ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

センチメンタル通り

2022年08月10日 | 名盤

【Live Information】


日本での、日本人によるロック・ミュージックの黎明期だった1970年代前半。
いま振り返れば、いまもその名をメディアで目や耳にするバンドやミュージシャンが当時から活動を続けているんです。
「デビュー50年選手」すら少なからずいますね。
なんとも多彩なその面々、思いつくまま少しばかり挙げてみると、
竹田和夫、はっぴいえんど、ジョー山中、成毛滋、チューリップ、山下達郎、四人囃子、小坂忠、シュガーベイブ、加藤和彦、カルメン・マキ & OZ、財津和夫、クリエイション、フラワー・トラヴェリン・バンド、エディ藩、細野晴臣、頭脳警察、井上堯之、そして鈴木慶一などなど。
鈴木慶一は長年「ムーンライダース」を牽引してきたことで知られています。
そのムーンライダーズの前身が「はちみつぱい」で、彼らが1973年にリリースした、ファーストにして唯一のスタジオ・アルバムが、『センチメンタル通り』です。


とあるライブで「土手の向こうに」を演奏することがありました。
その時に、この曲がアメリカン・ロックさながらにレイド・バックしているのを面白く感じたんです。
その後だいぶ経ってからCDショップの棚に「センチメンタル通り」があるのを見つけ、即座に手に取ったというわけです。
地味とか、渋いとか、マニアックとか、そんな形容詞がスラスラ浮かんでくる一方で、この当時すでにこれだけ磨かれた質の良い音楽を創られていたんだと思うと、日本のロックもなかなかやるじゃん、と率直に感じ入りますね。



1973年頃のはちみつぱい


独特の哀愁が漂う、はちみつぱいのサウンド。
思い起こされるのは、忘れていた遠い昔だったり、郷愁だったり。
①「塀の上で」とか②「土手の向こうに」などで土の新鮮な香りが感じられるのは、「ザ・バンド」などからの影響もあるからなのかな。
といって単にノスタルジックだけを売りにしているわけじゃない。
⑨「夜は静か通り静か」などではモダン・フォークやカントリー&ウエスタンなどの持つ空気をたたえつつ、さりげなくオリジナリティも主張してみせる。
そうかと思えば、⑦「月夜のドライヴ」⑧「センチメンタル通り」で聴かれるように、ファンクやリズム&ブルースなどの要素をクロスオーヴァーさせていて、このあたりグレイトフル・デッドなどを彷彿とさせます。


③「ぼくの倖せ」、⑤「釣り糸」、⑥「ヒッチハイク」などの、ペダル・スティールやヴァイオリンを前面に押し出したサウンドは、はちみつぱいならでは、と言っていいと思います。。
とくに「ぼくの倖せ」におけるロマンティックなヴァイオリンと、それに寄り添うペダル・スティールの絡みの美しさは特筆されるべきでしょう。
ペダル・スティールが大々的にフィーチュアされた「ヒッチハイク」は、「はちみつぱいの発信するカントリー・ミュージック」だと言えます。
ペダル・スティールもヴァイオリン(フィドル)もカントリーなどに欠かせない楽器なんですが、はちみつぱいの音楽にあっては清楚なセンチメンタリズムや、昭和初期の退廃的雰囲気、アメリカのルーツ・ミュージックなど、多くの側面を感じさせてくれるんですね。


またジャケットが不思議な魅力に満ちているんだなあ。
安酒場の連なる、下卑た雰囲気の下町。
まだ夜でもないのに酔いつぶれている男。あろうことか巡査なのでしょう。(なんと、あがた森魚さんが扮しているそうです)
路上にポツンと置き去りにされた酒瓶。
首を吊っている男性が、そこにいるのが当たり前のようにぶら下がっているのが不気味。
それ以上に虚無的雰囲気を醸しだしているのが、首吊りに気づいているのかどうか、路上にたむろしてただこちらを見ているだけの若者。
言うなれば、つげ義春らの描く世界と似通ったような、生きた人間が作りだす奇妙で不条理な空気に満ちているんです。
入って行きたくはないけれど、目を背けることができない、そんな世界です。



