NEST OF BLUESMANIA

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音盤日誌「一日一枚」#67 ハニードリッパーズ「ヴォリューム・ワン」(MMG 15P2-2743)

2022-01-20 05:55:00 | Weblog

2001年10月6日(土)



ハニードリッパーズ「ヴォリューム・ワン」(MMG 15P2-2743)

今月の1枚目はこれ。84年リリースのミニ・アルバム。

「ハニードリッパーズ」といっても、皆さんお忘れかも知れないが、元ZEPのロバート・プラント、ジミー・ペイジを軸に、ジェフ・ベック、ナイル・ロジャーズ(元シック)といった面々が参加したプロジェクト。

クレジットには「NUGETRE AND THE FABULOUS BRILL BROTHERS」などとあるが、これも彼ら一流のシャレである。

ちなみに、「ヴォリューム・ワン」と銘打っておきながら、結局、この1枚だけの短命プロジェクトで終わってしまった。

だが,当時は「ZEP復活か?」などとけっこう話題を呼び、シングル・カットされた「シー・オブ・ラヴ」も大ヒットしたものだ。

そんな「兵どもが夢の跡」のごときアルバムをひさしぶりに聴いてみた。

一曲目は「アイ・ゲット・ア・スリル」。

作者はルーディ・トゥームズ。40~50年代にルース・ブラウンやエイモス・ミルバーン、クローヴァーズといったR&B系アーティストたちのために曲を提供していたコンポーザーである。代表作は「ミント・ジュレープ」「ティアドロップス・フロム・マイ・アイズ」。

このスウィンギーな曲をプラントは、ドゥ・ワップ・コーラスをバックに、おなじみの上ずり気味の高い声で奔放に歌いまくる。

間奏の、ちょっとラフだがスピード感あふれるロカビリー調ギターがカッコよろしい。

二曲目は、「シー・オブ・ラヴ」。フィル・フィリップス&ザ・トワイライターズ59年の大ヒット。

ジョージ・クーリーとフィリップス(本名バップタイズ)の共作。イギリスの歌手、マーティ・ワイルドのカバーでも知られている。トワイライターズのヒットはこの一曲のみ。

一発屋の典型みたいなヒット曲だが、40年以上の歳月を経てなお、いまだに映画やCF等で流れており、エヴァグリーンの座を獲得している。

プラントはこの流麗なバラードを、実に思い入れたっぷりに歌い込む。ジミー・ペイジのストリング・ベンダーの伸びやかなソロが、ノスタルジックなムードを一層かきたてる。

ストリングスのアレンジも実に美しい。名曲のカバーとして、一級品の出来だ。

続いては、レイ・チャールズ作&歌でおなじみの「アイ・ガット・ア・ウーマン」。54年のヒット。

が、声をふるわせ、あるいはくぐもらせるようなプラントのヴォーカル・スタイルはレイのそれというより、レイをカバーしたエルヴィスのに近い。

実際、プラントが自ら認める永遠のアイドルはエルヴィスだ。

エルヴィスの「ゴールデン・ヒット第一集」の曲は全部得意なレパートリーだったという彼ならではの、エルヴィス・トリビュートな一曲といえそう。

ブラス・アレンジ、派手にブロウするテナー・サックスのソロもごキゲン。R&Bの黄金期を現代によみがえらせた名唱・名演だ。

四曲目は「ヤング・ボーイ・ブルース」。tRICK bAGもステージで取上げている、これまたR&Bの名バラード。

人気作曲家”ドク”・ジェローム・ポーマスと、フィル・スペクターの共作。ベン・E・キングの歌で60年にヒットしている。

ここでのプラントのヴォーカルがまた切なさに満ちていて、いい。青春だね~という感じ。バックのコーラス、ストリングスがまた、恥ずかしげもなく(笑)、青春そのもののサウンド。

プラントはZEP時代、キングの「ウィアー・ゴナ・グルーヴ」をカバーしていたぐらいだから、この曲ももちろんオキニだったのだろう。

懐かしや、フィル・スペクターの「ウォール・オブ・サウンド」の復活!である。

ラストは「ロッキン・アット・ミッドナイト」。R&Bのスター歌手、ロイ・ブラウン47年の大ヒット。

こちらもエルヴィスのカバー・ヴァージョンがあり、ロックン・ロール草創期の最重要曲のひとつといえる。

プラントも先達に負けじと、ノリノリの歌を聴かせる。

ギター・ソロ、前半は割りとオーソドックスなブルース・ギター。こちらはペイジかロジャースか。

後半のトリッキーなスライド・ソロはジェフ・ベック。ブラス中心のノスタルジックな音にひと味、スパイスを加えている。

シャッフル・ビートがひたすら体に心地よい、

ということで、全編これ、懐かし系のR&B、ロッカバラード系のサウンド。格別目新しいものはない。

まして、ZEPの影も形もない。

だが、いずれもポップスの王道を行く名曲揃い。少年の頃からそれらに親しんだプラントの歌いぶりは、説得力に満ちている。

すべての道がローマに通じているように、すべてのロックはこういったR&Bに通じているのだと感じさせる1枚。

単なる回顧趣味ではない。ロックの「基本」が、ここにあるのだ。皆さんも、ぜひ聴いていただきたい。