岩波科学ライブラリー、広瀬友紀著『ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 』を読みました。余計な知識を持っていない子どもだからこそ見えてくる言葉の世界がある。子どもの言語習得の様子を見ているとさまざまなことが発見できる。そんなことを教えてくれる本でした。
特に子どもが「死ぬ」を「死む」と間違えるケースが多いと言うことに興味を持ちました。筆者の説明では現代日本語でナ行で活用するのは「死ぬ」だけであり、子供たちはでナ行の語形変化の経験がない。そのために「死む」と発言してしまうとのことです。なるほど「目から鱗」です。
そういえば私は子どものころ、「死ぬ」を「死ぐ」だと思っていました。これもそのひとつかもしれません。「死ぐ」はさまざまな方言にも残っています。この場合の「ぐ」は鼻濁音です。「ぬ」と「ぐ」は鼻音であるという意味で音声的な共通性があります。そのために混同してしまったのかもしれません。しかし現代はほぼ鼻濁音は死滅しました。だから「死ぐ」は消滅し、「死む」の誤用だけが残ったのではないでしょうか。
関連してさらに考えたことがあります。古典文法でナ行変格活用の動詞は「死ぬ」と「去ぬ」です。「去ぬ」はいつのまにか「行く」に変化していきます。「行く」も東北方言では「行ぐ」であり、「ぐ」は鼻濁音です。「去ぬ」は「行く」に変化したが、「死ぬ」は生き残りました。それによって「死ぐ」とか「死む」などのように子供たちに御用されることになったのではないでしょうか。
話がずれてしまいましたが、考えるヒントをたくさんいただいた本でした。