○ 企業価値研究会の報告書では、「企業価値=株主共同の利益の確保又は向上」を同じ意味として捉えています。研究会での議論の中身、議事要旨等は知りませんし、また読んでいません。多くの企業が買収防衛策を導入する際に、守り向上を計るべき自社の企業価値とは何か、また守るべき株主共同の利益とは何かを十分検討することもなく、報告書の言葉を安易・単純に引用して防衛策を導入しているのではないでしょうか。
研究会は、報告書での重要な概念であるこれらの言葉をどれだけ吟味・考察・検討したのかはなはだ疑問であり、また、ろくに定義もされていない言葉を使う方も使う方だと思いますね。一応、企業価値とは「企業が生み出すキャッシュフローの割引現在価値」を想定とは言っていますが、「株主共同の利益」の定義はありません。
○ 日本の企業の場合は、従業員出身の会長・社長等が人事権を握り、役員の指名を行います。株主が指名しているわけではありません。勿論株主総会で選任されていますが、これは物言わぬ株主が形式的に選任しているだけの場合が多いですから、企業が買収の脅威にさらされたときには、取締役が保身に走る事が考えられます。日本の場合は、辞めるときにがっぽりお金を貰えるGolden Parachuteも一般的ではありません。従い、企業価値研究会が打ち出した8つの取締役(会)の行動規範は、多少の意味もあるとは思います。しかし、企業価値とは何か、守るべき価値とは何か、その企業価値と株主共同の利益は一致するのかそれとも対立する事があるのかが相変わらずはっきりしませんね。
○ 企業価値を考える場合に、非常に参考となる企業があります。ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)ですね。同社のコアバリューは、「我が信条(Our Credo)」↓です。
http://www.jnj.co.jp/group/community/credo/index.html
我が信条では、4つの事を言っています。①お客さんがあって始めて企業が成り立つ、②そのお客さんに役立つ製品・サービスの提供は、尊厳と価値が認められ、公正・適切に処遇された従業員が業務を適正に推進することにより成り立つ、③そしてこれが企業の社会への貢献であり、この貢献を継続出来るように企業が経営されて始めて、④株主は報酬を受けることが出来るとしています。④については、以下のように述べています。「事業は健全な利益を生まなければならない。我々は新しい考えを試みなければならない。研究開発は継続され、革新的な企画は開発され、失敗は償わなければならない。新しい設備を購入し、新しい施設を整備し、新しい製品を市場に導入しなければならない。逆境の時に備えて蓄積を行なわなければならない。これらすべての原則が実行されてはじめて、株主は正当な報酬を享受することができるものと確信する。」
○ J&Jのような企業にとっては、我が信条を脅かす脅威に対して当然企業防衛策の発動が正当化されますし、これが株主の利益になると思われます。J&Jの株主総会ではいつも「我が信条」を説明しているようです。株主もそれを十分理解しています。企業価値と株主共同の利益が一致している企業だと思います。従い、役員も、自らの保身という低レベルの話は出せません。取締役会は、買収の脅威にどう対処すべきか、こういった企業にとっては、企業価値研究会の報告書など参照する必要もないでしょう。しかし、残念ながらJ&Jのような哲学を確立している企業は、あまり多くないのではないでしょうか。
○ 企業価値とは、その会社の価値です。株主共同の利益とは株主の利益です。対象が違います。企業価値とは、キャッシュフローの割引現在価値等といっていますが、どれだけの期間のキャッシュフローなのでしょうか?5年間、10年間?あるいは、DCFのTV(Terminal Value)計算では、Perpetual Baseなどという、あり得ない前提を置いたりします。5・10年後のキャッシュフロー等数字遊びの世界です。10年も先の事業計画など策定している企業がどれだけありますか?またそんな事業計画が、その通り実現する企業がどれだけありますか?こんな空理空論の世界はありません。企業価値とは、現在のその企業の生み出す付加価値だと思いますね。その通りになりもしない将来キャッシュフローの割引現在価値がどうして現在のその企業の企業価値なのでしょうか?
○ 企業価値と株主の利益は一致しないこともあります。経営陣が新規事業に乗り出したり、新規設備の大規模投資をする場合、株主としてはそういった事業が成功するかわかりません。また、株主は絶えず変わります。現在の株主が、経営陣の経営をサポートしても、株主が変われば、自己株式取得&消却、あるいは増配を要求する声が大きくなるかもしれません。即ち、株主の中には企業の長期的発展を支持する者もいると思いますが、それよりも目先の増配を要求する人もいます。株主共同の利益等と言っていますが、共同の利益とは何ですか?実態は多数派株主が少数派株主の意見・利益を無視して、自分たちの判断を多数決で可決できれば、これで決まります。少数株主は、お金をやるから出て行けということです。これは株主共同の利益ではなく、多数派株主の利益ということですね。
○ 企業価値とか株主共同の利益とは何か、本来個々の企業の役職員がきちんと考えるべきものだと思います。
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