NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#59 マイケル・シェンカー・グループ「限りなき戦い」(東芝EMI)

2022-01-12 05:02:00 | Weblog

2001年8月18日(土)



マイケル・シェンカー・グループ「限りなき戦い」(東芝EMI)

MSG、1983年の作品。オリジナル・アルバムとしては4枚目にあたる。

筆者は他に「黙示録(Assault Attack)」(82年)なる名盤の評判高い一枚を持っており、久しく愛聴しているが、これはその次のアルバムにあたる。

原題は「Built To Destoy」。無残に服を引きちぎられた若い女がたたずむそばで、車のフロントガラスめがけ愛器のフライングVを振り下ろすマイケル。V、まっぷたつ!

合成とはわかっていてもドキッとするジャケ写だが、なんともケレン味たっぷりのタイトルとジャケットの割りには、中のサウンドは、おなじみのMSGサウンドで統一されていて、安心して聴けるもの。

というか、ちょっと小ぢんまりと、まとまり過ぎかも知れないが。

前作では、元レインボーのグラハム・ボネットがヴォーカルとして参加、文句なしに素晴らしい歌いっぷりを聴かせてくれたが、この作品では、1・2作目で参加するも一旦脱退した(というかクビになった)ゲイリー・バーデンが呼び戻されて歌っている。

オープニングの「ロック・マイ・ナイツ・アウェイ」から、さっそくアップ・テンポで快調に飛ばすMSG。マイケルの速弾きフレーズにもよどみはない。

続いて、ミディアム・テンポの「メイク・ユー・マイン」。キーボードで新参加のアンディ・ナイ(レディング・フェスの頃からステージ・サポートをしていた)のシンセに乗って、ゲイリーが熱唱。MSGお得意の「哀愁系」メロディ。ヴォーカル・ハーモニーが耳に心地よろしい。

「戦争の犬たち」は、これまたHM/HRのお手本的なキャッチーなメロディ。マイケルの煌めくようなギター・ソロも楽しめる。

マンネリといえばそれまでだが、しっかり売れセンの作りになっている。プロの「仕事」ですな~。

B'Zの松本孝弘がしっかりお手本(パクリともゆう)にしたと思われるのが、「システム・フェイリング」でのオーバーダブによる、マイケルのギター・ハーモニー。超カッコいいすよ、ご本家は。

そして彼のウルトラ・テクニックが堪能できるのがインスト・ナンバー、「キャプテン・ネモ」。さすが「神」とまで呼ばれた男だけあって、リフ・ソロともに、一分の隙もないパーフェクトな仕上がり。ただただ、脱帽、であります。

さて、問題の一曲が、続く「魔性の女」。

実はこの曲、初回のマスターではゲイリーが歌っていた。

だが、日本盤が発売されて一ヵ月後、ジャック・ダグラスによりリミックスされたマスターテープが、英クリサリス・レーベルより日本に送られて来て、今後そのマスターを使うことになった。

そのヴァージョンではなんと、この曲はサイド・ギターで新加入のデレク・セント・ホルムズが歌い直しているのである。

ゲイリーにとってはなんとも屈辱的な話であるが、この奇妙な出来事の背景には、マネージメント・サイドの思惑がいろいろと絡んでいるらしい。

過去においても、頻繁にメンバーが変わり、マネージメント・オフィスを何度も変えるなど、運営上なにかとゴタゴタの多いMSGだったが、今回新たにアメリカ・サイドでのマネージメントを依頼したレーバー&クレーブス・マネージメント(エアロスミスのマネージメントで有名)側の希望で、マスター・テープのリミックスと、デレクの新加入そして「魔性の女」の歌い直しをせざるを得なくなったというのが、実情のようだ。

「ゲイリーのヴォーカルでは、アメリカでの受けがいまイチだから、もうひとりヴォーカルを立てたほうがいい」というわけである。

確かにゲイリーのヴォーカルは、別に下手というわけではないのだが、グラハムなどと比べると、いまひとつ線が細いというか、押しが弱い感じだ。超高音でのシャウトも、ちょっと息切れ気味。

アメリカでは、ただインストが巧いだけのバンドでは売れそうにない。フロントに、より強力な個性を持った、大衆にアピールするヴォーカリストを立てるべし、こういうことなんだろうな。そのため、すでにアメリカ国内では実績のあるデレクを投入して、戦力アップをはかった。

自らをアメリカ市場で大々的に売り出すために、そういう戦略を受け入れざるを得なくなったMSG。

ただ、音楽的に高いものを生み出していればいい、というわけにはいかなくなり、その後もメンバー・チェンジ等、さまざまなゴタゴタが続いていくことになる。

案の定、翌年にはゲイリーが再びクビとなり、かわりにレイ・ケネディがリード・ヴォーカリストとなる。

もう、完全にマネージメント・サイドに振り回されてしまうのである。

そんな混迷の状況下で作られたアルバムだが、でも、作品としては、結構よく出来ている。

デレクの歌う「魔性の女」も、ゲイリーとは違ったシャープな味わいがあり、ノリのいい曲だ。

続く「レッド・スカイ」の出来もいい。ゲイリーのヴォーカルも声域が合っているのか好演だし、マイケルのギター・ソロも、緩急自在、泣きのメロ連発で本領発揮という感じだ。

「タイム・ウェイツ」は、ステディなビートのナンバー。哀感を基本に持ちながら、ポジティヴ志向の歌詞とメロディがいい。ギター・ソロのみならず、アンディのキーボード・アレンジにも注目。

ラストの「ロック・ウィル・ネヴァー・ダイ(ウォーク・ザ・ステージ)」は、スローで始まり、じわじわと盛り上げていく、クライマックスにふさわしいナンバー。

全体に、「捨て曲」「ムダ曲」がなく、どれも水準以上の出来。意外性にはとぼしいが…。

やはり、「アメリカ」という、勝ってナンボ、負けを許されないマーケットでは、こういう作りしかないんだろうな。

一方、前作の「黙示録」では、内部から湧き上がる情念、デーモンのようなものが感じられた。

それはおそらく、マイケルとグラハムという、強烈な個性を持ったふたりの天才がしのぎ合うことで、初めて生み出されたものであろう。

この「限りなき戦い」は、残念ながらそういう「デーモン」は感じられないのだが、そのかわり、曲作り的にも、アンサンブルでも、ソロでも、非常に完成度の高い、「HM/HR」という名のエンタテインメントが、そこにはある。

アメリカ市場にがっぷりと四つに取り組み、MSGの新たな一面をわれわれに示してくれた一枚。

誰にでもおススメというわけにはいかないが、筆者的には結構、気に入ってます。