■枯葉 (Autumn Leaves)
■作詞…ジャック・プレヴェール(1945年)
■英語詞…ジョニー・マーサー(1950年)
■作曲…ジョセフ・コスマ(1945年)
そろそろ木の葉も色づいてきました。ところによっては落ち葉が舞っているところもあるかもしれませんね。
ぼくが住む街は、今日は一日中曇り空でした。晩秋のこんな薄暗い日に聴きたくなるのが「枯葉」です。
「枯葉」は、言うまでもなくフランスの傑作シャンソンです。ジョセフ・コスマが、1945年に初演されたローラン・プティのバレエ「ランデ・ヴー」のために作曲し、あとからジャック・プレヴェールが歌詞をつけました。1946年のフランス映画「夜の門」の中でイヴ・モンタンが歌っています。英語詞は1950年に著名な作詞家、ジョニー・マーサーによってつけられ、同年のビング・クロスビーのレコード、あるいはフランス語と英語によって歌われたエディット・ピアフのレコードなどがヒットしました。以後ポピュラー・ナンバーとなり、とくにジャズ・シンガーはこぞってこの曲を取り上げています。
歌ばかりでなく、インストゥルメンタルとしての素材として取り上げられることも多く、たくさんの名演が生まれています。これは楽器奏者から見ると、アドリブをするのにたいへん魅力的なコード進行であるためです。互いに密接な関係にあるB♭メジャーとGmを適度に行き交う、ワン・コーラス32小節という基本的な構成です。ブルース進行と同様に、シンプルだからこそ色々な可能性を試すことができる曲として、オーソドックスなスタイルから前衛系まで、実に幅広い多くの演奏者に愛されています。
今日はぼくの持っているCDの中から3つの枯葉を選んで聴き比べてみました。
キャノンボール・アダレイ『サムシン・エルス』
まずは1958年のキャノンボール・アダレイの作品、「Somethin' Else」に収録されたものです。これは契約上の問題から名義はキャノンボールになっていますが、実質的にはマイルス・デイヴィスがリーダーとなっています。
イントロからなにかこう薄暗い雰囲気が漂っています。テーマを吹くのはマイルス。ミュートをつけた彼のトランペットを聴いていると、レンガ路の上に枯葉が舞い落ちるのが見えるような気がします。続くキャノンボールのアルト・サックス・ソロは、いつものファンキーでノリのよい彼のスタイルではなくて、マイルスの曲想を引き継いだように、ムードたっぷりです。マイルスのソロはさらに繊細。ダークな雰囲気が立ち込めます。ピアノのハンク・ジョーンズのコロコロ転がるピアノも「これしかない」という感じです。全体的に静かな「枯葉」ですが、その内面にあるのはとてもハードボイルドなスピリットだと思います。
ビル・エヴァンス『ポートレイト・イン・ジャズ』
次はビル・エヴァンスの「Portrait In Jazz」に収録されている「枯葉」です。
ミディアム・ファストで軽快に始まります。イントロからエヴァンスのピアノとスコット・ラファロが激しくバトルを行っています。テーマのサビからはラファロが強力なウォーキング・ベースを聴かせてくれます。テーマが終わるとベース・ソロ。ここでは縦横無尽に弾きまくるラファロにエヴァンスがコール・アンド・レスポンスのような形で絡んでゆきますが、これがまたハードボイルドなんですよね。
エヴァンスのピアノはとても凛としていて、清々しい空気が漂っている感じです。ポール・モティアンは、ふたりのやりとりに素早く反応し、その時々の雰囲気を捉えながらドラムで色彩をつけています。
ラファロのベースは、始終エヴァンスに絡んでいるわけではなくて、ウォーキングすべきところは堅実に4ビートを刻み、絡むべきところでは遠慮なくインタープレイの応酬を繰り広げています。聴かせどころをよく知っていて、メリハリをきちんとつけている、という感じですね。
サラ・ヴォーン『枯葉/クレイジー・アンド・ミックスド・アップ』
最後はサラ・ヴォーンの「Crazy And Mixed Up」に収められているものです。
