通販の広告で見た一枚の写真。
あの人気ピアニスト、上原ひろみの文字が大々的に踊っているが、実質のボスはあの超絶ベーシストであるスタンリー・クラークではないですか!
ろくに広告コピーも読まず、ポチッとクリックしてしまいました。なにしろドラムがレニー・ホワイトという超大型ピアノ・トリオなんですから。
上原ひろみ個人の音楽は、純ジャズというよりも、プログレッシヴだったり、ロックに近かったりするイメージがあります。スタンリーとレニーはチック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」というフュージョン・グループに参加していたということから、このアルバムは「リターン・トゥ・フォーエヴァー」や、上原のバンド「ソニック・ブルーム」の延長線上にあるものだと予想していたのです。
ところがいざ聴いてみると、ストレート・アヘッドのジャズも多く含まれていて、なかなかバランスのよい好アルバムだと思ったのが正直な感想です。
上原は相変わらず軽快に跳ねているような印象で、ブチ切れた姿も垣間見えるが、おおむねスタンリーの楽想に添った、ある意味スタンリーのサイドマンに徹している部分も多いと思います。彼女がリーダーの時のエキセントリックな演奏も良いけれど、サイドマンとしての上原にも一聴の価値があるように思います。逆に、そんなブチ切れたひろみ嬢の音楽にもスタンリーは期待していたのかもしれませんね。
対するスタンリーは、なんとこれが生涯初のフル・アコースティック・ベース・レコードだということですが、もともとの原点はやはりバップにあるのではないでしょうか。やや硬質ながらも伸びのあるベースは相変わらずスタンリーらしい。曲調を優先させているためか、ベースが弾きまくるスペースは限られていますが、それでもあくまで三人で音楽を作り上げていこう、という姿勢がそこかしこに見受けられるようです。
このふたりのそれぞれのスペースでのはっきりした自己評価をニコニコしながら温かく包み込んでくれているようなのがレニー・ホワイトのドラムではないでしょうか。
メンバーがそれぞれ卓越したテクニックで弾き倒す人ばかりなので、三者三様の壮絶なバトルが繰り広げられることと思いきや、案に相違してゆとりのある演奏で、三人で独特の空間を作り上げた、しごくまっとうなジャズ・アルバムだという気がしました。
「テイク・ザ・コルトレーン」「スリー・ロング・ノーツ」「アイソトープ」「ソーラー」など、バップ系の曲ではスタンリーの原点回帰が見られます。とくに「スリー・ロング・ノーツ」はバードの「コンファーメイション」を思い起こされるものだったし、「ソーラー」はとてもホットで、このあたりは聴いてても楽しかったですよ~
スタンダードの「いつか王子さまが」は、スローなワルツとルバートの境目あたりでのベースとピアノとのデリケートなインタープレイが魅力です。
上原ひろみも選曲からしてはっきり自己主張をしているようで、オリジナルの美しい「シシリアン・ブルー」のほか、「ソーラー」、「アンダー・ザ・ブリッジ」を提供しているほか、スタンリーとの即興曲「グローバル・トゥイーク」などにも参加しています。日本のトラディショナル・ソングである「さくらさくら」などもひろみ嬢の提案なのでしょうか。
ベーシストとしての腕を存分に振るっているのはドラムとのデュオ「テイク・ザ・コルトレーン」に、ソロで演奏した「ベース・フォーク・ソングNo.5&6」ですね。自由なスタンリーの世界が広がっていて、一種の爽快感を覚えます。
それぞれがかなり高水準での演奏なのですが、それが鼻につくこともなく、むしろ確固たるテクニックを背景にして歌い上げる、ゆとりのある演奏だという気がします。
選曲は、スタンリーの作曲が3曲、日本のトラディショナル1曲、上原の作曲が2曲、デューク・エリントンが1曲、ジョー・ヘンダーソンが1曲、マイルス・ディヴィスが1曲、スタンダードが1曲、スタンリーと上原の共作が1曲、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのカヴァーが1曲、レニーの作曲が1曲、の計13曲です。スタンリーのアルバムながら、彼自身の選曲では固めてなくて、上原の可能性にも期待していることが窺えますし、またそれに応えている上原の力量も素晴らしいのではないでしょうか。
◆ジャズ・イン・ザ・ガーデン/Jazz In The Garden
■演奏
スタンリー・クラーク・トリオ ウィズ・上原ひろみ & レニー・ホワイト/Stanley Clarke Trio With Hiromi & Lenny White
スタンリー・クラーク/Stanley Clarke (acoustic-bass)
上原ひろみ/Hiromi (piano)
レニー・ホワイト/Lenny White (drums)
■プロデュース
スタンリー・クラーク & デイヴ・ラヴ/Stanley Clarke Dave Love
■録音
2008年12月13、14日 マッド・ハッター・スタジオ (カリフォルニア州ロサンゼルス)
■リリース
アメリカ2009年6月29日 イギリス2009年5月12日 日本2009年4月15日
■収録曲
① パラダイム・シフト/Paradigm Shift <Election Day 2008> (Clarke)
② さくらさくら/Sakura Sakura (Traditional Japanese Folk Song)
③ シシリアン・ブルー/Sicilian Blue (Hiromi)
④ テイク・ザ・コルトレーン/Take The Coltrane (Duke Ellington)
⑤ スリー・ロング・ノーツ/3 Wrong Notes (Clarke)
⑥ いつか王子様が/Someday My Prince Will Come (Frank Churchill, Larry Morey)
