2001年9月30日(日)
ハウリン・ウルフ「THE LONDON HOWLOIN' WOLF SESSIONS」(Chess CHD-9297)
さて、今月ももう終わり。今日は、ハウリン・ウルフが相棒ヒューバート・サムリンとともに英国に乗り込み、現地のミュージシャンとのセッションを繰り広げた一枚。
もちろん、当HPの「チェスで100枚」http://www.macolon.net/chess100.htm にも入っている。70年5月録音、71年夏のリリース。
このレコーディングのために集められた、英国ミュージシャンの顔ぶれがなかなか素晴らしい。
まずは、リード・ギターにエリック・クラプトン、キーボードにスティーブ・ウィンウッドという、元「ブラインド・フェイス」組のふたり。
リズム・セクションは、ベースにビル・ワイマン、ドラムスにチャーリー・ワッツという「ストーンズ」組。
いずれもウルフに強い影響を受け、曲のカバーをしたこともあるミュージシャンばかりだ。
その他、"6人目のストーンズ"ことイアン・スチュアート(ピアノ)、ジョン・サイモン(同)、クラウス・ヴーアマン(ベース)、フィル・アップチャーチ(同、こちらはアメリカから同伴)ら実力派が参加。
まずは「ロッキン・ダディ」で軽快にスタート。「キリング・フロア」によく似た、アップ・テンポのナンバーである。60歳の誕生日を間近に控えながら、ウルフのダミ声も健在だ。
今回、サムリンはほとんどの曲でリズム・ギター役に徹し、ソロの大半はクラプトンがとっている。
この曲も彼がソロを弾いているが、ギターのフレーズにもトーンにも一種の「軽み」があり、心なしかサムリンを意識している感じである。
主役のウルフを食わないよう、アンサンブルを重視した、弾きすぎないギターに好感が持てる。
ほぼ同時期に録音した、「レイラ」あたりのプレイと比較してみると面白い。
「レイラ」のリラックス・ムードに比べると、こちらはきちんと計算され抑制のきいた、几帳面なプレイという印象なのだ。
逆に言うと、クラプトンのいつものパッショネイトな演奏を期待していた人々には、ちと物足りないかも知れないが。
いくらクラプトンが神だなんだと崇められていても、ブルース界のボス、ウルフの前に出てしまえば、彼もひよっこのようなものということか。
そういう「師匠」の前での「緊張」は若干感じられるものの、さすがトップ・アーティストたち、プレイに抜かりはない。
ことに、キーボードのウィンウッドの、出過ぎないが見事にツボを押さえたバッキングは素晴らしい。
そして、リズムのふたりが生み出すのは、余分なものを削いだ、実にタイトなグルーヴである。ウルフのレギュラー・バンドにはない、モダンさもある。
さすが英国、いや世界最強の老舗グループのメンバーだけのことはある。
さて、曲紹介に戻ると、二曲目はウィリー・ディクスンの名曲「迷信嫌い」。第一期ジェフ・ベック・グループがカバーしたことで、ロック・ファンにもすっかりおなじみになったナンバー。
この盤ではホーンも加え、ファンキーでモダンなアレンジになっている。なかなかイケます。
続いては「シッティン・オン・トップ・オブ・ザ・ワールド」。クリームのカバーで、皆さんもご存知の曲であろう。
ここでのクラプトンのプレイは、クリーム時代の息詰まるようなそれとは対照的に、自然に湧き出てきたフレーズをさらっと弾いた、そんな感じである。力むことなく、無理なくブルースを謳っているのだ。
ロックの「極大値」的エネルギーを求めるリスナーには、いささか肩すかしかも知れないが、筆者的には結構オッケーである。
次の「ウォリード・アバウト・マイ・ベイビー」も、ウルフ・ファンにはおなじみの、典型的なシャッフル・ナンバー。
ウルフ自身のハープによるイントロがなかなかカッコよろしい。彼は決してテクニシャンではないのだが、非常に味のある音色を聴かせてくれる。
「ホワット・ア・ウーマン!」はオリジナル中心の彼にしては珍しくカバーもの。ジェイムズ・オーデン作のワンコード・ブルース。
でもウルフが歌えば、すべて「ウルフ節」になっちゃってますが。
「プア・ボーイ」は「私の推薦盤」中にもあるアルバム、「リアル・フォーク・ブルース」所収の、陽気なブルース・ナンバー。
でも今回はもう少し沈んだムードで、しっとりと聴かせてくれる。
クラプトンのソロも、サムリンのプレイをお手本にして、かっちりとまとめられている。
「ビルト・フォー・コムフォート」も「リアル~」に収められていたナンバー。こちらも、少しだけビートを遅めにして、ホーンも加え、粘っこいサウンドにアレンジしなおしている。
「フーズ・ビーン・トーキング」も、代表的ナンバー。ここでの聴きものは、ラテン・ビートに乗ったウィンウッドのオルガン・プレイだろう。なんだかんだいっても、やはり、彼はウマい!
が、この盤のハイライトは、やはり次の「レッド・ルースター」だろうな。もち、ストーンズもカバーした、名曲中の名曲。ウィリー・ディクスン作。
クラプトンはここではでスライドを弾いているが、派手さはないものの、押さえるべきところはビシッと押さえたプレイ。シブい!のひと言だ。
「ドゥ・ザ・ドゥ」は、これまたワン・コード・パターンでぐいぐいと飛ばすナンバー。
「ハイウェイ49」は、ビッグ・ジョー・ウィリアムス作の、「ダスト・マイ・ブルーム」にちょい似た、ブルースの王道的ナンバー。
全員ノリノリで、セッションを楽しんでいるさまが目に見えるよう。
エルモア・ジェイムズばりのスライドを弾くクラプトン、ピアノを自在に操るウィンウッド。いずれも生き生きとしたプレイだ。
ラストは、これまた十八番、「ワン・ダン・ドゥードル」。ウルフの迫力あるダミ声が一層映える、ワン・コード・ブルース。
ここでの、クラプトンの枯れたソロもよい。クリーム時代の「スプーンフル」のこれでもか的な、コテコテなソロもスゴいが、何度も聴くと胃にもたれそうだ。
こういう「引き算」的なさらっとしたプレイもまたいいものだと思った次第。
このアルバム、全体的にアンサンブル重視の演奏で、派手さには欠けるので、いわゆる「名盤」的なくくりでいえば、入らないかも知れない。
しかし、演奏レベルは当然ながら高く、聴くたびにさまざまな発見がある。
何度聴いてもあきるということがない。これこそ、「愛聴盤」とよぶにふさわしい一枚だ。
クラプトン・ファンも、この一枚は意外にチェックもれしがちなので、どうかお忘れなく。