【Live Information】
長年ポピュラー音楽を聴いていると、それなりに知識も増え、耳も肥えてきます。
それと反比例してか、以前なら「興味をそそられた」という理由だけで、いわば冒険してCDを買っていたのに、今は知的好奇心が衰えたのか(いや、そうは思いたくないなあ)、CDを買うという行為が面倒になったのか、今この時にどんな音楽がリスナーの耳目を集めているかということに興味が失せているのか、とにかく「聴き漁る」「買い漁る」ということがなくなってしまった気がします。
では音楽に割く時間が減ったかというとそんなことはなく、生活の結構な割合を音楽のために費やしているし、それを減らそうと思ったこともありません。
しかし実際は、演奏したり、必要があって音楽を聴いたり、楽譜を書いたりということに大半の時間をかけざるを得ない状況で、「純粋に音楽を聴いて楽しむ」時間は減っています。
自分の人生において、どんなことでもそうだと思いますが、出会うもの・人・起こる事象には全部意味があり、それらが出会う時・起きる時も、「必然的なタイミング」なんだと思っています。自分と出会う音楽もそうなんじゃないかな。
ヒットしている時には耳にもとまらなかった曲が、売れてから何年も経ってじっくり聴く機会が来る、ということは、実は今までにも何度もあって、「なんでリアルタイムではぼくのところに届かなかったのかなあ」と思うこともしょっちゅうです。
「歌うたいのバラッド」も、そんな曲のひとつです。
あるライブの時に「これを歌いたいから」と言って渡された曲が、この「歌うたいのバラッド」だったんです。
「歌うたいのバラッド」は、斉藤和義の15枚目のシングルで、1997年11月21日にファンハウスから発売されました。
リリース後は、とくにヒットしたということもなく、当時のチャート最高は91位ですが、じわじわ売れ続け、のちにはゴールド・ディスクを獲得しました。
タイトルにある「バラッド」という単語ですが、これは「バラード」と混同されることが多いようで、非常にややこしい音楽用語です。
「バラッド」は、物語や寓意性が織り込まれている歌のことです。詩の語りや、語るような曲調を含みます。武勇伝・恋愛・社会諷刺などがおもなテーマです。
いっぽう、ポピュラー音楽における「バラード」は、ゆったりしたテンポ、美しいメロディ、ピアノや弦楽器を多用した劇的なアレンジが全面に出ていて、歌詞はラブ・ソングを中心とした感傷的なものが圧倒的に多いと言えるでしょう。
ざっくりと言えば、「バラッド」は歌の形式、「バラード」はポピュラー音楽における曲の形態、だと言えるでしょう。
ドイツ語やフランス語では、どちらも「balladet」と表記されるのも、紛らわしくなる原因のひとつだと思います。
さて、この曲は、たいへん多くの歌手にカバーされていることでも知られています。
ざっとあげるだけでも、奥田民生、河口恭吾、鈴木雅之、BENI、Tiara、青木隆治などなど。
それだけ愛されている理由のひとつに、「歌詞の持つ力」があると思います。
斉藤和義
今日だって あなたを思いながら
歌うたいは唄うよ
どうやってあなたに伝えよう
雨の夜も 冬の朝も そばにいて
ハッピーエンドの映画を今
イメージして唄うよ
こんなに素敵な言葉がある
短いけど聞いておくれよ
「愛してる」
「愛する」ということを、さまざまに表現して歌われる歌は数多ありますが、シンプルに「愛してる」という言葉を使っているところが逆に心に響きます。
今日だってあなたを思いながら
歌うたいは唄うよ
ずっと言えなかった言葉がある
短いから聞いておくれ
「愛してる」
愛する女性を思わない日はない。けれども言ってしまったあとで終わりになるのが怖い。
意を決して打ち明ける時、千万の言葉を捧げたいけれど、言いたいことはただひとつ。そのひとつの言葉をやっとの思いで絞り出すんですね。
斉藤和義というミュージシャンのイメージは、その野性味のある風貌や、アコースティック・ギターとハーモニカで弾き語るスタイルから、かつてのフォーク・ミュージシャンと大きく重なるところがありますが、その音楽は骨太で泥臭く、どちらかというとロック・ミュージシャンのような味わいがあると思います。
ぼくが大好きなのは、「Bank Band」の演奏によるものです。
この曲が脚光を浴びた理由のひとつが、Bank Bandがカバーしたことによるもの、だというのもわかるような熱演です。
「歌うたいのバラッド」 Bank Band 2011年7月
[Bank Band]
櫻井和寿(vocal, guitar)、小林武史(keyboards)、亀田誠治(bass)、河村智康(drums)、藤井珠緒(percussion)、
小倉博和(guitar)、山本拓夫(sax)、西村浩二(trumpet)、沖祥子(violin)、田島朗子(violin)、伊勢三木子(violin)、
菊地幹代(viola)、四家卯大(cello)、イシイモモコ(chorus)、登坂亮太(chorus)
bank band 小林武史(右上)、櫻井和寿(中上)、小倉博和(左上)、河村智康(右下)、亀田誠治(中下)、藤井珠緒(左中)、山本拓夫(左下)
桜井和寿の熱唱が迫ってきますね。
ビートルズ後期を思わせるようなアレンジにも引き込まれます。
バックでは、スライド・ギターが非常に効果的でカッコいいです。それに色気のあるサックスが素晴らしいと思いました。
加えて、ドラムスの河村"カースケ"智康によって生み出されるグルーブは特筆ものだと思います。ゆったりとしていて、適度に重量感があり、安定していて、かつ歌いまくっています。ぼくは、一青窈の「ハナミズキ」でのドラムを聴いて、いっぺんに彼のドラムが好きになったんですが、このBank Bandの「歌うたいのバラッド」を聴いて、「もしや!」と思ったら案の定でした。
曲も歌詞も記憶に残る「歌うたいのバラッド」は、日本のポピュラー音楽史に残る、新たなスタンダードといってもいいのではないでしょうか。
[歌 詞]
◆歌うたいのバラッド
■作詞・作曲
斉藤和義
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【斉藤和義ヴァージョン】
■歌
斉藤和義
■編曲
斉藤和義
■シングル・リリース
1997年11月21日
■チャート最高位
オリコン91位
■収録アルバム
Because (1997年)
(TBS系『COUNT DOWN TV』エンディングテーマ)
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【Bank Band ヴァージョン】
■歌・演奏
Bank Band
■収録DVD
ap bank fes '11 Fund for Japan
■DVDリリース
2012年2月29日
■プロデュース
小林武史
■出演メンバー(録音メンバー)
櫻井和寿(vocal, guitar)、小林武史(keyboards)、亀田誠治(bass)、河村智康(drums)、藤井珠緒(percussion)、
小倉博和(guitar)、山本拓夫(sax)、西村浩二(trumpet)、沖祥子(violin)、田島朗子(violin)、伊勢三木子(violin)、
菊地幹代(viola)、四家卯大(cello)、イシイモモコ(chorus)、登坂亮太(chorus)
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