NASAの“スターダスト計画”によって、“ヴィルト第2彗星”からチリのサンプルが採集されたのが20年ほど前のこと。
実は、現在でもチリの分析が続いているんですねー
セントルイス・ワシントン大学のRyan C. Oglioreさんは、数年もの歳月をかけてヴィルト第2彗星のチリのサンプルを分析しています。
その結果、当初の予測よりも極めて多様な組成を持つことを明らかにしました。
このことは、彗星そのものや、彗星の組成を通じて誕生直後の太陽系の様子を推定する研究に、一定の影響を与えるものかもしれません。
故郷は太陽から遠く離れた冷たい場所
太陽に近づくにつれ美しい尾を見せてくれる“彗星”には、氷などの揮発性物質が豊富に含まれています。
この揮発性物質が熱で昇華すると、揮発しない岩石成分が本体から分離して、チリとして放出されることになります。
このような彗星は、どこで誕生したのでしょうか?
彗星の供給源としては、“オールトの雲”と“エッジワース・カイパーベルト”の2つが考えられています。
太陽系創世期には、原始惑星系円盤(※1)に存在していた微惑星が合体して惑星が作られたと考えられています。
また、太陽から遠い場所にあった氷とチリは、混在して氷微惑星となりました。
オールトの雲は、太陽系の外側・太陽から数万天文単位付近をぐるりと大きく球殻状に取り囲む氷微惑星の集まりで、長周期彗星はここからやってくると考えられています。
エッジワース・カイパーベルトは、氷微惑星が海王星軌道の外側にほぼ黄道面(※2)に沿った軌道で分布している場所で、短周期彗星はここからやってくると考えられています。
いずれも、それぞれの場所にある氷微惑星が何らかの原因(惑星の引力など)で軌道を変え太陽系の内側へ向かう軌道に変化し、やがて太陽に近づいて“コマ”や“尾”を持つ彗星へと姿を変えることになります。
このように太陽から遠く離れた冷たい場所を故郷とする彗星は、太陽系が生まれた頃の惑星形成時の情報をそのまま閉じ込めて、太陽に向かって進んできます。
このため、彗星のサンプルを分析すれば、太陽系の天体の素となった原子分子雲物質、つまり星間物質や星周物質が見つかると、考えられていました。
ヴィルト第2彗星のサンプルのほとんどは分析されていなかった
彗星の1つである“ヴィルト第2彗星”は、NASAのディスカバリー計画(※3)の下で打ち上げられた彗星探査機“スターダスト”によって、探査されチリのサンプルが採取されています。
これまでに提出された100以上の論文では、個々のチリについて分析や研究が行われています。
でも、スターダスト計画で採取されたチリは数千個も存在し、そのほとんどは分析されていない状態…
このため、個々のチリに関するピンポイントな情報はあっても、“ヴィルト第2彗星”の全体的な性質については、ほとんど分かっていませんでした。
太陽系の内側と外側の両方の物質が集合して形成された彗星
今回の研究では、数年という長い時間をかけて多くのチリを分析し、“ヴィルト第2彗星”が何でできているのかを調べています。
その結果、判明したのは“ヴィルト第2彗星”のチリには、星間物質のような、太陽系誕生前に生成された物質は極めて少ないこと。
この結果が驚くべきものであることを、研究のプレスリリースでは「(彗星のチリは)探査機の名前の由来である“スターダスト(星屑≒星間物質)”が支配的であると予想していた」と表現しています。
また、小惑星同士の衝突で生成される破片もかなり少ないことが判明。
さらに、太陽系誕生時に形成された後で変質しない、原始的なコンドライト隕石に類似する物質は多く含まれていました。
でも、炭素鉄の集合体や、高温で生じた小球のような、隕石には見られない物質も見つかっています。
“ヴィルト第2彗星”のチリは非常に多種多様で、今までに研究されたどの小惑星とも似ていませんでした。
このことから、“ヴィルト第2彗星”の形成の歴史は非常に複雑で、様々な起源を持つ物質の集合体だと予想されています。
誕生直後の太陽系は、太陽活動によって吹き飛ばされるまではチリやガスに覆われていたと考えられています。
でも、木星のような巨大惑星の公転軌道付近では、重力の影響によってチリやガスが無くなっていたと考えられます。
そこで、チリの分析結果に基づいたOglioreさんの予測は、“ヴィルト第2彗星”は太陽系の内側と外側の両方の物質が集合して形成されたというものでした。
内側と外側の境目は木星の公転軌道で、熱の影響を受けやすい場所と受けにくい場所との境目でもあります。
“ヴィルト第2彗星”のチリが極めて多様性に富んでいるという分析結果は、“ヴィルト第2彗星”の複雑な起源を示していると言えます。
このことは、個々のチリを分析することで誕生直後の太陽系に関する、さらに多くの情報が得られる可能性を示唆しています。
“ヴィルト第2彗星”のチリで詳細な分析が行われていないものはまだ多くあるので、今後の研究は“ヴィルト第2彗星”の、そして太陽系の彗星についてさらなる視点を与えてくれるはずです。
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実は、現在でもチリの分析が続いているんですねー
セントルイス・ワシントン大学のRyan C. Oglioreさんは、数年もの歳月をかけてヴィルト第2彗星のチリのサンプルを分析しています。
その結果、当初の予測よりも極めて多様な組成を持つことを明らかにしました。
このことは、彗星そのものや、彗星の組成を通じて誕生直後の太陽系の様子を推定する研究に、一定の影響を与えるものかもしれません。
図1.NASAの彗星探査機“スターダスト”によって撮影された“ヴィルト第2彗星”の核。(Credit: NASA & JPL-Caltech) |
故郷は太陽から遠く離れた冷たい場所
太陽に近づくにつれ美しい尾を見せてくれる“彗星”には、氷などの揮発性物質が豊富に含まれています。
この揮発性物質が熱で昇華すると、揮発しない岩石成分が本体から分離して、チリとして放出されることになります。
このような彗星は、どこで誕生したのでしょうか?
