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東アジアの遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力! 銀河中心に潜む大質量ブラックホールに水分子ガスが落ち込む様子を観測

2023年09月28日 | 銀河・銀河団
今回の研究では、東アジアVLBI観測網を用いて電波銀河“NGC4261”を観測しています。
すると、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布するのが見つかったそうです。
どうやら、これらの水分子は銀河中心の大質量ブラックホールに落下しているようです。
この研究成果は、大阪公立大学の澤田(佐藤)聡子特任研究員たちの研究チームによるものです。
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))
電波銀河“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲で検出された水分子ガス。(a)水分子からのメーザー放射の強度分布がカラーで表示されたもの。(b)水分子ガスを遠ざかる運動が赤で、近付く運動が青で表されていて、ガスの大部分が遠ざかっていることが分かる。(c・d)水分子ガスの分布と電波ジェット(白い高等線)の位置関係。(c)と(d)内の黄色い四角枠で囲まれた個所を拡大したものが、それぞれ(a)と(b)になる。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト))

明るいジェットを持つ電波銀河

銀河の中心に潜む大質量ブラックホールに大量の星間ガスが落ち込み続けると、結果として膨大なエネルギーが放出されます。

その大質量ブラックホールをエンジンとする銀河の1つが電波銀河です。
その中心からは、数万光年の規模で活発に噴出する明るい電波ジェットを放っていて、星間ガスの持つ重力エネルギーが電波ジェットの噴出エネルギーに変換されていると考えられています。

“NGC4261”も明るいジェットを持つ電波銀河の1つなので、その中心には大質量ブラックホールが存在していると考えられています。

さらに、“NGC4261”の極めて中心の領域では、高密度のガスが円盤のように取り巻いていることがすでに知られていました。

これらのガスがブラックホールに落下すれば、ジェットに噴出エネルギーを投入できる可能性があります。

でも、本当にこれらの高密度なガスが大質量ブラックホールに落下しているのかは不明なんですねー
これまで、数光年というブラックホール近傍からガスが落下しているという観測的証拠はなく、“NGC4261”で中心部のガスがジェットのエネルギー源になっているかどうかは推測の域を出ませんでした。

遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して観測

その謎を解き明かすため、今回の研究では東アジアVLBI観測網を用いて“NGC4261”を観測しています。

東アジアVLBI観測網(EAVN :East Asia VLBI Network)とは、国立天文台や韓国天文研究院、中国科学院上海天文台、中国科学院新疆天文台が連携して、各国の電波望遠鏡群をネットワークさせたVLBI観測網のこと。
遠く離れた複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測すると、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。このような観測を行うことを“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線干渉計)”という。
今回の観測では、東アジアVLBI観測網のうち、国立天文台VERAネットワークの水沢局(岩手県)、入来局(鹿児島県)、小笠原局(東京都小笠原)、石垣島局(沖縄県)の4か所、茨城の高萩32メートル望遠鏡、韓国のVLBIネットワークKVNの3局が用いられています。

水分子ガスの分布

観測の結果判明したのは、“NGC4261”の中心から1光年未満の範囲に、メーザー輝線を放射する水分子ガスが密集して分布すること。

水分子ガスの分布は、“NGC4261”の高密度な電離ガス円盤の分布と空間的に一致しているので、水分子ガスも“NGC4261”の中心を取り巻く円盤の一部を構成していることが考えられました。

なお、メーザーとは光のレーザーと同じ原理でマイクロ波で発生する物理現象のこと。
水分子のメーザー輝線のドップラー効果からは、円盤内の水分子ガスが中心に向かって運動している瞬間をとらえています。
観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
つまり、ブラックホールを取り巻くガス円盤(降着円盤)を構成する物質が、中心のブラックホールに落下しジェット噴出のエネルギー源になる っというシナリオが、“NGC4261”で観測的に示されたことになるんですねー

今回の電波ジェットと水メーザーの観測を受け、過去の電離ガス、中性水素ガス、分子ガスの観測結果も含めて、“NGC4261”の中心部の構造が以下のように提案されています。
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
“NGC4261”中心部のガスの分布(イメージ図)。(Credit: 2023- Sawada-Satoh et al. (2023) PASJ, Vol.75, Issue 4, p.722(出所:VERA Webサイト)
ガス円盤が中心の大質量ブラックホールを取り巻き、電波ジェット方向に垂直の向きに広がっている。
これは、ジェットが大質量ブラックホールの南北の双極方向に噴き出すもので、赤道に円盤があることを意味します。

そして、水分子ガスは円盤の半径1光年より内側に分布し、円盤の中で乱流を起こしながら中心のブラックホールに落下していると予想されます。

今回の観測では、電波銀河の大質量ブラックホールを取り巻くガス円盤の手前側にある水メーザーが検出されました。
電波望遠鏡から見て水分子ガスの背景にジェットが存在するとき、水分子からのメーザー放射が明るく観測されるようです。

今回、8局の電波望遠鏡によるVLBIネットワークの安定した性能と高角分解能が、“NGC4261”の大質量ブラックホール最近傍のガスの構造と運動の検出を可能にしています。

現在、国立天文台のVERAネットワークでは、新しい高感度受信機の開発を進めていて、その新型受信機を用いると観測の感度を向上させることができます。

さらに、韓国に設置された3基の電波望遠鏡ネットワーク“KVN: Korean VLBI Network”では、現在4基目の電波望遠鏡を平昌に建設中。
これまでより感度と撮像性能の高い観測が期待できます。

今後のアップデートされた東アジアVLBI観測網が、“NGC4261”のブラックホールへのガス降着機構をさらに詳しく解明してくれるはずですよ。


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