【注:ネタバレあります】
「パニック映画」と呼ばれるジャンルがあります。
天変地異や不慮の大事故に遭遇した人々の、文字通り「パニック」状態を描くものです。
この種の映画の見どころは、多彩な出演者の顔ぶれ、不測の事態の時に出る人間の本性の描写、迫力ある災害のシーン、などでしょうか。
ぼくが「ポセイドン・アドベンチャー」に惹かれる理由は、ジーン・ハックマン演じる、主人公のスコット牧師のキャラクターにあります。
スコットはいわゆる「はみだし」牧師で、そのため教会から疎まれています。
彼は、「苦しい時、ただ神の助けを待つのではなく、助かるためにできる限りのことをしてこそ、神は助けの手を差し伸べて下さるのだ」という強烈な信条の持ち主です。
しかし教会は、これはキリスト教に対する無礼な批判だとして、スコットに遠い国での布教を命じます。つまり「左遷」させられるわけです。
スコット牧師の乗った豪華客船「ポセイドン号」は、ニュー・イヤーズ・イブのパーティの最中に津波に呑まれ、地中海で転覆します。このため、船の最上階にあったパーティ会場は一転して船の最深部となるのですが、ここからスコットの脱出劇が始まるのです。
スコットは自分の信条に従い、生き伸びるために最善を尽くそうとします。そのため、現場にじっととどまって救援を待つべきだ、とする人たちとことごとく衝突します。
しかしスコットは屈しない。決して信念を曲げません。
保守派、つまりスコットが言うところの「ただ神の助けを待っているだけ」の側の代表として描かれているのが、行動を共にはしているが、スコットに批判的なロゴ(アーネスト・ボーグナイン)です。
この二人の対立を、そのまま現代の社会に置き換えて見てみると、非常に興味深いものがあります。
もちろん、極限状態におけるヒューマニズムも見どころのひとつです。スコットと行動を共にする9人のうち、脱出行の途中で何人かが命を落とします。自分の命と引き替えにスコットを救う老婦人や、不測の事態で転落死したロゴ夫人などです。しかしそれでもスコットは信念を曲げない。最愛の妻を失って激高したロゴに詰め寄られても。
クライマックスでスコットは、自らの命を捨てて、最後の出口のドアを開きます。スコットの行動は彼の信念そのものだったことが、自身の死によってようやく証明される、辛いシーンです。
頑固そのものだったロゴも、スコットの死によってやっと彼の生き方を受け入れることができるわけですね。
見どころはアクション・シーンだけではない、深い作品だとぼくは思います。
登場人物の個性は、そのまま緊急時の人間が見せるいろいろな面を表しているのではないでしょうか。
そのなかでぼくはやはり、信念を貫くこと(エゴと紙一重、ということも含め)というか、妥協をしない生き方について一番考えさせられました。
もっとも共感したのがレッド・バトン演じるマーティンです。
普段は地味で目立たちませんが、こういう時にも普段どおりで、みんなを元気づける。自分もこうありたい、と思いました。
また、ロゴの描写によって表された内面もまた人間だれしも持っている一面。これを「良くないこと」とみなして、否定すべき人格のサンプルにしてしまってはならないと思います。
あまりにも有名な映画だと思うので、あらかたの筋を書いてしまいましたけれど、例え事前にストーリーを知っていたとしても、この映画の面白さは損なわれることがない、と思います。
おもな出演者で記念撮影
最後に、小さな話題をふたつ。
ひとつめ。さえない中年の独身男を好演したレッド・バトンズ(マーティン役)。日本人ミュージシャンの海外進出の先駆けとなった人のひとりに、ジャズ・シンガー兼女優のナンシー梅木がいますが、バトンズは梅木嬢がアカデミー助演女優賞を受賞した映画『サヨナラ』(1957年)で梅木嬢の相手役を務めています。
