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大質量星は超新星爆発なしでもブラックホールになれる!?

2020年07月09日 | 宇宙 space
大質量星が一生を終える準備を始めた時の姿といえる“高光度青色変光星”。
質量がとても大きく、太陽の何百倍も明るく輝く恒星なんですが、突然姿を消したんですねー
いったい“高光度青色変光星”に何が起こったのでしょうか?


大質量星が一生を終える準備を始めた姿“高光度青色変光星”

みずがめ座の方向約7500光年彼方にキンマン矮小銀河(PHL 293B)という小さな銀河があります。

星々の姿を分解して観測するには遠すぎるキンマン矮小銀河ですが、銀河全体の光を調べることで、特徴的な星の存在を検出することはできました。

そこで、様々な研究チームがキンマン矮小銀河の観測を実施。
2001年から2011年の間に行われた観測はどれも、キンマン矮小銀河には太陽の約250万倍もの明るさの“高光度青色変光星”があり、なおかつ恒星としての生涯で晩年にあたることを示唆するものでした。

星の一生を解明する上で非常に重要な段階が、大質量星が一生を終える準備を始めた時の姿といえる“高光度青色変光星”。

でも、およそ1000万年といわれる大質量星の寿命に対して、“高光度青色変光星”の状態で存在できる期間はわずか1万年程度…
非常にまれな存在なので、これまで“高光度青色変光星”の詳細については詳しく分かっていませんでした。
特に“高光度青色変光星”がどのようなガス放出を起こすのかについては、恒星進化を調べるうえで非常に大切なカギなのに不明な点が多く残されている。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したキンマン矮小銀河。(Credit: NASA, ESA/Hubble, J. Andrews (U. Arizona))
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したキンマン矮小銀河。(Credit: NASA, ESA/Hubble, J. Andrews (U. Arizona))


超新星爆発を起こさずに消えた大質量星

2019年8月のこと、アイルランド・ダブリン大学トリニティカレッジの研究チームは、大質量星がどのように生涯を終えるかを研究するため、キンマン矮小銀河を観測。
観測には、ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTと分光器“ESPRESSO”が用いられました。

ところが、スペクトルの中に“高光度青色変光星”の痕跡は見られず…
数か月後に別の分光観測器“X-shooter”を用いても、この星を見つけることはできませんでした。

“高光度青色変光星”は非常に高温で明るく輝きますが、星としては燃料を燃やし尽くした状態。
なので、不安定で、ときおりスペクトルと明るさが劇的に変化します。

その場合でも、銀河全体の光から星を検出できるレベルでの変化のはずです。
今回のように完全に見えなくなってしまったことで、研究者たちは当惑することになります。

これだけ質量の大きな恒星が明るい超新星爆発も起こさずに消えるのは、極めて異例なことでした。
“高光度青色変光星”のイメージ図(Credit: ESO/L. Calçada)
“高光度青色変光星”のイメージ図(Credit: ESO/L. Calçada)


大質量星に何が起こったのか

そこで、研究チームが目を付けたのは過去の観測データでした。

2002年から2009年に行われた観測で記録されていたのは、キンマン矮小銀河の“高光度青色変光星”が、この期間に複数のバースト(爆発)を起こしていたこと。
これは、星の晩年に起こる可能性がある現象でした。

“高光度青色変光星”は、一生のうちに大規模な増光を起こす傾向がり、その際には急速に質量を失いつつ劇的に明るくなります。
増光が終了した後の“高光度青色変光星”は、やや暗い星へ変化するか、部分的にチリに覆われる可能性もあるようです。
晩年の星は巨大に膨れ上がるため、外層の引力が弱まりガスとして放出される。このガスが宇宙空間で冷えて光を吸収するチリになって星を覆ってしまうことがある。この場合、将来的に星は再び観測される可能性がある。

そう、キンマン矮小銀河に明るい星が観測されていたとき、すでに“高光度青色変光星”は大きく増光した状態にあり、それが2011年以降のどこかのタイミングで収束していた。っと考えることができます。

ただ、研究チームでは“高光度青色変光星”が見えなくなってしまった原因として、もう一つの可能性も考えています。
それは、この星が超新星爆発を起こさずに崩壊してブラックホールになったというシナリオです。
この星がブラックホールになっているとすると大量質量の85~120倍になる可能性がある。

でも、これは珍しい現象であり、大質量星に関する現代天文学の常識からすれば極めて異例なもの。
本当にブラックホールになったとすれば、大質量星がこんな具合に生涯を終えたことが直接検出された最初の事例になるんですねー

いったい、この“高光度青色変光星”にどんな運命が降りかかったのでしょうか?
超新星なしに星がブラックホールになったのか、ただ見えなくなっているだけなのか…
これを確認するには、さらに研究を重ねる必要がありそうです。

そこで、期待されるのが2025年に稼働開始予定の欧州超大型望遠鏡(European Extremely Large Telescope : E-ELT)です。

欧州超大型望遠鏡は、キンマン矮小銀河のような遠方銀河内の個々の恒星をとらえる解像度を持っています。
同じような大質量星を見つけることができれば、詳細を観測することにより新しい発見もあるはず。
今回の消えた高光度青色変光星のような宇宙のミステリーが解決するといいですね。


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