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“NWA 13188”は地球から飛び出して、再びブーメランのように戻ってきた隕石なのかもしれない?

2023年09月29日 | 宇宙 space
これまでに地球で見つかっている隕石は7万個以上もあるんですねー
(国際隕石学会に認定されている隕石の名前の数)
その一部は、月や火星といった大きな天体に由来することが分かっています。

では、地球に由来する隕石は存在するのでしょうか?

今回発表されたのは、隕石“NWA 13188”が元々は地球の岩石だったとする研究成果でした。
もし、このことが事実だとすると、地球から飛び出して再び戻ってきたことが確認された世界初の岩石ということになるようですよ。
この研究は、フランス国立科学研究センターのJérôme Gattaccecaさんたちの研究チームが進めています。
この研究成果は、フランスのリヨンで7月中旬に開催された“2023年ゴールドシュミット国際会議”で発表されていますが、まだ査読論文は提出されていないので地球由来とする主張には異論も存在しています。

地球を飛び出して戻ってきた隕石は存在する?

地球で見つかる隕石の一部には、月や火星といった大きな天体に由来するものが含まれていることが分かっています。

これらの天体の表面から岩石が飛び出すのに必要になるのが、強い重力を振り切らせることができる激しい現象。
たとえば天体衝突や巨大な火山噴火になります。

でも、このような現象は地球でも起こる可能性はありますよね。

地球から岩石が飛び出す可能性を示した具体的な証拠が初めて見つかったのは2019年こと。
1971年にアポロ14号で持ち帰られた月の石を分析してみると、その中に地球由来の岩石が含まれていることが判明するんですねー

岩石の年代は約40億年前とかなり古いことから、月が現在よりも地球に近かった頃に偶然辿り着いたものと考えられています。

この成果が、地球由来の隕石が存在するというこれまでで唯一の証拠でした。

隕石“NWA 13188”が地球に由来する可能性

今回の研究で分析しているのは、2018年6月にサハラ砂漠のモロッコ側で発見された“NWA 13188”という隕石。
分析の結果、研究チームは“NWA 13188”が地球の岩石だと考えることになります。
図1.“NWA 13188”の外観写真。(Credit: Albert Jambon)
図1.“NWA 13188”の外観写真。(Credit: Albert Jambon)
“NWA 13188”は暫定的に“エイコンドライト(Achondrite)”に分類されています。
でも、“NWA 13188”は、他のエイコンドライトとは似ていない独特の性質を持っていたんですねー

エイコンドライトとは、岩石が主体の隕石のうち、“コンドリュール”と呼ばれる球状組織を含まない隕石を指します。

コンドリュールは重力に乏しい環境で急冷された結果生成されたと考えられています。
なので、コンドリュールが含まれていないということは、大きな天体の表面や内部で形成された岩石ということになります。

エイコンドライトのほとんどは小惑星ベスタに由来していて、一部は月や火星に由来していますが、残りの少数の起源は不明です。

“NWA 13188”も、そのような“起源不明のエイコンドライト”の1つとしてリストに掲載されていました。

分析された“NWA 13188”の組成は、地球外の隕石というよりも、地球の火山に由来する典型的な火山岩(玄武岩質安山岩)のようでした。

特に、酸素やネオジムの同位体比率(※1)、各種希土類元素やニオブとタンタルといった微量元素の存在比は、“NWA 13188”が地球由来の岩石の可能性を高めていました。
※1.同じ元素の中でも、原子の重さが異なるものを同位体と呼ぶ。同位体は、わずかながらも物理的・化学的な挙動が異なるので、たとえ同じ物質(鉱物)でもそこに含まれている元素の同位体組成が異なる場合、それぞれ異なる環境を経験してきたことを示す1つの証拠になる。
図2.“NWA 13188”の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻になる。(Credit: Albert Jambon)
図2.“NWA 13188”の断面の拡大画像。隕石の外側の黒い部分が溶融殻になる。(Credit: Albert Jambon)
でも、一部の特徴は“NWA 13188”が地球由来ではない隕石ということを強調していました。

たとえば、“NEA 13188”には“溶融殻”(※2)と呼ばれる隕石に典型的な表面構造が存在すること。
※2.隕石は地球の大気に高速で飛び込むので、前方の空気を圧縮して高温が発生する(断熱圧縮)。この熱によって隕石の表面は溶解・蒸発し、その名残りとして表面が焼けただれたような構造が残る。これを溶融殻という。
大気圏突入時の高温状態は短時間だけ発生するので、表面の数ミリだけが溶けていて、内部は無傷となる。このような状況は地球の自然環境ではほぼ発生しないので、隕石であることの1つの証拠になる。
さらに、ヘリウム3、ベリリウム10、ネオン21といった珍しい同位体が多く含まれていることも重要なことでした。
これらの同位体は、高エネルギーな宇宙線が他の物質に衝突することによって発生します。

地球上では、磁場と大気によって高エネルギー宇宙線の大部分が防がれます。
一方で、真空の宇宙空間で“野ざらし”にされた隕石では大量に発生するんですねー

“NWA 13188”に含まれるこれらの同位体の濃度は、他の隕石に比べると少ないものの、地球の岩石よりはずっと多いことが判明しています。

ベリリウム10は約140万年の半減期で崩壊するので、“NWA 13188”は地球に落下してからさほど時間がたっていないことが推測できます。

これらの情報を総合すると、“NWA 13188”は元々地球の岩石で、10万年以内という比較的短い期間だけ宇宙空間を漂った後、約1万年前に地球に落下したことになります。

天体から宇宙空間に飛び出した後、再び元の天体に戻ってきたブーメランのような物体も定義上は隕石になるので、“NWA 13188”も隕石だということに…
このような隕石は世界初の発見になります。

岩石を地球から飛び出させるような激しい現象が何だったのかは不明です。

ただ、火山噴火の可能性は低いようです。
これは、屈指の大規模火山でも噴煙の高さはせいぜい50キロ程度なので、重さが640グラムある“NWA 13188”を宇宙空間まで飛ばすのは困難だからです。

このため、“NWA 13188”は別の天体衝突で吹き飛ばされた岩片の可能性が高いと見られています。

“NWA 13188”はいつ作られた岩石なのか

“NWA 13188”に関するこの成果は、正式な査読論文にはなっていないんですねー
なので、“NWA 13188”が隕石だということに疑いの声は少ないものの、地球隕石だとする説には異論もあります。

まず、“NWA 13188”はいつ作られた岩石なのかが判明していません。

暫定的な年代は、ほとんどの隕石と同じ約45億年前になっています。
でも、地球の岩石だとするとこれよりもずっと若い年代になるはずです。

また、“NWA 13188”の落下年代が比較的若いこと、サハラ砂漠で発見されたことを考慮すると、クレーターの痕跡がないのは不自然だとする主張もあります。

サハラ砂漠で見つかる他の多くの隕石と同じで、“NWA 13188”も地元の人たちによって採取された後、仲買人によって転売されているので、正確な発見位置や状況が不明です。

でも、“NWA 13188”の大きさや推定される落下年代を考慮すると、素人目に見てもクレーターが見つかるはず…
なので、“NWA 13188”は落下年代がもっと古い、ごく普通の隕石という可能性もあります。

いずれにしても、“NWA 13188”が地球隕石なのかどうかを確定するには、まだ情報が不足している状態です。

研究チームでは、“NWA 13188”の正確な年代測定、鉱物に刻まれる落下衝撃の吸収による傷、宇宙空間に存在した期間を示す別の同位体の測定など、さらに詳しい分析を予定しているようです。

どこから来た隕石なのかを知るにはもう少し時間がかかるようです。


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