ふたつめ。この映画の原作者はポール・ギャリコです。イギリスのキャメル(Camel)というグループが、「スノウ・グース」というせつない小説を題材にした同名のアルバムを発表していますが、ギャリコは「スノウ・グース」の原作者でもあります。
◆ポセイドン・アドヴェンチャー/The Poseidon Adventure
■1972年 アメリカ映画(配給 20世紀フォックス)
■監督
ロナルド・ニーム
■脚本
スターリング・シリファント、ウェンデル・メイズ
■製作
アーウィン・アレン
■撮影
ハロルド・F・クレス
■音楽
ジョン・ウィリアムス、アル・カシャ、ジョエル・ハーシュホーン
■出演
ジーン・ハックマン(フランク・スコット牧師)
アーネスト・ボーグナイン(マイク・ロゴ警部補)
レッド・バトンズ(ジェームズ・マーティン)
キャロル・リンレー(ノニー・パリー)
ステラ・スティーブンス(リンダ・ロゴ)
ジャック・アルバートソン(マニー・ローゼン)
シェリー・ウィンタース(ベル・ローゼン)
パメラ・スー・マーティン(スーザン・シェルビー)
エリック・シーア(ロビン・シェルビー)
ロディ・マクドウォール(エイカーズ)
アーサー・オコンネル(ジョン牧師)
レスリー・ニールセン(ハリソン船長)
フレッド・サドフ(造船会社オーナー・リナーコス)
ジャン・アーヴァン(船医)
シーラ・マシューズ(看護婦)
■上映時間
117分
■原作
ポール・ギャリコ『ポセイドン・アドヴェンチャー』(1969年)
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リメイク版は、その存在も知らなかったのですが、評判はあまりヨロシクないようで・・・(汗)
この映画はパニック物として紹介されることが多いようですが、そんな浅はかなものではないように思います。ぼくは、この映画は、重厚なテーマを持ったヒューマン・ドラマだと思っています。
自己犠牲は絶対強制されるものではないですが、自分の中では少しでいいから自発的に持っておきたいです。
生きるためになんとか打開しようとし続ける大切さを身をもって人に示した牧師と、
泳いで役立ちたいと言ってた老婦人が大好きです
※この記事URLのリンクを貼りました。事後報告となって申し訳ありません
人間としてのありかた・生き方をテーマのひとつとしている(と思う)ことが、この映画が古さを感じさせないひとつの理由だと思います。
ほんと、いろいろ考えさせられることが多い内容ですもんね。
スコット牧師が犠牲になるところ、何度観ても胸を打たれます。。。
うーーん、この名を聞くだけでうるっときます。
ランドセルをかるってた頃に、何度も何度も何度もしつこく観ました。
最後の最後に、あの蓋に自らぶら下がってね・・・(涙)
わたしの生まれる前に出来た映画だったんだ。
知らなかった。
その婦人が犠牲になるシーン、泣けました。死ぬかもしれないことが解っていながら志願してスコットを助けに行ったんですよね。深く考えさせられる場面でした。
そういえば、「タワーリング・インフェルノ 愛のテーマ」も似た感じの曲だったなぁ…
ここぺりさんもこの映画好きなんですね。なぜかちょっとばかりうれしいです。
そう言って犠牲となった婦人が印象的でした。パニック映画では、必ず幾人かの人物像が描かれていて、うろたえる人、道を切り開く人、犠牲になる人がいます。最後に神よ!って叫びながら犠牲になったスコット神父は、道を切り開いていく人でした。
挿入歌のモーニングアフターは、澄んだ声が素敵なとてもいい曲でした。パニック映画の曲っていい曲が多いような気がします。
「ポセイドン」でのスコット役、ほんとに魅力のあるキャラクターでした。
>ポパイ
ぼくも好きでーす(^^)
ハックマンのポパイ役、ぼくのイメージする「ハードボイルド」に一番近いかもしれません。
高架鉄道とのカーチェイス、見応えありましたね。
ジーン・ハックマン、素晴らしかったですね。
あの犠牲になるところ、胸を打たれました。
あと、ポパイ刑事も好きです♪