2月20日 編集手帳
1952年のヘルシンキ五輪でNHKのアナウンサーが送ったリポートだという。
「街角に立って見ていますと、
こちらにはトランプのキングやクイーンみたいな人が大勢歩いています」
フィンランドの人々が王様や女王様の姿をしていたとはむろん考えにくい。
髪の色や目鼻立ちを言うのに身近な例を引いたのだろうが、
分かるような分からぬようなである。
例えが妥当かどうか、
という話題が平昌五輪で持ち上がった。
スピードスケート女子500メートルで、
金メダルに輝く小平奈緒選手(31)を「獣」に例えたTBSアナウンサーである。
「闘争心あふれる、
まるで獣のような滑りでしたね」。
小平さんの波風立てない返事もまさに金メダル級だった。
「獣かどうかわからないですけど、
躍動感あふれるレースができたと思います」
滑りのすごさを言うのに、
例えが“滑った”かはともかくも、
視聴者の心にしみたのは銀メダルとなった韓国・李相花(イサンファ)選手と抱き合い、
健闘をたたえ合った光景だろう。
二つの国の国旗が氷上になびき、
美しい涙がそこにあった。
少し考えてみたけれど、
美しすぎて例えが見つからない。