⑦ アイソトープ/Isotope (Joe Henderson)
⑧ ベース・フォーク・ソング No.5 & 6/Bass Folk Song No.5 & 6 (Clarke)
⑨ グローバル・トゥイーク/Global Tweak <Improvised Duet> (Clarke & Hiromi)
⑩ ソーラー/Solar (Miles Davis)
⑪ ブレイン・トレーニング/Brain Training (Hiromi)
⑫ アンダー・ザ・ブリッジ/Under The Bridge (Michael Balzary, Anthony Kiedis, Chad Smith & John Frusciante)
⑬ エルズ・バップ/L's Bop (White)
■チャート最高位
2009年週間チャート
アメリカ(ビルボード)・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャート5位
アメリカ(ビルボード)・ジャズ・アルバム・チャート12位
日本(オリコン)23位
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スタンは好きです!特にアップライト弾くスタンはかなり好きなのです。
これ全編アップライトですか!良さげですね~(^^)
やっぱり聴きたくなりますね~(^。^)
上原ひろみさんて、
私の周りでは、若い子には人気あるけど、
私達より上の年代には、
あれはジャズじゃないよね~…なんて、
顔をしかめる人も…
(ファンの方、ごめんなさい)
でも、大物アーティストとの共演が多くて、
やはり、実力があるということなんでしょうか…。
実は、私のオリジナル曲の中に、
上原ひろみさんのオリジナルと似た雰囲気だと言われたものがあるんですよ(・。・)
つまり、少々、プログレっぽい…
…で、BSで演奏してるのを聴いて、
あら、ホントだわ、と思ったこともあって、
実は、気になる存在なのです♪
今度、聴いてみますね~
そうです、スタンリーが全編アップライトで弾いてますよ(^^)
とくにバップ色の濃い曲なんか今までにあんまり聴く機会がなかったので、とても面白かったです。
上原ひろみの弾くバップ系ナンバーもなかなかのものでしたよ~
もう少しセッションを重ねて、今度はコンテンポラリーなものも聴いてみたいと思いました。
ありがとうございます。なかなかうまく文章になりませんが、そう言ってもらえると嬉しい(^^)
そうですね~、バップ中心に聴いている人からすれば確かに彼女なんかは異端に思えるでしょうね。でも、ジャンルがとうとかではなくて、あれが「上原ひろみワールド」なんだ、と思えばいいわけで、要はそれが聴く人の好みに合っているかどうか、ですよね~ それは「良し悪し」とはまた別次元の話ですもんね。
絢香さんやドリカムなどから、チック・コリアやスタンリー・クラークなどまで共演できるということは、彼女の器がそれだけ幅広いことを意味しているんだと思います(^^)。
そうそう、ジャズだとかそうでないだとかを意識せずに、ひとつの新しい波だと思って聴いてみれば、彼女の音楽はとても面白いと思いますよ~
norikoさんのオリジナルが似た傾向なんだったら、きっと抵抗なく聴けますよ♪
というか、norikoさんのオリジナルに興味がそそられます~(^^)
でも、このジャケット、すごく変なんですけど。そう思うのは僕だけかしら・・・?
ジャケットは、これ合成です。元の写真も見ましたけど、ポーズはそのままで背景が全然違いましたよ~(^^)
ジャズはピアノが入っているのが、
好きなんです。
・・・こんな知識も無い人で
すみません~
有名な?とかは全く分からなくて、
とにかく聴いて「これイイ!!」と思ったら、
私好みなんです(笑)
なので、MINAGIさんの解説を見たら・・・
買いたくなりました!
花粉症は大丈夫でしょうか。
ピアノが入っているジャズ、ということは、ピアノ・トリオなんかはお好みなんでしょうね。
ひとくちにピアノ・トリオといっても、エレガントなものから硬派なものまで、または難解なものから聴きやすいものまでさまざまですから、どしどし店頭で試聴してみましょう(^^)
このアルバムは、スタンダード曲こそ少ないですが、ジャズの雰囲気を楽しむには良いと思いますよ。機会があればぜひ試聴してみてくださいませ~
何度か、拝見させていただいています。
スタンリー・クラーク・トリオの記事がございましたので
コメント入れさせていただきました。
私は、上原ひろみでこのアルバムは購入しましたが、
スタンリーのベース、良いですね~。
ここ最近の上原ひろみは、ロック色が強くなってきたので、あまり好きではありませんが、
(それでも毎年一回はライヴに足を運びます)
このアルバムは久しぶりに本格的にやっていますね。
このアルバムを購入したときに一緒に買った
クオシモードの新譜を殆ど聴いていないくらい
このアルバムばかり聴いています(笑)。
サポートとはいえ、上原ひろみとしては『スパイラル』、
チックとのデュエットライヴ『デュエット』以来の
傑作だと思います。
また伺わせていただきますね。
このアルバムでのスタンリーは、ベースを弾きまくるというよりも、自分自身の音楽を表現する、という方向なんだと思います。
でもそれがわりとスタンダードなジャズという形で表されていたのにはいろんな意味で意表を突かれました~ でも、このアルバムは好きです。
ひろみ嬢はもともとジャンルに拘らずに自分のやりたい曲・書きたい曲を追求しているというイメージがあります。だから純ジャズの枠からはみ出した大胆な演奏ができるんでしょうね。
しかしスタンリーのサポートとしてのひろみ嬢、なかなか魅力ありますよね。バップのひろみ嬢もなかなか良いではないですか(^^)。
あ、チックとの「デュエット」はまだ聴いてないんですよ~ ちょっと興味アリアリです~
訪問ありがとうございました。こちらからも伺わせて頂きますね(^^)