彗星の供給源としては、“オールトの雲”と“エッジワース・カイパーベルト”の2つが考えられています。
太陽系創世期には、原始惑星系円盤(※1)に存在していた微惑星が合体して惑星が作られたと考えられています。
また、太陽から遠い場所にあった氷とチリは、混在して氷微惑星となりました。
※1.原始惑星系円盤とは、誕生したばかりの恒星の周りに広がる水素を主成分とするガスやチリからなる円盤状の構造。恒星の形成や、円盤の中で誕生する惑星の研究対象とされている。
この氷微惑星のうち、大きく成長した惑星によって太陽系の外側へと散らされたものがオールトの雲に、海王星より外側の領域で惑星の成長途中で取り残されたものがエッジワース・カイパーベルトになったと考えられています。オールトの雲は、太陽系の外側・太陽から数万天文単位付近をぐるりと大きく球殻状に取り囲む氷微惑星の集まりで、長周期彗星はここからやってくると考えられています。
図2.オールトの雲のイメージ図。(Credit: National Astronomical Observatory of Japan.) |
※2.黄道面は地球が太陽を回る軌道の平面。それに対し軌道面は、あらゆる天体がその星の周りをまわる軌道の面を指す。
図3.エッジワース・カイパーベルトのイメージ図。(Credit: National Astronomical Observatory of Japan.) |
このように太陽から遠く離れた冷たい場所を故郷とする彗星は、太陽系が生まれた頃の惑星形成時の情報をそのまま閉じ込めて、太陽に向かって進んできます。
このため、彗星のサンプルを分析すれば、太陽系の天体の素となった原子分子雲物質、つまり星間物質や星周物質が見つかると、考えられていました。
ヴィルト第2彗星のサンプルのほとんどは分析されていなかった
彗星の1つである“ヴィルト第2彗星”は、NASAのディスカバリー計画(※3)の下で打ち上げられた彗星探査機“スターダスト”によって、探査されチリのサンプルが採取されています。
※3.ディスカバリー計画は、1992年に当時のNASA長官が提唱した、「より速く、より良く、より安く」のスローガンを体現する計画。過去のディスカバリー計画の探査ミッションには、小惑星“ベスタ”と準惑星“ケレス”を探査した“ドーン”、太陽系外惑星探査を行う“ケプラー”、彗星を探査した“メッセンジャー”などがある。
このサンプルが地球に帰還したのが2006年のこと。これまでに提出された100以上の論文では、個々のチリについて分析や研究が行われています。
でも、スターダスト計画で採取されたチリは数千個も存在し、そのほとんどは分析されていない状態…
このため、個々のチリに関するピンポイントな情報はあっても、“ヴィルト第2彗星”の全体的な性質については、ほとんど分かっていませんでした。
図4.水星探査機“スターダスト”が地球に持ち帰ったサンプルの入ったカプセルをヘリコプターで空輸した時の写真。(Credit: NASA) |
太陽系の内側と外側の両方の物質が集合して形成された彗星
今回の研究では、数年という長い時間をかけて多くのチリを分析し、“ヴィルト第2彗星”が何でできているのかを調べています。
その結果、判明したのは“ヴィルト第2彗星”のチリには、星間物質のような、太陽系誕生前に生成された物質は極めて少ないこと。
この結果が驚くべきものであることを、研究のプレスリリースでは「(彗星のチリは)探査機の名前の由来である“スターダスト(星屑≒星間物質)”が支配的であると予想していた」と表現しています。
また、小惑星同士の衝突で生成される破片もかなり少ないことが判明。
さらに、太陽系誕生時に形成された後で変質しない、原始的なコンドライト隕石に類似する物質は多く含まれていました。
でも、炭素鉄の集合体や、高温で生じた小球のような、隕石には見られない物質も見つかっています。
“ヴィルト第2彗星”のチリは非常に多種多様で、今までに研究されたどの小惑星とも似ていませんでした。
このことから、“ヴィルト第2彗星”の形成の歴史は非常に複雑で、様々な起源を持つ物質の集合体だと予想されています。
誕生直後の太陽系は、太陽活動によって吹き飛ばされるまではチリやガスに覆われていたと考えられています。
でも、木星のような巨大惑星の公転軌道付近では、重力の影響によってチリやガスが無くなっていたと考えられます。
そこで、チリの分析結果に基づいたOglioreさんの予測は、“ヴィルト第2彗星”は太陽系の内側と外側の両方の物質が集合して形成されたというものでした。
内側と外側の境目は木星の公転軌道で、熱の影響を受けやすい場所と受けにくい場所との境目でもあります。
“ヴィルト第2彗星”のチリが極めて多様性に富んでいるという分析結果は、“ヴィルト第2彗星”の複雑な起源を示していると言えます。
このことは、個々のチリを分析することで誕生直後の太陽系に関する、さらに多くの情報が得られる可能性を示唆しています。
“ヴィルト第2彗星”のチリで詳細な分析が行われていないものはまだ多くあるので、今後の研究は“ヴィルト第2彗星”の、そして太陽系の彗星についてさらなる視点を与えてくれるはずです。
図5.今回の研究を行ったRyan C. Oglioreさん。(Credit: Washington University in St. Louis) |
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