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モバライダー mobarider

理論上は太陽の8倍以上に成長できないはず… 太陽の何十倍もある大質量星が数多く存在するのはなぜ?

2020年02月22日 | 星が生まれる場所 “原始惑星系円盤”
これまでの理論では、星は太陽の8倍以上の質量には成長できないことになっています。
でも、宇宙には太陽の何十倍もの質量をもった大質量星が数多く存在しているんですねー

今回の研究で分かってきたのは、間欠的な降着によって原始星が大量の物質を獲得するということ。
質量の大きい原始星の観測では、星への爆発的な物質降着によって発生した“熱の波”が発見されたそうです。


周囲からガスが一気に原始星に落ち込む現象

生まれたばかりの星“原始星”の周りには大量のガスやチリが存在し、それらは原始星の重力にひかれて落下していきます。

恒星の形成理論によると、原始星からの強い光に阻まれるため、星の質量は太陽の8倍以上には成長できないことが示されています。
  天体の光度がある値を超えると、光の圧力が重力を上回り、ガスが天体に落ちることができなくなる。

でも実際には、宇宙には太陽の何十倍もの質量を持つ大質量星が数多く存在しているんですねー
これまで、この恒星の形成理論と現実との不一致は天文学上の謎になっていました。

どうすれば、この不一致を解決できるのでしょうか?

解決案の一つとして、原始星が短時間の“爆発的な物質の降着(降着バースト)”を繰り返すことによって質量を増やすという説があります。

このモデルから考えられるのは、周囲からガスが一気に原始星に落ち込み、短時間に多くの質量を獲得できるということ。
また、“降着バースト”が起こるのは数百年から数千年に1回で、それ以外は穏やかな期間が続くとされています。

このように“降着バースト”は期間が短く、原始星は熱いガスやチリに覆われることになり、可視光線での観測が難しくなります。
そう、“降着バースト”を直接的にとらえることは困難なことなんですねー


“降着バースト”によって引き起こされた現象を発見

2019年1月のこと、へびつかい座の方向にある質量の大きな原始星“G358-MM1”で、“降着バースト”につながる兆候が発見されます。

これを受けて、国立天文台水沢VLBI観測所の研究チームは、南半球の電波望遠鏡ネットワーク“メーザー監視機構”を編成。
“降着バースト”を起こした原始星が出す熱によって生じる放射の細かい構造を調べることになります。

研究チームでは、数週間おきに“メーザー監視機構”によって得られた観測画像の比較を実施。
すると、“G358-MM1”の位置から外に向けて広がっていく“熱の波”を発見します。

そして、この波が“降着バースト”によって引き起こされたことを、NASAの航空機望遠鏡“SOFIA”を用いた観測により確認することができました。
(左)“熱の波”のイメージ図。“降着バースト”が引き起こした“熱の波”が外に向けて広がっていく様子を示している。(右)“メーザー監視機構”が取得したデータを用いて描いた電波画像。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく“熱の波”の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している。
(左)“熱の波”のイメージ図。“降着バースト”が引き起こした“熱の波”が外に向けて広がっていく様子を示している。(右)“メーザー監視機構”が取得したデータを用いて描いた電波画像。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく“熱の波”の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している。
今回の研究では、原始星への“降着バースト”が引き起こす現象が、初めて詳細にとらえられました。

このことは、間欠的な降着によって原始星が成長するという理論を支持する発見になります。
恒星の形成理論と現実とが一致し、天文学上の謎を解く1つの証拠を得ることになったんですねー

“メーザー監視機構”では、今後も質量の大きな原始星の性質や形成メカニズムについて、より詳しい研究を続けていくそうです。


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