これは超アップ・テンポ。イントロからジム・ホ-ルのスピーディーなギター・ソロが始まります。それに続いて登場するサラ・ヴォーンのヴォーカルにはビックリ。いきなりスキャットでアドリブを取るのですが、これがまたカッコいいんです。ビートに軽々乗って歌いまくるさまは、まさに秋の強風に吹き飛ばされる枯葉のよう。音の高低、強弱を巧みに使い分けて、聴いていても飽きることがありません。まさにサラの独壇場。中間部のホールのギター・ソロも、速弾きだけではなくて、まるで歌っているような味わいがあります。バックの一糸乱れぬ伴奏ぶりも素晴らしいですね。とくに、ローランド・ハナのピアノの間が絶妙です。この「枯葉」は、驚くべきことにテーマが出てきません。全編アドリブという、異色の構成です。
「枯葉」もスローからアップテンポまで、幅広くどんなテンポにも合いますね。「枯葉」だから、はかなく、寂しい演奏しかない、というわけではないんです。寂寥感のある枯葉も良いし、突風に舞う枯葉があって良い、いろんな「枯葉」があっても構わない、ってことなんでしょうね。
この秋もあちこちで様々な形の「枯葉」が歌われていることでしょう。
『枯葉』ビル・エヴァンス(pf)、エディ・ゴメス(b)、アレックス・リール(drs)
【枯 葉】
窓辺に舞う落ち葉よ 赤と黄金色に染まった枯葉よ
私はあなたのくちびると 夏の日のくちづけ
私が抱いたあの陽に焼けたあなたの手を想う
あなたが去ってから日々は次第に物憂くなり
そして私はほどなくあの冬の歌を耳にするだろう
しかし私は何にも増してあなたを恋しく想う
いとしい人よ 枯葉が舞い落ちる時に
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何度も聞いているのに 身体を縮こまらせながら寒いなか歩いてきたわたしの耳に「この時期 この瞬間にはやっぱりこれだ!」という感じでした。
凛としたという感じ エバンスにはとても似合う言葉ですね♪
映像拝見しました。相変わらずエバンスさんは凄いですが、ラファロさんも凄まじいですね。
サラ・ヴォーンさんのこれは聴いた事ないので、これも是非聴いてみたいです。
というか、皆が演奏してますよね(笑)
私は去年「枯葉」特集アルバムまで買ってしまい、最早、わけがわからない状況になっています(汗)
そうそう、サラ・ボーン版は聴いてみたいんですが、あのテーマが入っていない、というところにちょっと躊躇。
近々、キース・ジャレットを聴いてみる予定です♪
最近、自分が枯れてきた気がする・・・(汗)
エヴァンスのアルバムって、秋に聴くと沁みますね~
本人はアブナイ薬に漬かってたのに、なぜこんな素敵な音が出せるんでしょうか。
それにしても「ポートレイト・イン・ジャズ」など、スコット・ラファロと共演している4枚のアルバムって、素晴らしいの一語に尽きます。
晩秋の寒さ、静けさ、薄暗さがいっそうその音を際立たせているのでしょうか。
あ、動画のベーシストさんはエディ・ゴメスです~
ラファロ亡き後、十数年エヴァンスが使っていたベーシストだけあって、たいへんな実力者ですね。ベースの指板の上を走り回るエディの手、思わず見入ってしまいました(^^)
サラのは悪く言えば突飛、よく言えばユニークな枯葉です。アルバム自体の出来栄えはなかなかのものですよ。
集めてるんじゃなくて、「枯葉」は勝手に集まってきます(笑)。そうそう、みんな一度は演奏したことがあるでしょうね。
>「枯葉」特集アルバム
もしや、収録されているのが全部「枯葉」なのでしょうか。相当にいろんな「枯葉」が聴かれるんでしょうね~
サラ・ヴォーン版は、他の曲も結構良いですよ。ちなみにピアノはNobさんの好きなローランド・ハナです。
キースの枯葉もいいですね~(^^)
>最近、自分が枯れてきた気がする
・・・最近、ですか・・・(疑)
キャノンボールとどっちにするか迷ったけれど、夜更けだったので、ピアノを選びました。
秋の夜長、静かに響くビル・エヴァンスのピアノ。
堪能しました。
僕も記事にしてるので、TBさせていただきました。
し~んとした夜更けに聴くエヴァンス、とても雰囲気があって、精神的な贅沢をさせてもらってるような気分になります。
キャノンボール版も味わい深くて好きです。あれはあれでまた良い雰囲気ですよね。ハンク・ジョーンズのピアノとマイルスのミュート・トランペットには毎回マイってしまいます~
あ、トラックバックどうもありがとうございました(^^)