NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#55 テイスト「THE BEST OF TASTE」(Polydor)

2022-01-08 05:11:00 | Weblog

2001年7月21日(土)



テイスト「THE BEST OF TASTE」(Polydor)

6年前、46才の若さで亡くなったアイルランド出身のギタリスト/シンガー、ロリー・ギャラガーを覚えておいでだろうか。

彼が率いてレコード・デビューしたグループ、それが「テイスト」である。

グループの結成は66年。ロリー、17才のときである。

メンバーは彼のほか、ベースのリッチー・マクラッケン、ドラムスのジョン・ウィルスンの3名。ロック・バンドの最小単位のトリオ編成である。

となると、フォーマット的にどうしてもクリーム、BB&Aといったトリオと比較されがちだが、テイストも彼らに決してひけを取ることのない、高い実力と個性を持っている。

ハード・ロック的なセンス、演奏能力も十分に持ち合わせてはいるが、基本は、あくまでもブルース。

ロリーの弾くギター・フレーズは、本当にブルーズィの一語である。

前置きが長くなったが、とにかく、このベスト・アルバムを聴いてみよう。

彼らのメジャー・デビューは69年。実は既に67年、小レーベルから「FIRST TASTE」なるデビュー・アルバムを出してはいるのだが、世間に知られるようになったのはポリドールから「TASTE」をリリースしてからである。

以降、「ON THE BOARDS」「LIVE TASTE」「LIVE AT THE ISLE OF WIGHT」と、計4枚のアルバムを出し、71年には早くも解散している。

その後、ロリーはソロとなりブレイクするわけだが、このベスト盤は4枚のアルバムから、1・2枚目を中心に代表的な16曲をピック・アップしている。

まずは「Blister on the Moon」でスタート。ロリーのオリジナル。

これは「TASTE」でも1曲目に収められており、彼らにとっても記念すべきファースト・アピアランスである。

のっけから、ギターとベースが激しく絡みあうリフの連続、そしてヘヴィーなギターソロがさえわたる。

続く「Born on the Wrong Side of Time」も「TASTE」所収のロリーのオリジナル。アコギを加えてサウンドに厚みのある、トラッド風の作品。

「Leavin' Blues」はレッドベリーのカバー。もろに、ロリー好みのブルースなチューンである。ここではシャープな音のスライド・ギターが聴きもの。

「Hail」、「Same Old Story」、いずれもオリジナル。

前者は、アコギとボーカルのユニゾンによるサウンドが面白い、カントリー・ブルース調。

後者は、その特徴的なリフを、ダウンタウン・ブギウギ・バンドが「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」でパクったという作品である。いかにもストラト!って音のアグレッシブなソロが聴ける。彼のウリのひとつ、ギターとスキャットのユニゾンも既に聴くことが出来る。

「Catfish」はロバート・ペットウェイほかで知られる、トラディショナル・ブルースの代表的ナンバー。ベースブリブリ、へヴィーなアレンジが実にカッコよい。エコーをきかせたサイケデリックなギター・ソロもグー。

次のカントリー調ブルース、「I'm Movin' On」までの計7曲が「TASTE」からの選曲ということになる。

こうやって聴いてみると、デビュー・アルバムにして既にかなり高い完成度である。アメリカの黒人ブルースをきちんと消化して自分なりのものとしている。

とても、22才くらいの若者たちが生み出している音とは思えない。

かなり昔のブルースを貪欲に聴き込んでいった跡が感じられる。

「What's Going On」からの6曲はセカンド・アルバム「ON THE BOARDS」からのセレクション。

このアルバムでは、ほとんどが、彼のオリジナル曲となっており、曲作りにもさらに磨きがかかっている。

「What's Going On」のギター・フレーズは、ブルースだけでなく、さまざまな音楽を吸収した成果の、幅広さを感じさせる。

「Railway and Gun」はオーソドックスなスタイルのブルースにのせて、トリッキーな早弾きが炸裂。

「Eat My Words」は達者なスライド・プレイが堪能できるブルース。ブルースマン・ロリー・ギャラガーとしての面目躍如の一曲。

タイトル・チューン「On the Boards」は、あえてブルースを離れて、ジャズっぽいフレーズを聴かせてくれる異色のナンバー。彼の引き出しの多さがうかがえる。

「It's Happened Before, It'll Happen Again」もジャズィーな一曲。フォービート、ウォーキング・ベースにのせて、非ブルース的なコード&リード・プレイを展開。

多分に「実験」的性格の強いナンバーだが、音楽研究への熱意には舌を巻くばかりである。

「If the Day Was Any Longer」は一転、ダウンホームなフォーク・ブルースである。

ロリーはここでは、いなたいハーモニカもプレイ。これもまたよし、である。

最後の3曲はライヴもの。まずは「LIVE TASTE」(70年モントルー・ジャズ・フェスティバルでの録音)から「I Feel So Good」。

もちろん、かのビッグ・ビル・ブルーンジーの名曲のカバーだが、とにかく、演奏の熱気がスゴい。

飛び散る汗が目に浮かぶような、ハードに叫び、弾きまくり、突き進む演奏に、圧倒されてしまう。

筆者はこの「LIVE TASTE」を高一の頃に買ったのだが、この曲をはじめとする大半の曲での、ほとんどメロディの痕跡をとどめない(笑)、ひたすらシャウトするラフなボーカルにうちのめされたものである。

また、リチャードのベース・ソロ、ジョンのドラム・ソロを聴くと、他のメンバーもなかなかにテクニシャンであることがよくわかる。

そして、同じく「LIVE TASTE」からのスロー・ブルース、「Sugar Mama」。

ロリーのオリジナルということだが、タイトルから察しられるように、当然、サニーボーイ二世の強い影響下に作られたのだろう。

この曲もまた、気合いがスゴい。手加減なし、8分以上にわたって、熱く激しくドライヴするサウンドは聴きごたえ十分。

最後は「LIVE AT THE ISLE OF WIGHT」(69年ワイト島フェスティバルでの録音)から、彼の代表作「Sinner Boy」。

これまた、得意のスライド・ギターが全面にフィーチュアされた、オリジナル・ブルース。

オーディエンスをアオる、ワイルドなボーカルが実にイカしている。もう、上手い下手を超越しているんである。

やはり、テイストの本領はライヴでこそ発揮されるって感じだ。長期にわたるツアーの中で成長してきたバンドだけに。

このCDでは3曲と曲数は少ないが、彼らの生の魅力を十分知ることが出来るだろう。

テイスト、解散して30年もの歳月が過ぎたが、いまだにそのサウンドの「熱さ」は変わることはない。

現在オアシスに代表される「アイリッシュ・ロック」の源流ともいうべき、このグループ、ご存知でないかたも、ぜひチェックしてみて欲しい。