今日も、めくるめく映画レビューをば♪
『幸せパズル』。
アルゼンチン映画です。
初めて見ました、アルゼンチンの映画。
で。
わたし的には、物凄くツボな作品で。
鑑賞後は、なんとも言えない切ない気持ちになりましたです。
女性のヒューマン物がお好きな方には、もう、是非是非オススメしたい作品です。
映画『幸せパズル』予告編
舞台はアルゼンチン・ブエノスアイレス。
この物語のヒロインは、50歳の専業主婦マリア。
彼女は、夫に従い、息子達に尽くし、特にこれと言った趣味もなく、家事だけの人生を送ってきました。
けれども、夫と息子達が幸せであることが、彼女の喜びであり生き甲斐でもあったわけですね。
そんな彼女は、50歳の誕生日に、親戚の女性からジグソーパズルをプレゼントされます。
興味を覚え、パズルのパッケージを開けるマリア。
すると、彼女には、元々ジグソーパズルの才能があったようで、そのパズルをすぐに完成させてしまいます。
そして、パズルを作ることに喜びや楽しさを覚えるのでした。
すっかりパズルの魅力に虜になった彼女は、新たなパズルを求めて、「パズルマニア」というジグソーパズル専門店に足を運びます。
そこで【パズル選手権大会出場のパートナー募集中】という張り紙を見付けるのでした。
その張り紙に興味を覚えた彼女は、早速、相手に連絡。会うことになります。
パートナーを募集していたのは、パズル選手権大会の常連者であり、大富豪な独身紳士のロベルト。
マリアの独特なパズルの才能に感動したロベルトは、是非パートナーになって、大会に出場しようと言います。
こうして彼女は、選手権大会に向けて、週2回、ロベルトの屋敷で練習をすることになるのでした。
家族にパズル選手権のことを言えないマリアは、夫や子供に、「伯母の介護」と嘘を付いて、ロベルトの屋敷に足を運びます。
そして、練習を重ねる内に、更に、パズルの才能を伸ばしていくマリア。
この調子なら、選手権大会で優勝し、ドイツでの世界大会の切符を手にし、世界を制するのも夢ではない・・・というレベルにまで達するのでした。
そして、やっと家族にも、パズル選手権大会に出ることを話し、一応、理解も得られたマリアですが。
今まで、趣味もなく、家族のこと最優先で、家のことを完璧にこなしていた彼女が趣味を持つことに、夫や息子は戸惑いを隠せません。
一方、マリアにとっても、国内の大会ならまだしも、もし優勝してドイツへ行く・・・というのは、本当に遠い遠い世界の話。
また、彼女は、自分を1人の人間、1人のパートナーとして、対等に扱ってくれる独身紳士のロベルトにもトキメキを覚えていくのでした。
なんというか。
何か大きなドラマティックなことがある訳ではなく、主婦の生活と、その変化を描いた作品な訳ですが。
見終わった後に、胸に来るものがありました。
ちょっと、切ないような、やるせないような、もどかしいような・・・。
ヒロインのマリアは、家族に尽くすためだけに生きてきて、それが生き甲斐の女性だったのですよね。
もちろん、夫は優しくて、自分のことを愛してくれているし、息子も立派に成長してて。それは、とても幸せなこと。
でも、何か満たされないというか、どことなく、生活に疲れている様子が、映画を見ていて窺えたのですよね・・・。
冒頭の、マリアのお誕生日パーティーのシーンなんか、特にそう。
沢山の親戚や友人を招いて、賑やかに、歌い騒ぐパーティー。
でも、これは、マリアのお誕生日パーティーな訳だから、彼女が主役なハズ。
なのに、手間暇かけて、沢山のお客さん達の料理を作り、飲み物を用意し、座る間もなく忙しく給仕しているのは、彼女1人だけ。
その姿は、パーティーの主役というより、小間使いのようで。
なんか、見ていて切なかった。。。。
お料理を作るのは、まあ良いとしても、夫や息子達が、なんで、給仕のお手伝いしないの!? 何、自分らは、座って談笑して楽しんでるんだよ!?
何、お母さんに、「○○持ってきて~」とか顎で使ってるんだよ!?
っていうか、アルゼンチンの文化は分かりませんが、お母さんの誕生日なら、せめてこの日くらい、夫や息子達が料理をするなり、いっそ、デリバリーを取るなり・・・とかないのかな?と思うほどの、マリアの多忙ぶりに、見ていて気の毒すぎて、少しイラッとしました。
確かに、夫や息子達は、マリアのことを愛しています。
でも、どんなに彼女が手の込んだ料理を作っても、家族に尽くしても、それが「当たり前」な感じになってて。特に感謝するという気持ちは、最初からない感じです。
夫は夫、息子達は息子達で、それぞれ、夢中になっていることがあり、皆、自分のことばかり考えて生きています。
愛していても、あまり、お母さんという存在に対して、関心はなかったのかもしれませんね。
そして、彼女も、「妻」や「母」というのは、そういうものなのだ・・・と思っていたところもあったのでしょうね。
そんな彼女が、初めて、家族の世話以外のことに興味を持つわけです。
しかも、パズル選手権大会のパートナーは、大富豪の独身紳士。
彼女は、多分、これまでの人生で、夫からは「妻」とか「母」という立場でしか見られていなかったのでしょう。
そして、男女差別・・・とまではいかなくても、どこか、夫より一段低いというか、対等な立場で扱われていなかったのだと思います。
けれども、紳士なロベルトは、マリアを1人の才能あるパートナーとして認め、対等な人間として接してくれる訳ですよね。
だから、彼女は、ロベルトの前では、そして、パズルをしている時は、妻でも母でもない、本当の自分らしい自分で居られるようになったのだと思います。
これまで、家族に隷属して生きてきた彼女が、大きく変化していったのは、このことからなのではないかと思いました。
そして、そんなロベルトに彼女が惹かれていったのも、ごく自然なことだったと思います。
ロベルトに会いに行くときは、服を選んで、家にいるときとは少し違う、オシャレな服装だったり。
また、お風呂で体を丁寧に洗ったり、化粧水をしっかり付けたり・・・。
段々、マリアが「女」に戻っていこうとする姿は、めっちゃ、応援しちゃいました!
