ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

トライ・ア・リトル・テンダネス (Try A Little Tenderness)

2008年11月08日 | 名曲

 
 ぼくがロックを聴き始めた頃はビートルズやクイーンなどを好んで聴いていたのだが、いつしかそこからレッド・ツェッペリンやクリーム、ジェフ・ベックなどの、「ホワイト・ブルース」などといわれるブリティッシュ・ブルース・ロックにのめりこむようになっていった。
 これらは、黒人音楽であるリズム&ブルースを基盤としていたが、白人たちが彼ら流に噛み砕いていたので、耳になじみやすかったし、とてもカッコよく感じられたものだった。
 しかし本家本元のリズム&ブルースに対してはやや敬遠気味だった。黒人音楽の持つ「独特の強いにおい」が少しきつく感じられていたからだ。


 少々苦手だったブラック・ミュージックへの垣根を取り払ってくれたのは、ジャズだったり、オールマン・ブラザーズなどのブルース指向のアメリカン・ロックだったりしたのだが、それらの中で一番ぼくをリズム&ブルースの世界に近づけてくれたのが、映画「ブルース・ブラザーズ」と、スリー・ドッグ・ナイトというアメリカン・ロック・グループである。


     

      
 ぼくは、このグループの、3人のヴォーカリストという特異な編成と、「バックの4人は腕利きぞろい」という音楽雑誌の評価に興味を抱いていたので、手始めに「オールド・ファッションド・ラヴ・ソング」という、取っ掛かりやすそうなタイトルを持つ名曲を聴いてみた。これはスリー・ドッグ・ナイトの日本における最大のヒットとなった佳曲だが、ぼくはこの曲をすっかり好きになり、それをきっかけとして、スリー・ドッグ・ナイトを好んで聴くようになったのだ。


     


 スリー・ドッグ・ナイトの数ある名曲の中で、ぼくが大好きになった曲のひとつが、「トライ・ア・リトル・テンダネス」である。
 もともとはジャズにおけるスタンダード・ナンバーのひとつであり、ジャズやミュージカル畑ではフランク・シナトラ、クリス・コナー、ルース・エッティング、アン・バートンなど、多くのシンガーがこの曲を取り上げている。
 優しさに満ちた歌詞が胸をうつ、とてもいい曲だ。


 この曲は、1950年代以降はR&B系のシンガーに取り上げられることが多くなり、サム・クック、アレサ・フランクリン、ジョン・リー・フッカー、最近ではロッド・スチュワートやレジーナ・ベルらによって歌われているが、それらの中でもっともインパクトを持っていたのが、オーティス・レディングによって歌われたものだろう。


        

 オーティスは歴代のポピュラー・シンガーの中でも抜きん出た存在のひとりに挙げられると思う。全身全霊を込めたステージ・パフォーマンスも最高だ。
 そのオーティスが歌う「テンダネス」は、サム・クックのヴァージョンをヒントにして、ギターのスティーヴ・クロッパーとオーティスがアレンジしたらしい。
 イントロのホーン・アンサンブル、テーマに入ってからのオルガンとピアノがどこか感傷的なムードを醸し出しているが、ホーンとオルガンが盛り上げる曲後半の展開は劇的で、オーティスの持つディープな雰囲気がいっそうこの曲にくっきりした陰影を与えていると思う。
 とくに傑作ライヴ・アルバム「ヨーロッパのオーティス・レディング」で聴かれる熱唱は感動ものだ。


     


 スリー・ドッグ・ナイトの「テンダネス」は、基本的にはこのオーティス・ヴァージョンを踏襲していると思われる。
 3人のヴォーカリストのうち、コリー・ウェルズがリード・ヴォーカルを取っているが、その歌はオーティスに負けず劣らず黒っぽい。よりロック色を強めたバックの演奏も、エネルギーがみなぎっていてすごくカッコいい。
 オルガンによる優しいイントロに導かれて、ゴスペル・タッチのコリーの歌が始まる。中間部から入るギターは、絶妙なアクセントになっている。
 後半部分は、オーティス・ヴァージョンに比べてもいっそうドラマティックだ。「You Got To、You Got To」とオーティスばりにシャウトするコリーの熱さがたまらない。とても白人とは思えない黒っぽさだ。そのコリーにバトルを挑んでいるかのようなギター・ソロも素晴らしい。


