僕らはみんな生きている♪

生きているから顔がある。花や葉っぱ、酒の肴と独り呑み、ぼっち飯料理、なんちゃって小説みたいなもの…

蘇生

2006年12月08日 | SF小説ハートマン
半冷凍状態で搬入されたミリンダに蘇生術が施された。
衣服を全て取り去られたミリンダの体はニスを塗る前のマホガニーの様に艶のない褐色だった。鋭い反射神経によって弾けるいつものしなやかさも感じられなかった。だが柔らかな弾力まで失ってしまった訳ではなかった。

それは未だ明らかに生きていた。
医師の滅菌した指と検査用の器具が体のあちこちをはい回る度に、その部分だけが他の組織とは関係なく反応し、蘇生の可能性を示していた。

「いいぞ、始めろ。」

合図と共に数体のオペロイドが一斉に触手を伸ばし、ミリンダの体にケーブルを打ち込んでいく。
数分後、体のいたるところに取り付けられたケーブルが、血液を、神経を、筋肉を、生かしておくために黙々と働いていた。

首の傷にはそこだけで数十本のケーブルと、その先端に取り付けられた医療用ナノマシンがプログラムに従い着実に作業を続けている。声帯を人工物に置き換え、組織の再構築をすすめているのだ。

傷は声帯と気道の大半を押しつぶしていた。あとほんの少し力が加えられていたら、恐らく脊椎が延髄を突き破り最先端医療をもってしても蘇生は難しかったに違いない。

文字通りミリンダは命を拾った。しかし本当に拾ったのはFOXに通常の3倍の報酬を渡して買い取った雇い主の方かも知れなかった。      つづく
コメント (22)
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