一方で、マリアがパズルをすることに戸惑いを覚える家族達。
・・・と言っても、ハタから見れば、別に、彼女が家のことを放ったらかしでパズルに熱中している訳ではないのですよ?
ちょっと、買い置きのチーズを切らしてしまったり、ちょっとだけ帰りが遅くなったり・・・そんな程度かな。
パズルを作るのだって、皆が仕事や学校に出掛けた昼間の1人の時間や、家族が寝静まった深夜にやってる訳ですから。
そんなに迷惑掛けてる訳じゃないと思うなぁ(--;
別に、チーズの買い置きが欲しいなら、必要な人が買って帰れば良い訳だし。
ちょっとくらい夕食の時間が遅れたって良いじゃん? てか、自分らでも作れるようになろうよ。
今まで、コレと言った趣味もなく、50歳になるまで、家族一筋で尽くしてきたお母さんが初めて見付けた趣味だよ!?
もっと、家族が協力してあげても良いんじゃない??と、イライラ・・・というかもどかしかったです。
多分、夫や息子達は、普段は自分たちのやりたいことで一杯一杯で。マリアに対して、たいした関心を持っていなかったクセに。でも、マリアが自分たちのことを最優先にしなくなる・・・というのが嫌なのでしょうね。
不便だから。
自己中だな(--;
パズルに夢中になる彼女を、夫が怒るシーンがあるのですが。
その時、彼女が夫に反論するのですよね。
「アナタだって自分のことに夢中。息子達だって、自分のやりたいことに夢中。みんな、勝手なことばかりしている! 私だって良いじゃない!」
・・・みたいな感じで。
なんか切なかったよ(;;)
多分、彼女は、これまで、色々思うところがあっても、家族の間に波風立てないように、じっと、自分を殺してきたんだと思う。そして、家族が穏やかに生活し、息子達が成長していくことを「幸せ」だと考えていたのだと思います。
そして。
今までの彼女だったら、夫に対して、キレたり、反論したりしなかったのでしょうが。
もしかしたら、このシーンは、人生に於いて、初めて彼女が夫に反抗した瞬間だったのかもしれせんね。
趣味を持つことで、自分には人にない才能があると自覚し、それから来る自信が、少しずつ、彼女を変えていったのでしょう。
そんな感じで。
ちょっとギスギスしていた家族関係でしたが。
でも、決して、不仲な訳ではないのですよね。
そして、「パズル選手権」をバカにしていた家族達ですが、心の何処かでは、ちゃんとマリアのことを気に掛けていたのかもしれません。
なので、彼女が、選手権大会で優勝すると、大喜びする家族達。
マリアも、家族に優勝を報告し、共に喜ぶわけですが。
しかし、彼女は、この晩、ロベルトと一線を越えて、帰宅するのでした。
でもでも。
やっぱり、彼女にとって、最優先なものは家族なのですよね。
ロベルトと一線を越えちゃったけど。。。。でも、夫や息子が大切。
「女」にはならずに、「妻」や「母」であることに踏みとどまったのだと思います。
ネタバレになっちゃうけど、彼女は、ドイツへの切符を手にしたものの、ドイツには行きません。
記念として、想い出として、その切符を大切にしまっておくのですよね。
ラスト直前、家族とのシーンがあるのですが。
夫が彼女にケータイ電話をプレゼントしたり。
また、家族団欒のシーンで、息子達が、彼女に「パズル選手権の時の話を聞かせて~」と話しかけます。
今まで、マリアがどこでどうしたとか、あまり関心の無かった家族達が、彼女に対して関心を持つ。
つまり、彼女に家族の中で「居場所」が出来たのですよね。
そして、彼女は、その家族と共に、この先の人生を尽くすことにした。
だから、ドイツには行かず、パズルは趣味に留めておくことにした。
そういうことなんじゃないかなぁと思いました。
そうそう。
最後の最後。
彼女が自分の部屋・・・みたいなのを持ってます。
今までは、皆が寝静まった後や、皆が出払った後の、居間や台所でパズルをしていたのに。
ちょっと可愛らしい、彼女がパズルを楽しむため専用の部屋っぽい感じ。
そして、そこには、彼女が好きなエジプトの画集が飾ってあったりと。
本当に、マイルームな感じ。
多分、上の息子が、独り暮らしを始めて、空いた部屋を貰ったのでしょうかね?
こうやって、自分の部屋、自分が好きなことに没頭できる部屋を持つところに、彼女の家族の中での変化を感じました。
そして、エンドロールでは、1人でお弁当を持って、ピクニックを楽しむ彼女の姿が。
ドイツには行かなかったけど。
こうやって、ささやかな独りの時間を楽しむことが出来るようになった。
これが、彼女の小さな抵抗であり、成長だったのかもしれないですよね。
っていうか。
わたし個人としては、彼女には、ドイツに行って、その才能で世界を制して、その道の覇者になって欲しかったです。
これが、もし、アメリカのウーマン・サクセスストーリーだったら、そんなエンドだったのかもしれないけど。
彼女がドイツに行かなかった・・・という結末が、アルゼンチンの女性事情なのかなぁと思いましたです。
見終わった後に、胸に来る作品です。
ヒューマンものがお好きな方は、是非!