2016年再結成時のはちみつぱい


ちなみに「はちみつぱい」というバンド名は、ビートルズの「ハニー・パイ」(『ホワイト・アルバム』収録)をもじったものです。
あがた森魚と鈴木慶一が結成したデュオ「あがた精神病院」が、あがたの命名によって1971年から「蜂蜜麵麭」(はちみつぱい)と名乗るようになり、「蜂蜜ぱい」を経て「はちみつぱい」と表記されるようになったということです。



◆センチメンタル通り

  ■歌・演奏
    はちみつぱい

  ■リリース
    1973年10月25日

  ■プロデュース
    はちみつぱい with 石塚幸一

  ■収録曲
   Side 1
    1 塀の上で(詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一) 6:28
    2 土手の向こうに(詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一) 4:26
    3 ぼくの倖せ(詞:松本圭司 曲:渡辺勝 編曲:渡辺勝) 6:19
    4 薬屋さん(詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一) 3:40
   Side 2
    5 釣り糸(詞:かしぶち哲郎 曲:かしぶち哲郎) 5:20
    6 ヒッチハイク(曲:はちみつぱい 編曲:はちみつぱい) 3:22
    7 月夜のドライヴ(詞:山本浩美 曲:山本浩美) 6:12
    8 センチメンタル通り(詞:鈴木慶一 曲:鈴木慶一) 4:25
    9 夜は静か通り静か(詞:渡辺勝 曲:渡辺勝) 2:55

  ■録音メンバー
   *はちみつぱい
    鈴木 慶一 vocals, backing-vocals, piano, vibraphone
    武川 雅寛 backing-vocals, fiddle, trumpet, mouth-harp, flat-mandolin
    駒沢 裕城 backing-vocals, steel-guitar, dobro-guitar, acoustic-guitar, electric-guitar
    本多 信介 guitar
    和田 博巳 bass
    橿淵 哲郎 drums, vocals, piano, organ, vibraphone
   *ゲスト・ミュージシャン
    渡辺  勝 vocal, backing-vocals, electric-piano, acoustic-guitar, organ
    坂田  明 alto-sax
    大貫 妙子 chorus
    宮  悦子 chorus
    吉田美奈子 chorus
    山本 浩美 vocals, chorus

  ■レーベル
    ベルウッド


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2 コメント

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ローリングウエストさん (皆木秀樹)
2022-08-20 14:07:48
コメントどうもありがとうございました!
60年代後半から70年代のロックはまさに黄金時代、さまざまな動きもアグレッシブでクリエイティブ、楽しい時代ですね。
ちなみにぼくもここ数年神社仏閣が好きでして、時間があればぶらりと立ち入って神仏にご挨拶させていただいたりしています。神社仏閣は時間のゆったりした流れが感じられて好きなのです。
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初めまして! (ローリングウエスト)
2022-08-14 15:58:57
初めまして!ローリングウエストと申します。新潟県柏崎生れ川崎市在住、64歳再雇用中年オヤジ(旅好き・歴史好き・洋楽ロック・サッカー好き)でございます.。70年代ロック音楽ブログを検索していたら大好きなデイブギルモアの記事に目が留まりお邪魔させて頂きます。「太陽に吠えろ」ちあきなみ「喝采」も懐かしく拝見、まさにわが青春時代のノスタルジアが共有です。岡山でライブをやっておられるのですね。小生は古代史や神社巡りも大好きなのでいつか吉備の国をじっくり廻ってみたいと憧れています。日本人によるロック・ミュージック黎明期50周年も感慨深いものがありますね。
(PS)こちらは洋楽記事はディープパープル初来日50周年を記念して「ライブ・イン・ジャパン」の全曲掲載をしておりますのでよろしければ是非こちらにもお立ち寄りください。
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