2001年8月11日(土)
マディ・ウォーターズ「アイム・レディ」(SME)
マディ御大、ひさびさのご登場である。
1977年、コネティカット州ウェストポート、ダン・ハートマンの自宅スタジオにての録音。
つまり、83年に亡くなるマディの、最晩年の作品のひとつである。
プロデューサーは、マディをこよなくリスペクトするギタリスト、ジョニー・ウィンター。
このウィンターのプロデュースにより、晩年のマディはブルー・スカイ・レーベルより4枚のアルバムを発表している。
「ハード・アゲイン」、この「アイム・レディ」、「マディ・”ミシシッピー”・ウォーターズ・ライヴ」、そして「キング・ビー」である。
まずは、どーんとアップになったマディの顔のイラスト・ジャケットに圧倒される。62歳にしてこの凄み。さすがである。
「オレにすべてまかせな」といいたげな余裕の表情。そして音のほうも、まさに大物の風格を感じさせるものだ。
まずはタイトル・チューン、50年代からおなじみのナンバー「アイム・レディ」でスタート。
歌いっぷりがまた、余裕綽々という感じでよろしい。リスナーに「用意はいいかな? オレはもうOKだぜ」と先制攻撃をかけているってところだ。
続いて、マディのスライド・ギターで始まるオリジナルの「33 YEARS」。マディの歌もさることながら、この曲ではバックのビッグ・ウォルター・ホートンのハープが素晴らしい。
これもオリジナルの「フー・ドゥ・ユー・トラスト」。ここでのスライド・ギターはジョニー・ウィンター。彼は、マディのサウンドの本質を実に正しく理解していて、マディの歌にしっくりと合ったソロを聴かせてくれる。
続く「コッパー・ブラウン」での、ウィンターの泣きのギターもいい。でも、自己主張し過ぎず、引くべきところは引いて、師匠マディをちゃんと立てる。そういうおくゆかしい心遣いも感じられる。
あくまでも、このアルバムの主役はマディであることを、プロデュースの基本姿勢としているのだ。
そして、代表曲「フーチー・クーチー・マン」。何度も録音されてきた曲だろうが、60代の彼が「オレは精力絶倫さ~」と自信に満ちた歌を聴かせると、ただただスゲーや~と感心するばかりである。
ホトケこと永井隆さんの著書「ブルーズ・パラダイス」にも書いてあったが、マディは晩年38歳も年下の女性と結婚していたそーな。ほんと、脱帽である。
この曲でもウィンターのスライド・ギター・ソロがカッコよろしい。
ギターでもレコーディングに参加しているジミー・ロジャースとの共作「メイミー」。つれない恋人にすがる男の歌。マディのスライド・ギターがその哀感を一層盛り上げてくれる。
そして「ロック・ミー」。エロティックな歌詞がごキゲンなナンバーだ。彼の実生活ともモロにリンクする、若い女相手に「オレをダディと呼んで欲しいのさ」という歌詞。く~っ、たまりませんなぁ。
「スクリーミン・アンド・クライン」も何度も録音されてきた、おなじみの曲。
この曲では毎度おなじみのマディ流スライド・ギター・ソロがたっぷり聴ける。
彼のフレーズは言ってみれば超ワン・パターンなのだが、最初の一撃でガツーンとやられて、後はもう一方的に向こうのペース、そんなエグさがある。
ラストは、サニーボーイ一世の「グッド・モーニング・リトル・スクール・ガール」。
齢62にして若い女の尻を追いかけまわす、御大ならではの選曲だな~(笑)。
いくつになっても、決して「枯れた境地」になることのない、アブラギッシュなマディ・ワールドが味わえる。
バックを固める、マディの昔からの仲間たち、ウォルター・ホートン、ジミー・ロジャース、パイントップ・パーキンス、ウィリー・ビッグアイ・スミスらも、リラックスしたムードでなかなかの好演を聴かせてくれる。
そしてもちろん、まとめ役のジョニー・ウィンターも、マディ・サウンドにマッチしたいいギターを弾いている。
まるで、好きな先生の前で、嬉々として答えを言う生徒のような感じで、ほほえましい。
とにかく、気の合った仲間同士のセッション風景がそのままアルバムになったような一枚。歌うこと、演奏することの楽しさがしっかりと伝わってくる。
マディ・ファン、ブルース・ファンでなくても、ぜひチェックして欲しい一枚だ。