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恒星のすぐ近くを公転する惑星は大気観測に適している! 二酸化硫黄とケイ酸塩の存在が示す光化学反応と高温で強い大気循環

2023年12月27日 | 系外惑星
恒星からの熱で膨張している系外惑星“WASP-107b”は、大気組成を詳細に観測しやすい太陽系外惑星の1つと言えます。

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて“WASP-107b”を観測。
これまでで最も詳細な大気組成のデータを取得しています。

注目すべき発見として、二酸化硫黄と砂粒の雲の検出や、メタンの不検出があり、これらは従来の惑星モデルを書き換えるものになるそうです。
この研究は、パリ・シテ大学のAchrène Dyrekさんを筆頭とする国際研究チームが進めています。
図1.恒星“WASP-107”からの熱で大気が膨張している系外惑星“WASP-107b”のイメージ図。(Credit: LUCA School of Arts (Belgium) - Klaas Verpoest (visuals) & Johan Van Looveren (typography))
図1.恒星“WASP-107”からの熱で大気が膨張している系外惑星“WASP-107b”のイメージ図。(Credit: LUCA School of Arts (Belgium) - Klaas Verpoest (visuals) & Johan Van Looveren (typography))


系外惑星の大気に含まれる分子の種類

私たちの地球を含め、宇宙に存在する惑星はどのように形成され、進化していったのでしょうか?

このことを理解するには、多数の惑星を観測し、その性質を知る必要があります。
このため、太陽以外の天体の周りを回る惑星“系外惑星”は重要な観測対象とされています。

近年の技術革新により、系外惑星の大気に含まれる分子の種類を探ることが可能になってきました。

光の波長ごとの強度分布をスペクトルと言い、地球から見て系外惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)している時に、系外惑星の大気を通過してきた主星のスペクトルが透過スペクトルになります。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、透過スペクトルには大気に含まれる元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所“吸収線”が現れることになります。

“透過スペクトル”と“主星から直接届いた光のスペクトル”を比較することで吸収線を調べることができ、その波長から元素の種類を直接特定することができます。

ただ、系外惑星の大気を通過した光は、通過せずに直接届いた主星の光に混ざっていて、その光の量は極めてわずかなものです。

また、大気中に含まれる元素の量が少なければ少ないほど、吸収線も弱くなってしまいます。
吸収線は異なる元素が非常に近い値をとることもあるので、吸収線が重なり合うことで元素の種類を誤認してしまうこともあり得ます。

そのため、系外惑星の大気成分の研究には極めて精度の高い分光観測を必要とし、その作業は極めて困難なものになります。
過去の観測で見つかったと主張された元素が、後の観測では見つからなかったり、誤認であると断定されたりしたケースも珍しくありませんでした。


恒星の近くを公転する低密度な惑星は大気の観測に適している

太陽以外の恒星を公転する太陽系外惑星(系外惑星)には、太陽系では決して見られない環境を持つ惑星も見つかっています。

例えば、恒星のすぐ近くを公転する海王星や木星のような天体があり、それぞれ灼熱の海王星型惑星“ホットネプチューン”や灼熱の木星型惑星“ホットジュピター”と呼ばれています。

これらの惑星は恒星に極めて近い軌道を公転しているので、表面が数百℃以上に熱せられ、大気全体の熱膨張によって平均密度が極めて低くなります。
その結果、同程度の質量を持つ低温の惑星と比べて密度が低くなるという訳です。

こうした惑星の中でも、特に低密度な惑星は“パフィー・プラネット”とも呼ばれています。
“パフィー・プラネット(Puffy planets)”は、直訳すれば“フワフワとした惑星”、“膨らんでいる惑星”になります。

実は、このような低密度の惑星は、大気の組成を調べる研究において重要視されているんですねー

惑星の大気を調べるには、透過スペクトルから吸収線を調べる必要があります。
低密度な惑星の透過スペクトルは高密度の惑星と比べて、下層部の大気の情報を多く含んでいるので、気体が主体の惑星全体の組成を推定したり、その形成や進化を考察する上で重要な手掛かりになります。

