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約22光年先の系外惑星“LTT 1445Ac”は地球サイズで岩石質だった! ハッブル宇宙望遠鏡による観測で分かったこと

2023年12月29日 | 系外惑星
今回の研究では、ハッブル宇宙望遠鏡を用いた観測データを元に、約22光年先に位置する太陽系外惑星“LTT 1445Ac”の直径を算出しています。

“LTT 1455Ac”は、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”の観測によって発見された系外惑星でした。

推定される“LTT 1445Ac”の直径は地球の約1.07倍、岩石質の惑星のようです。
この研究は、ハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)のEmilu Passさんを筆頭とする研究チームが進めています。研究成果をまとめた論文は“The Astronomical Journal”に掲載されました。
図1.赤色矮星“LTT 1445A”の手前を通過する系外惑星“LTT 1445Ac”のイメージ図。“LLT 1445Ac”は黒い影として描かれている。左下は同じ主星を公転する系外惑星“LTT 1445Ab”。(Credit: NASA, ESA, L. Hustak (STScI))
図1.赤色矮星“LTT 1445A”の手前を通過する系外惑星“LTT 1445Ac”のイメージ図。“LLT 1445Ac”は黒い影として描かれている。左下は同じ主星を公転する系外惑星“LTT 1445Ab”。(Credit: NASA, ESA, L. Hustak (STScI))


トランジット法により発見された系外惑星

“LTT 1445Ac”は、エリダヌス座の方向に位置する赤色矮星“LTT 1445A”を公転している太陽系外惑星(系外惑星)です。(※1)
NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”の観測によって発見されました。
※1.赤色矮星は、表面温度がおよそ摂氏3500度以下の恒星。実は宇宙に存在する恒星の8割近くは赤色矮星で、太陽系の近傍にある恒星の多くも赤色矮星になる。太陽よりも小さく、表面温度も低いことから、太陽系の場合よりも恒星に近い位置にハビタブルゾーンがある。
主星の“LTT 1455A”は直径と質量がどちらも太陽の約4分の1、表面温度は約3067℃で、他の2つの赤色矮星とともに三重連星“LTT 1445”を構成しています。

“TESS”は、地球から見て系外惑星が主星(恒星)の手前を通過(トランジット)するときに見られる、わずかな減光から惑星の存在を探る“トランジット法”という手法により惑星を発見し、その性質を明らかにしていきます。

繰り返し起きるトランジット現象を観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。
また、トランジット時には、主星の明るさが時間の経過に合わせて変化していきます。
その明るさの変化を示した曲線“光度曲線”をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることが可能になります。

ただ、地球から観測したトランジット中の“LTT 1445Ac”は、その一部だけが主星の“LTT 1445A”と重なり、かすめていくように見えている可能性があったそうです。

このような位置関係にある場合は、系外惑星の正確な直径を求めることが難しくなってしまいます。
図2.地球から見たトランジットの見え方の違いを示した図。系外惑星が主星と完全に重なりながら通過する場合(上)、系外惑星の直径をより正確に算出できる。一方、系外惑星がかすめるように通過する場合(下)、系外惑星の直径は実際よりも小さく算出されてしまう可能性がある。(Credit: NASA, ESA, E. Wheatley (STScI))
図2.地球から見たトランジットの見え方の違いを示した図。系外惑星が主星と完全に重なりながら通過する場合(上)、系外惑星の直径をより正確に算出できる。一方、系外惑星がかすめるように通過する場合(下)、系外惑星の直径は実際よりも小さく算出されてしまう可能性がある。(Credit: NASA, ESA, E. Wheatley (STScI))


地球サイズの岩石惑星

そこで、今回の研究では、“LTT 1445Ac”のトランジットをハッブル宇宙望遠鏡で観測。
観測で得られたデータの分析を行っています。

その結果、“LTT 1445Ac”の直径は地球の約1.07倍(1.07+0.10-0.07倍)、質量は地球の約1.37倍(1.37±0.19倍)と算出されました。
推定される平均密度は1立方センチ当たり約5.9グラム(5.9+1.8-1.5グラム)で、地球のような岩石質の惑星とみられています。

“TESS”の光学解像度では、トランジット中の“LTT 1445Ac”が主星の“LTT 1445A”と完全に重なるように見えるのか、それともかすめていくように見えるのかを判断できなかったものの、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データは完全に重なりながら通過していることを示していて、“LTT 1445Ac”の直径を求めることができたそうです。

地球サイズの岩石惑星と言えば、気になるのが生命の居住可能性です。

ただ、“LTT 1445Ac”は主星から約0.027天文単位(※2)しか離れていない軌道を、約3.12日周期で公転しています。
主星の“LTT 1445A”は恒星の中では低温の赤色矮星ですが、“LTT 1445Ac”の表面温度は約260度と推定されているので、地球の生命にとっては厳しい環境と言えます。
※2.1天文単位(au)は太陽~地球間の平均距離、約1億5000万キロに相当する。


もう一つの系外惑星の探査方法“ドップラーシフト法”

系外惑星の観測では“トランジット法”以外に“ドップラーシフト法”という手法も用いられています。

ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを回っている惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法です。

分光器により光の波長ごとの強度分布“スペクトル”を得ることができます。
この“スペクトル”は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている時には短い波長(色でいえば青い方)へ、遠ざかっている時には長い波長(色でいえば赤い方)へズレてしまいます(シフトする)。

この周波数の変化量を測定することで、天体の動きやその速度を知ることができます。
ドップラーシフト法の観測データからは、系外惑星の公転周期や最小質量を知ることができる訳です。


系外惑星の大気の組成

近年の技術革新により、系外惑星の大気に含まれる分子の種類を探ることが可能になっています。

光の波長ごとの強度分布をスペクトルと言い、地球から見て系外惑星が恒星(主星)の手前を通過(トランジット)している時に、系外惑星の大気を通過してきた主星のスペクトルが透過スペクトルになります。

個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、透過スペクトルには大気に含まれる元素に対応した波長で光の強度が弱まる箇所“吸収線”が現れることになります。

この“透過スペクトル”と“主星から直接届いた光のスペクトル”を比較することで吸収線を調べることができ、その波長から元素の種類を直接特定することができます。

ただ、系外惑星の大気を通過した光は、通過せずに直接届いた主星の光に混ざっていて、その光の量は極めてわずかなものになります。

また、大気中に含まれる元素の量が少なければ少ないほど、吸収線も弱くなってしまいます。
吸収線は異なる元素が非常に近い値をとることもあるので、吸収線が重なり合うことで元素の種類を誤認してしまうこともあり得ます。

そのため、系外惑星の大気成分の研究には極めて精度の高い分光観測を必要とし、その作業は極めて困難なものになります。
過去の観測で見つかったと主張された元素が、後の観測では見つからなかったり、誤認であると断定されたりしたケースも珍しくありませんでした。

それでも、“LTT 1445Ac”は地球から22光年という、宇宙のスケールではお隣と呼べるほど短い距離にあり、観測に適した天体と言えます。
さらに、ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡による分光観測が実現すれば、波長から元素の種類が特定でき大気成分も明らかになるはずです。


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