか一作のみで終わったプロジェクトのはずである。「VOLUME TWO」とは、これいかに…?
よくよく確かめてみると、これはライヴを録音したプライヴェート盤(いわゆるブートですな)。
しかも、録音されたのは「ヴォリューム・ワン」に先立つこと3年も前の、81年4月13日。
これはどういうことかというと、元々「ハニードリッパーズ」というグループ名は、ZEP解散後のプラントが、ソロ・デビューするまでのしばらくの間活動していたバンドにつけていたもの。
そのグループではレコードを出すまでに至らず、このライヴ録音のみが残っていた、ということだ。
要するに、「ヴォリューム・ワン」のハニードリッパーズとはまるきり別のバンドなんでご注意を。
さて、このアルバム、ロバートの故国イングランドはノッティンガム、「ザ・ブルー・ノート・クラブ」でのライヴ。
観客はどうもZEPの時代とはうってかわって、男性客、それも中年以上ばかりのようで、プラントが登場しても黄色い喚声が上がらず、はなはだ盛り上がらない(笑)。
が、めげずに何度も「GOOD EVENING」と呼びかけ、「リトル・シスター」からスタート。
もちろん、プラントが最もリスペクトするシンガー、エルヴィス・プレスリーのヒット曲だ。
「ラスト・ダンスは私に」で知られる名ソングライター、ドク・ポーマス、モート・シューマンのコンビによる作品。
この軽快なロックン・ロールに続くのは「ヘイ・メイ」。
ケイジャン・ミュージックと呼ばれるジャンルでの代表選手、「ルイジアナ・マン」や「ディギ・ディギ・ロー」のヒットがある、ダグ&ラスティ・カーショウ兄弟の自作ヒット。シェイキン・スティーヴンスのカバー版もある。
迫力あるコーラスをバックに、ワイルドにキメるプラント。
三曲目はジーン・ヴィンセントをカバーした「アイ・ウォント・ユー・バック」。
低音で抑えたヴォーカル、ソリッドなギター・プレイ、いかにもいかにもな、ロカビリー・サウンドである。
続く「トゥルー・ラヴ」もまた典型的なノリのいいロカビリー・チューン。
「ディープ・イン・ザ・ハート・オブ・テキサス」は、ハーシー=スワンダー・コンビ作による、ビング・クロスビーがオリジナルのカントリー。
というよりむしろ、レイ・チャールズ、ペリー・コモ、デイヴ・エドマンズも歌っている、カントリー・スタンダードと呼ぶべきか。
続いて、ギター、2本のサックスをフューチャーしたインスト・ナンバー。
バックをつとめるハニードリッパーズは、ローカル・バンドっぽいイナタい演奏で、格別うまい!という感じではないが、50年代頃のR&Bバンドの持っていた「ムード」はうまく再現している。ギターはリズム感がシャープで、ジミー・ペイジよりちょっと上手い、かな(笑)。
ZEPと比較すると、ドラムスがドカドカ、ドスドスという感じのプレイで、あまりに聴き劣りするのだが、それをいっちゃあおしまいよ、なんだろう。
ボンゾがスゴ過ぎたのであって、こちらが格別ひどいわけではない。
ここはZEPのことはさらりと忘れて、虚心に聴いていくことにしよう。
ステージの前半は白人音楽中心だったが、後半はブラックものがメイン。
「ハウ・メニー・モア・イヤーズ」はもちろん、ハウリン・ウルフのナンバー。
ウルフのダミ声とは対照的な、超高音でのシャウトが圧倒的迫力。
続くはアルバート・キングのナンバー「クロスカット・ソー」。
ここでは、ギターの泣きのプレイがなかなかグー。
かつてのZEPナンバーも、一曲だけ登場。サニーボーイ・ウィリアムスンIIの「ブリング・イット・オン・ホーム」である。
ただし、ZEP流でなく、サニーボーイの原曲に忠実なアレンジで。ここでプラントはお得意のハープをじっくり聴かせてくれる。
このハープの響きが深~くて、実にいいんだな。
すっかりブルース・モードになったところで、ダメ押しの一打は、マディ・ウォーターズの「キャント・ビー・サティスファイド」。スライド・ギターのプレイがまたいい。
さらには、ビッグ・ビル・ブルーンジーの「ホワット・キャン・アイ・ドゥー」も。アップ・テンポでぐいぐいと飛ばして、まさに痛快。
お次は白人ロッカー、バディ・ホリーのナンバー「テル・ミー・ハウ」。ホリーの盟友、ジェリー・アリスン、ノーマン・ペティらの作品。
いかにもホリー・サウンドらしい、軽快にかき鳴らされるリズム・ギターがナイス。
ステージは「クィーン・オブ・ザ・ホップ」でいよいよ佳境へ。50~60年代活躍したロック&ポップス歌手、ボビー・ダーリン(「マック・ザ・ナイフ」で有名)のスマッシュ・ヒット。
ダーリン=ハリスのコンビによる作品。これがいかにも威勢のいいロックン・ロール。
さらには再び、ジーン・ヴィンセントのヒット曲「シー・シー・シー・シーラ」を熱唱。
アンコールは、なんとマディ・ウォーターズの「モジョ・ワーキン」。
ちょっとベタ過ぎる展開じゃないの?と突っ込みたくもなるが、このキラー・チューンのおかげで、場内は大熱狂の合唱大会。
サックスもここぞと吹きまくり、ギターやハープも暴れまくる。
興奮のうちにライヴは終了。なんともローカル・バンドそのもの、カバーばかりのベタなステージ構成に思わず笑ってしまった。
ZEPの、緻密に計算、演出されたステージに比べれば、だいぶんラフで適当、リラックスした演奏。
でも、けっこうノレるんだな、これが。
「まず演奏する自分たちが楽しむ」という「バンドの基本精神」が感じられるということか。それが、お客をも自然と引きつけ、リラックスさせる源なのである。
なにより、ZEPというトップ・バンドで歌うというプレッシャーから解放されたためだろうか、プラントの歌は実に生き生きとして魅力的である。
「メジャーになる」「ヒットを出す」などということより、まず「演奏を楽しむ」、これがバンドの原点なんだなと教えてくれた1枚でありました。