2017年に発見された“WASP-107b”は、まさにそのような惑星の1つでした。
“WASP-107b”の大きさは木星とほぼ同じなのに、質量は木星の10分の1しかないので、平均密度はコルクに匹敵する1立方センチ当たり0.2グラムしかありませんでした。

地球からの距離が約200光年と比較的近いことや、“WASP-107b”が公転している恒星“WASP-107”が明るいことから、“WASP-107b”は大気の詳細な観測に適した系外惑星の1つに挙げられています。

これまでの観測により、“WASP-107b”には二酸化硫黄が存在することが示唆されていました。
でも、この発見には疑問の声も同時に挙がっています。

これまでの惑星科学のモデルで考えられていたのは、二酸化硫黄は約930℃以上の高温の大気中では、光を介する“光化学反応”で形成されることでした。

一方、約730度以下の温度では二酸化硫黄は生成されず、代わりに生成されるのは硫黄の同素体。
その同素体が、二酸化硫黄の吸収線に似ているとも考えられていました。

実際に観測してみると、“WASP-107b”の大気上層部の温度は約470℃であるため、二酸化硫黄が形成される推定温度を遥かに下回っていることが確認されています。


“WASP-170b”の内部はかなり高温で強い大気循環が起きている

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡を用いて“WASP-170b”を観測し、これまでより高精度な大気のデータを取得しています。

観測に用いられたのは、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡に搭載された“中間赤外線観測装置(MIRI)”。
二酸化硫黄を含むいくつかの分子をとらえるのに適した分光器といえます。

観測の結果、得られたのは二酸化硫黄が間違いなく存在するという観測的証拠でした。
これは、“WASP-170b”の大気中で光化学反応が起きているという証拠になります。

光化学反応の存在が示された惑星は“WASP-39b”に次いで2例目。
両方とも、観測的証拠はジェームズウェッブ宇宙望遠鏡により得られたものでした。
図2.“WASP-107b”の中赤外線領域のスペクトルを表した図。二酸化硫黄やケイ酸塩、水蒸気が検出され、一方でメタンは検出されなかった。(Credit: Michiel Min, European MIRI EXO GTO team, ESA & NASA)
図2.“WASP-107b”の中赤外線領域のスペクトルを表した図。二酸化硫黄やケイ酸塩、水蒸気が検出され、一方でメタンは検出されなかった。(Credit: Michiel Min, European MIRI EXO GTO team, ESA & NASA)
また、“WASP-170b”の二酸化硫黄および水蒸気の存在を示す吸収線は、雲がかかったようにはっきりとしないものでした。
これは比喩表現ではなく、実際に存在する雲が吸収線を不明瞭にしていると考えられます。

今回の観測では、雲の組成を測定するという稀な機会に恵まれ、雲がケイ酸塩で構成されていることを突き止めています。
ケイ酸塩は、地球では身近な岩石や砂などを構成する主成分なので、“WASP-170b”の大気上層部には砂の雲があることを示しています。

このことは意外な発見となりました。

地球では水が蒸発して水蒸気の雲ができるように、高温の惑星では大気下層部でケイ酸塩が蒸発して砂の雲ができることは分かっていました。
でも、砂の雲が大気上層部まで上がるには、これまでは1000℃以上の高温が必要だと考えられていたんですねー

ただ、“WASP-170b”の大気上層部の温度は約470℃しかありません。
このことから、“WASP-170b”の内部はかなり高温で、かつ大気の下層部と上層部を十分に混ぜるだけの強い大気循環が起きていることを、砂の雲の発見は示していました。

“WASP-170b”の内部が高温で、熱による強い大気循環が起きていることを示す別の証拠もあります。
それは、メタンの不検出です。

メタンには、温室効果ガスとして大気を温める働きがあります。
でも、十分な高温と強い光があると分解してしまいます。

高感度なジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の性能を駆使してもメタンが検出されなかったということは、“WASP-170b”では大気下層部まで十分な強さの光が届いていて、内部が高温で熱せられ、メタンが分解されていることを示しています。

メタンの不検出は、砂の雲の検出と共に、“WASP-170b”の激しい大気循環の証拠になります。

今回のジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による“WASP-170b”の観測結果は、十分に説明ができなかった従来の惑星科学のモデルに対して、修正が必要なことを示しているのかもしれません。


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