ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

「命を削るピアニスト」の死

2008年12月06日 | Weblog~雑記
 
 12月4日の朝、一通のメールが届きました。
 『容態が急変し、今朝、夫が亡くなりました』
 亡くなったのは、ぼくが敬愛してやまないポピュラー・ピアニスト、有末佳弘さん(写真)。まだ50歳の若さでした。
 昨夜は兵庫県加古川市までお別れに行ってまいりました。


 有末さんは腎不全のため週3度の人工透析を受ける一級身体障害者です。また心臓が悪かったほか、緑内障による強度の弱視のため、目の前のものもボンヤリとしか見えませんでした。
 彼のすごいところは、そんな体でありながら「命を削るような」思いをして、聴く者の心に響き渡るピアノを弾き続けようとしたことです。


 有末さんとぼくとの出会いは1999年の12月です。ぼくの心のボスだった故・津田清さんが、「MINAGI、お前加古川の有末のところへ行け」と言って下さったのがそのきっかけでした。当時、音楽的に煮詰まって落ち込んでいたぼくを、愛弟子の有末さんに紹介して下さったわけです。有末さんはひところは関西ジャズ界のホープとして活躍されていたピアニストです。
 初めて彼のピアノの音を聴いた時、背筋に電気が走ったのを今でもありありと思い出します。上手いとか下手とかいう次元を通り越した、心に突き刺さってくるような、一風変わった、それでいて生々しい美しさに満ちた音でした。


 有末さんから教わったことはたくさんあります。
 「いつも『今夜が最後のステージだ』と思って演奏している」
 「命がけで音を出さなあかん」
 そしてこのブログの副題でもある「音楽はまさに人生そのものや」etc・・・
 ぼくは有末さんに、
 「有末さんの音は『鶴の恩返し』ですね」と言ったことがあります。つまり、鶴が自分の羽をむしって美しい織物を織り上げたように、有末さんも自分自身を切り刻み、削って音を出している、と思えたのです。すると有末さんは
 「それが分かってくれる人と一緒に演りたいんや」と言ってくれました。


 またその頃のぼくは、自分自身の音に自信が持てなくて、道が見えなくて、つまずいたり落ち込んだりしていたのですが、そんなぼくの音を聴いて、「完全に一段上の領域に行ってますよ」「今まで共演したベーシストの中で一番心地よい」「東京に行ってもMINAGI君なら食っていける」と励ましてくれたことも今となっては懐かしい思い出です。有末さんは、彼の生徒さん達にも「MINAGI君クラスのベーシストに伴奏してもらえるのを有難いことだと思え」と言ってくださっていたそうです。いや、ぼくのベースの技術の自慢をする気はないんです。まるで暗闇の中にひとり置いておかれていたような状態だったぼくの音をプロの耳で客観的に評価し、励まし、元気づけてくれた、ということを言いたいんです。


 ぼくのベースというのは、一言で言って「変わっている」そうです。ベースというのはコード進行やグルーヴ感、リズムなどを提示し、バンドサウンドの基礎となってある意味自分を抑えて冷静に音を出さねばならないのですが、ぼくの場合、音楽の美しさやカッコよさにすぐ反応してしまい、「自分自身」をあからさまに出してしまうところがあります。それを「オリジナリティーの塊」だとか、「MINAGI君のベースは、時にはピアノに聴こえ、また時にはホーンや打楽器にも聴こえる。独特の音をしている」と評価してくれたのも有末さんです。


 そんな有末さんのピアノの音こそ独特の音を奏でていました。だれの影響も受けていない、本当に独自に編み出した音楽、透明感のある美しい音色、激流のような躍動感に満ちたフレーズの数々・・・。ぼくは最初は有末さんの体のことを知らなかったのですが、目や心臓や腎臓などのハンディのほか、いろんなコンプレックスをピアノを武器に乗り越えてゆくさまは、ぼくを音楽的なだけでなく、人間的にも大きく魅了してゆきました。


 有末さんにとって津田清さんが永遠のボスであったと同じく、ぼくにとって有末さんは永遠のボスであり、かけがえのないピアニストです。そして有末さんと共演できたことはぼくの誇りでもあります。
 2000年から6年間ほどはほとんど「有末佳弘のベーシスト」として起用していただきました。ここ3年ほどはぼくも体調を崩してしまったことが原因で、少し遠ざかっていたことが今になって大きく悔やまれます。


 有末さん夫妻にはとてもお世話になりました。ぼくがその恩を返すことのないまま有末さんは旅立ってしまわれました。素晴らしいミュージシャン有末佳弘を失った喪失感や哀しみはぼくの心を占めています。
 有末さんの素晴らしさ、ぼくがどれだけ感謝しているか、などを書きたかったのですが、今日はうまく文章がまとまりません。なんだか散漫で冗長、そのくせ思っていることの百分の一も書けていないような気がします。でもぼくは、こんな駄ブログの片隅にでも有末佳弘という素晴らしいミュージシャンのことを書きとどめておきたいのです。



人気blogランキングへ←クリックして下さいね
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする