2001年11月18日(日
バッド・カンパニー「10 FROM 6」(ATLANTIC 7 81625-2)
1.Can't Get Enough
2.Feel Like Makin' Love
3.Run With The Pack
4.Shooting Star
5.Movin' On
6.Bad Company
7.Rock 'n' Roll Fantasy
8.Electric Land
9.Ready For Love
10.Live For The Music
第一期バッド・カンパニーのベスト・アルバムである。85年リリース。
フリー解散後、ヴォーカルのポール・ロジャーズ、ドラムスのサイモン・カークが、元モット・ザ・フープルのギター、ミック・ラルフス、元キング・クリムゾンのベース、ボズ・バレルとともに、73年結成したのがバッド・カンパニー。
翌年、レッド・ツェッペリンが立ち上げたスワン・ソング・レーベルからアルバム「バッド・カンパニー」でデビュー。
シングル・カットされた(1)が全米ナンバーワン・ヒットとなり、華々しいスタートを切る。
処女作とはいえ、そのサウンドはかなり完成度が高い。ブルースをベースにした、ストレートなロックン・ロールがアメリカをはじめ、日本など世界中で人気を博したのである。
ファースト・アルバムからは、他に(5)、(6)、(9)と、4曲も収めれている。彼らとしても、このアルバムには格別の思い入れがあるようだ。
たとえばラルフス作の(1)は、ギターもカッティング中心の、実にシンプルな音作りなのだが、当時の、グラム・ロックに代表される豪華絢爛サウンドの流行の中では、逆に大変新鮮に聴こえたものである。今も、その魅力は色あせていない。
つまり、ギター・バンドの基本中の基本、みたいなベーシック・サウンドなので、永遠に古びないのである。
フリー時代の、あのベターッとした、ブリティッシュ丸出しの重たいサウンドは、かなりアメリカナイズされて、「抜け」のいい、カラッと乾いたものになっている。
これが、アメリカでも大成功をおさめた勝因といえるだろう。(1)のほか、同じくラルフス作の(5)も、その系統の佳曲だ。
もちろん、ロジャーズの持つ、「濃ゆ~い」ブルース・フィーリング、メジャーの曲を歌っても、どこか陰影のあるブルーな歌声、これもアメリカ人には強くアピールしたハズだ。
グループのテーマ・ソングともいえる、ロジャーズ・カーク共作の(6)などに、それをはっきりと感じとることが出来る。
また、ラルフス作の(9)、これも実にロジャーズのブルースごころを見事に引き出したメロディである。
好調なスタートをした彼ら、その勢いをかって、翌75年にはセカンド・アルバム「ストレート・シューター」を発表する。
このアルバム・タイトルも、直球勝負型の、いかにも彼ららしいものではなかろうか。
同アルバムからは2曲、ヒットの(2)、(4)を収録。
これらを聴くに、アコギやピアノ、コーラスを加えるなどして、ブルースのみならず、カントリー色もかなり濃いサウンドに仕上がっている。
基本はハード・ロックだが、決して一本調子に終わらぬ、広い音楽性を感じさせてくれる。
(2)なぞは、歌詞にマディ・ウォーターズの強い影響を読み取ることができる。
前作の(9)についてもいえるが、基本的にバドカンの歌詞世界はシンプルなんである。「求愛」、つまり女性に「おまえを抱きたい」とストレートに迫る、こういうことやね。で、それこそが一番説得力があるもんだ。
70年代、いろんなギミック、ケレンで理論武装をしたロック・バンドが乱立した中で、徒手空拳ともいえる彼らのシンプルな世界は、潔くてすがすがしささえ感じさせてくれる。
さて、バドカンの快進撃はなおも続く。翌76年にはサード・アルバム「ラン・ウィズ・ザ・パック」を発表。
ここではタイトル・チューン、(3)を収めている。
サウンド的に大きな変化はないが、ストリングスを取り入れたりして、アレンジにもさまざまな工夫をしているのがわかる。
一年一作のコンスタントなペースは、77年リリースの4番目のアルバム「バーニング・スカイ」まで続く。
しかし、どうもこのアルバムは、彼らにとって満足の行く出来ではなかったと見えて、このベスト・アルバムのラインナップからは外されている。
2年おいて79年、「ディソレーション・エンジェルズ」を発表。
その中からの(7)は、スマッシュ・ヒットしたおなじみのナンバー。
3分17秒と、当時のロックのヒット・チューンとしては異例なほど短い時間に、ロックのエッセンスをギュッとつめこんだナンバー。ロジャーズの作品。実に曲作りがうまいんだよなあ、彼らは。
曲、歌、演奏、この三位一体というか、三者のバランスがよくとれているのだよ。
フリー時代のロジャーズみたいに、誰かひとりが突出するのでなく、ブルーズィなギター、ファンクなベース、タイトなドラムスと、それぞれが聴かせどころをちゃんと持っている。
さすが、バンド経験の豊かな四人だけのことはある。
もう一曲、ラルフス作の(10)も収録。
こちらは、彼らの音楽への真摯な姿勢が伝わってくるナンバー。
ボズのファンキーなベース・ラインが実にいかした、ノリのいい演奏だ。
ヴォーカルもラップ的な要素が感じられ、彼らの持つ「黒っぽい」フィーリングがもっとも顕著に表われた一曲。
ここまで順風満帆のように見えた彼らの活動であったが、歳月を経るにしたがい、音楽的にも人間関係的にも次第に煮詰まっていき、グループの中にすきま風が吹き始める。
それでも3年のブランクののち、82年に第一期最後のアルバムが出される。「ラフ・ダイヤモンズ」だ。
ここでは(8)を収録。ロジャーズの作品。
深みのあるヴォーカル、効果的に配されたピアノやストリングス、エコーを駆使した重層的なサウンド処理。明らかに、ストレート一本やりの初期とは違って、変化球も繰り出してくる、成長したバドカンの姿がそこにある。
70年代から80年代へと時代が移り変わるように、サウンドもまた徐々にではあるが、変化していく。
このアルバムの発表後、ロジャーズはバンドを去り、85年ジミー・ペイジらとの新バンド「ザ・ファーム」の結成に参加する。
そのザ・ファームも結局短命に終わってしまうのだが、デビュー・アルバムを聴くと、どこか過去のバドカンのサウンドをほうふつとさせる音だったりして、バドカン・サウンドの素晴らしさを改めて感じる。
残ったラルフスは、「バッド・カンパニー」のバンド名を継承し、新メンバーも加えて90年代までバンドを存続させていく。
でもまあ、筆者にしてみれば、ロジャーズ抜きのバドカンは、まったく別のバンドという気がする。
やはり、ロジャーズの歌声は、バドカンにとってなくてはならぬエレメントだったと思う。
最近でもロジャーズはソロ・アルバムやトリビュート・アルバムなどで地道に活躍しており、一ファンとしてうれしい限りだ。
が、やはり彼の才能のピークは、この第一期バドカンにあり!と筆者は断言してはばからない。
彼をずっと聴いてきたかたも、まだ聴いたことのない若いかたも、このベスト・アルバムで彼、そして見事なチームプレイをみせるバッド・カンパニーというバンドの魅力を確認してほしい。