 このグループが擁する3人のヴォーカリストは、そろってブラック・ミュージックをリスペクトしている素晴らしい歌い手だ。
 スリー・ドッグ・ナイトは、隠れた名曲をたくさん取り上げ、大ヒットに導いているが、いかんせんそれらはカヴァー作品だったため、手にした印税はレコードの売り上げほどではなかったようだ。そのため一部の評論家からは「世界一儲からなかったバンド」などと揶揄されたこともあったらしい。
 しかし見方を変えれば、彼らのおかげでニルソン、ランディ・ニューマン、ホイト・アクストン、ポール・ウィリアムス、レオ・セイヤーらの才能あるソング・ライターたちに陽が当たることになった、とも言えるだろう。


 ぼくは、スリー・ドッグ・ナイトなどはもっともっと再評価されても良い、クォリティの高いグループだと思っている。


 ぼくが最も好きな「トライ・ア・リトル・テンダネス」は、オーティス・レディングが歌っているものと、スリー・ドッグ・ナイトによるものだ。
 最近公開された映画、「トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男」の中では、「テンダネス」を歌うオーティスの姿が見られるそうだ。


[歌 詞]
[大 意]
彼女はやりきれない気持ちなのだろう
いつもみすぼらしいドレスを着ていたらそうなるものさ
彼女がやりきれない気持ちになっていたら
少しでいいから優しくしてあげてほしい

彼女は待っている 
手に入れたことのないものを思い望みながら
それが彼女の手に入らないなら
少しでいいから優しくしてあげてほしい

それはただの感傷ではない
彼女は悲しみと悩みを抱えている
そんな時 彼女に優しい言葉をかけてあげることで
彼女の苦しみは簡単に和らぐだろう

君は後悔することがないだろう
あの娘がその優しさを忘れはしない
愛はこの上ない女の幸せ
幸せを得るには少しでいいから優しくしてあげればいいのさ

彼女を抱きしめて
彼女を悩ませないで
彼女を置いて行かないで



◆トライ・ア・リトル・テンダーネス/Try a Little Tenderness
  ■作詞・作曲
    ジミー・キャンベル、レグ・コネリー、ハリー・M・ウッズ/Jimmy Campbell, Reg Connelly, Harry M. Woods
  ■発表
    1932年

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  ■歌・演奏
    スリー・ドッグ・ナイト/Three Dog Night
  ■シングル・リリース
    1969年1月
  ■収録アルバム
    スリー・ドッグ・ナイト/Three Dog Night (1968年)
  ■プロデュース
    ガブリエル・メクラー/Gabriel Mekler
  ■録音メンバー
    コリー・ウェルズ/Cory Wells (lead-vocal)
    ダニー・ハットン/Danny Hutton (background-vocal)
    チャック・ネグロン/Chuck Negron (background-vocal)
    ジミー・グリーンスプーン/Jimmy Greenspoon (keyboards)
    マイケル・オールサップ/Michael Allsup (guitar)
    ジョー・シャーミー/Joe Schermie (bass)
    フロイド・スニード/Floyd Sneed (drums)
  ■チャート最高位
    1969年週間チャート アメリカ(ビルボード)29位

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  ■歌
    オーティス・レディング/Otis Redding
  ■シングル・リリース
    1966年11月14日
  ■収録アルバム
    ソウル辞典/Complete & Unbelievable : The Otis Redding Dictionary of Soul (1966年)
  ■プロデュース
    ジム・スチュワート、アイサック・ヘイズ、ブッカーT.& the M.G.'s/Jim Stewart, Isaac Hayes, Booker T. & M.G.'s
  ■録音メンバー
    オーティス・レディング/Otis Redding (vocal)
    ブッカーT.ジョーンズ/Booker T. Jones (bass, keyboards)
    アイザック・ヘイズ/Isaac Hayes (keyboards, piano)
    スティーヴ・クロッパー/Steve Cropper (guitar)
    ドナルド・ダック・ダン/Donald "Duck" Dunn (bass)
    アル・ジャクソン Jr./Al Jackson Jr. (drums)
    ウェイン・ジャクソン/Wayne Jackson (trumpet)
    アンドリュー・ラヴ/Andrew Love (tenor-sax)
    ギル・キャプル/Gil Caple (tenor-sax)
    フロイド・ニューマン/Floyd Newman (baritone-sax)
  ■チャート最高位
    1967年週間チャート アメリカ(ビルボード)25位 イギリス46位
  
    


オーティス・レディング『トライ・ア・リトル・テンダネス』

スリー・ドッグ・ナイト『トライ・ア・リトル・テンダネス』




コメント (5)
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