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誕生から約21億年しか経っていない時代の宇宙に棒渦巻銀河を発見! 銀河には考えられていたより数倍も速い形成過程があるのかも

2023年12月30日 | 銀河・銀河団
天の川銀河の中心部は、恒星が棒状に集まった構造をしています。
このような構造を持つ銀河は“棒渦巻銀河”と呼ばれています。

シミュレーションによると、棒渦巻銀河の形成には数十億年かかると考えらています。

ただ、今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測データから、誕生から約21億年しか経っていない時代の宇宙に、棒渦巻銀河“ceers-2112”を発見しているんですねー

分析から分かってきたのは、“ceers-2112”が10億年以内に棒渦巻銀河になった可能性があることでした。
これは棒渦巻銀河に留まらず、様々な銀河の構造形成過程の理論を書き換える可能性のある発見になるようです。
この研究は、スペイン宇宙生物学センター(CAB)のLuca Costantinさんたちの研究チームが進めています。
図1.天の川銀河との類似性を連想させる“ceers-2112”のイメージ図。(Credit: Luca Costantin (CAB & CSIC-INTA))
図1.天の川銀河との類似性を連想させる“ceers-2112”のイメージ図。(Credit: Luca Costantin (CAB & CSIC-INTA))


棒渦巻銀河の複雑な構造は時間をかけて形成されている

星形成が活発な銀河の半数以上に円盤構造があり、そのような銀河は円盤銀河と呼ばれています。

さらに、円盤銀河には2種類あり、それが渦巻銀河と棒渦巻銀河になります。

渦巻銀河は、図1(左)のように、文字通り渦を巻いた構造(渦巻腕と呼ばれる)が見られる銀河。
棒渦巻銀河は、渦巻銀河と似ていますが図1(右)のように、中心を貫く棒構造が見られるのが特徴です。

私たちが住んでいる地球のある天の川銀河も棒渦巻銀河と考えられています。
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
図2.(左)渦巻銀河“M51”と(右)棒渦巻銀河“NGC 1300”。(Credit: NASA, ESA, and The Hubble Heritage Team (STScI/AURA); Acknowledgment: P. Knezek (WIYN))
全銀河に占める棒渦巻銀河の割合は、近い宇宙では約65%と多数派ですが、遠い宇宙では約20%まで低下しています。

宇宙は遠くを観測するほど古い時代を観測するのに等しいので、棒渦巻銀河は時間をかけて複雑な構造が形成されたことを示唆しています。

棒渦巻銀河がどのように形成されるのかについては、長年のシミュレーション研究で少しずつ明らかにされています。

過去のシミュレーション研究によれば、中心部の棒状構造はどんなに速くても40億年かかると推定されていました。

棒状構造は、恒星を生み出す星形成を促進すると考えられているので、棒状構造がどのくらいのスピードで構築されたのかは重要な情報になります。


初期宇宙に存在していた棒渦巻銀河

今回の研究では、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の深宇宙探査プログラムの1つ“CEERS(Cosmic Evolution Early Release Science)”のデータから、“ceers-2112”とカタログ名が付けられた銀河の分析を行っています。

当初、“ceers-2112”は目立った特徴を示すデータが無かったので、特に注目されていませんでした。
でも、研究チームが7つの別々の観測データを元に多角的に分析をしてみると、“ceers-2112”の中心部には棒状の構造がある可能性が高いことが分かってきます。

さらに、驚くべきは“ceers-2112”が存在している時代でした。

ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡のそれぞれの観測データに基づくと、“ceers-2112”の赤方偏移(※1)の値はz=3.03。
この値は、地球から約213億光年離れた位置に当たり、今から約117億年前の宇宙になります。
※1.膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移(記号z)の度合いを用いて算出されている。
117億年前というと、宇宙誕生から約21億年しか経っていない時代。
“ceers-2112”は、初期宇宙に存在していた棒渦巻銀河になり、最も遠い場所で発見された棒渦巻銀河になりました。
図2.“ceers-2112”の観測データを様々な方法で分析し画像化したもの。図bの黒線で囲まれた赤い部分が中心部の棒状構造を直接観測したものと思われる。これを確かめるための計算や分析を行った結果、図cの赤い楕円で囲まれた棒状構造が現れた。(Credit: Luca Costantin, et al.)
図2.“ceers-2112”の観測データを様々な方法で分析し画像化したもの。図bの黒線で囲まれた赤い部分が中心部の棒状構造を直接観測したものと思われる。これを確かめるための計算や分析を行った結果、図cの赤い楕円で囲まれた棒状構造が現れた。(Credit: Luca Costantin, et al.)
さらなる観測データの分析により、“ceers-2112”では宇宙誕生から約12億年後に円盤の形成が始まり、そこから4億年後には中心部の棒状構造が完成したことが分かります。

このことは、棒渦巻銀河が10億年以内のスピードで形成されるという、これまでのシミュレーションより数倍も速い形成過程があることを意味することに…
今回の研究結果は、様々な銀河の形成過程に影響を与える発見なのかもしれません。

現状では、“ceers-2112”が存在した時代までに棒渦巻銀河を形成するプロセスは不明のままです。

ただ、棒渦巻銀河に限らず、様々な銀河の構造の形成や維持には重力が重要なことが分かっています。
さらに、その重力源として、光をはじめとする電磁波と相互作用せず直接観測することができない正体不明の物質“暗黒物質(ダークマター)”が、大量に存在することも分かっています。

今回の研究結果は、初期の宇宙における暗黒物質の量や分布を制限し、棒渦巻銀河に限らず様々な銀河の構造形成過程に影響を与える可能性もあります。

いずれにしても、棒渦巻銀河の棒状構造は、時代を遡るごとにサイズが小さくなり、また見た目の大きさも小さくなります。

高い赤外線感度と高性能な分光器を持つジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が無ければ、このような発見はなかったはず。
“ceers-2112”に留まらず、他の棒渦巻銀河も“CEERS”の観測データに隠れている可能性があることを、今回の研究結果は示しているのかもしれませんね。


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