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夏目漱石の初期の短編小説『薤露行』を読みました。1905年(明治38年)に発表された作品で、アーサー王物語を題材にした創作作品です。円卓の騎士ランスロットをめぐる3人の女性の運命を描く、非常に興味深い作品です。
三人称小説。文体の特徴は格調のある雅文体であり、それが中世の雰囲気を出しています。過去形は用いられず、現在形で描写されます。
五章に分かれており、あらすじは以下の通りです。
一 夢
アーサー王は戦争のため円卓の騎士とともに北に向かって発つが、騎士ランスロットは、病を口実にして残り、王妃ギニヴィアと逢引し、ランスロットは試合にひとり遅れて出発する。
二 鏡
高台に立つ部屋で、シャロットの女が鏡に外界を映して眺めている。その鏡の中に騎乗姿のランスロットが銀の光となって現れる。女は立ち上がり、窓から顔を外に突き出す。ランスロットは高台の下を駆け抜け、鏡は真っ二つに割れて粉々に砕け散る。女は倒れ、倒れながらランスロットに呪いを掛ける。
三 袖
アストラットの古城に娘のエレーンとその父親、二人の兄が暮らしていた。そこへランスロットが一夜の宿を求めて立ち寄る。ランスロットは試合への遅参をごまかすため、長兄の盾を借りて正体を隠すことにする。エレーンは、ランスロットをひと目見て恋に落ちる。彼女は真紅の長衣から袖を切り取り、この袖を兜に付けて闘ってくれるよう訴える。
四 罪
北の試合が終わり、騎士たちは館に帰還するが、ランスロットは戻らない。13人の騎士たちが乱入し、ギニヴィアとランスロットの密通を糾弾する。
五 舟
ランスロットが試合で負傷し、シャロットの城の近くで治療を受けたことを聞き、悲しみに沈むエレーンは、思いつめて絶食による死を選ぶ。彼女の遺体は小舟に乗せて流される。小舟は白鳥に導かれてカメロットに流れ着く。水門が開き、アーサー王以下、城中の者たちが集まる。亡骸の右手に握られた手紙に気がついたギニヴィアは文を読み、「美しき少女」とつぶやいて熱い涙を注ぐ。
私が興味を抱くのは「二 鏡」。漱石の初期作品では鏡がよく出てきます。これは何を示しているのでしょうか。しかもこの作品では鏡が砕け、鏡を見ていた女はおそらく命を失っています。鏡の中の世界とはなんなのか。私は鏡の世界は小説の世界なのではないかと漠然と考えています。今の私の探求テーマです。
この作品については江藤淳の研究があります。それをすぐにでも読んで、もっと深く考えてみたいと思っています。
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