ぼくは、チック・コリアがそう嫌いではない。
むしろ、アコースティックなジャズに取り組んでいる時のチックの音楽は好きと言ってもいいくらいだ。
ただ、フュージョンを演っている時のチックは少々苦手な部分がある。
あの緻密に計算し尽くしたかのような、幾何学的雰囲気がいまひとつ馴染みきれない。
この「チック・コリア・アコースティック・バンド」は、チック・コリア・エレクトリック・バンドのリズム隊をピック・アップして結成されたものだ。アコースティックなピアノ・トリオとは言ってもエレクトリック・バンドのメンバーがそのままでは、アプローチの違いなんてあるのだろうか、などと危惧したりした。
でも、それは考えすぎだったようだ。
「計算された」どころか、お互いがお互いを触発し合い、エネルギーを爆発させてゆくその演奏は、ジャズそのものだ。
計算されているところがあるとすれば、そういう演奏ができるメンバーをトリオに入れたこと、かもしれない。
御大チックを、若いジョン・パティトゥッチとデイヴ・ウェックルがあおり立てている。あおられながらもチックのプレイはどこか余裕綽綽なところがあって、若手ふたりの手の内をどんどん引き出しにかかっているようだ。
全10曲のうち、6曲がスタンダード、あるいはジャズ・オリジナル。残り4曲がチックのオリジナルである。
曲のテーマはチック流にかなりフェイクされているほか、サイズ(曲の長さ)に手を加えていたり、リハモナイズ(コード進行の再編)していたりして、わりと綿密にアレンジが施されているようだ。
チックのオリジナル曲は、どちらかというとコンテンポラリー色が強く、曲によってはフュージョンのアコースティック版という趣がある。
右からチック・コリア、ジョン・パティトゥッチ、デイヴ・ウェックル
ジョンのベースは、よくドライヴしていて、4ビートでのウォーキング・ベースはもちろん、ソロを取っている時の超人的なテクニックや見事な展開のインプロヴィゼイションなど大いに存在感を発揮している。
デイヴのドラムは、どちらかというと手数が多い方だろう。しかし、フレーズを常に曲の一部と捉えていて、ある時はサウンドを装飾し、ある時は曲にエネルギッシュな勢いをつけ、またある時は生きたビートでバンドを引っ張るなど、とても音楽的なドラミングを聴かせてくれる。
そして、このふたりの遠慮のない弾けっぷりがより斬新なインタープレイとなって音に現れていると思う。
もともとエレクトリック・バンドだと大掛かりな機材を持ち込むことがたいへんで、そのため地方をサーキットできない、という理由でアコースティック・トリオが組まれたそうだ。当初はあくまでエレクトリック・バンドのサブ的ポジションだったのだが、それが演奏を重ねるごとにこのトリオは独自の音楽を創造するようになってゆき、チックにとっても重要なバンドに育っていったというわけである。
このアルバムの中でぼくが好きな曲といえば、スウィンギーなジャズ・ワルツ「いつか王子様が」、テーマをモチーフにしたルバートから始まり、ちょっと小粋なミディアムの4ビートで歌い上げる「マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ」、いかにもコンテンポラリーといった感じの爽快なテーマを持ち、4ビートとラテン・ビートが交錯する「モーニング・スプライト」、そしてお馴染みの複雑なキメを持つ、スパニッシュでエキサイティングな「スペイン」といったところだろうか。
このメンバーで録音されたスタジオ・ライヴ盤(「アライヴ」)もある。ライヴ盤だけあってさらにテンションが高く、三人のよりエモーショナルなプレイを聴くことができる。このアルバムもいずれエントリーしてみようと思っている。
◆スタンダーズ・アンド・モア/チック・コリア・アコースティック・バンド (Chick Corea Akoustic Band)
■演奏
チック・コリア・アコースティック・バンド/Chick Corea Akoustic Band
チック・コリア/Chick Corea (piano)
ジョン・パティトゥッチ/John Patitucci (bass)
デイヴ・ウェックル/Dave Weckl (drums)
■プロデュース
チック・コリア/Chick Corea
■レーベル
GRPレコード
■リリース
1989年
■録音
1989年1月2~3日 (ニューヨーク市クリントン・スタジオ)
■収録曲
① ベッシーズ・ブルース/Bessie's Blues
② マイ・ワン・アンド・オンリー・ラヴ/My One And Only Love
③ ソー・イン・ラヴ/So In Love
④ ソフィスティケイテッド・レイディ/Sophisticated Lady
⑤ 枯葉/Autumn Leaves
⑥ いつか王子様が/Someday My Prince Will Come
⑦ モーニング・スプライト/Morning Sprite
⑧ T.B.C.(ターミナル・バケッジ・クレイム)/T.B.C.(Terminal Baggage Claim)
⑨ サークルズ/Circles
⑩ スペイン (ロング・ヴァージョン)/Spain
■チャート最高位
1989年 ビルボード・ジャズ・アルバム・チャート 1位
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カモメ
スペイン
不思議の国のアリス様
の順に好きです♪
というか、この3枚しか持っていない・・・
カモメはフュージョンですかね?
カモメのチックは、ジャンル分けすると、やっぱりフュージョンになるんでしょうね。
今思ったんですが、ぼくはフュージョンが苦手というより、生ピアノが好きなんでしょうね。電気楽器もエレクトリック・ピアノとハモンド・オルガンは好きですけど、シンセサイザー主体になると聴いてて少し疲れるんです。だからフュージョンでも好きなのもたくさんあるんですよ♡。