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自転速度が減速し続けている地球には、自転周期がほとんど変化せず1日が約19時間の期間があった

2023年08月12日 | 地球の観測
現在の地球は、約24時間で1回転する自転運動をしています。

ただ、地球の自転周期は少しずつ減速し続けていると考えられているんですねー
なので、過去の地球は、より速く自転していたはずです。

また、その減速率は一定だとこれまで考えられてきました。

ところが、今回の研究で明らかになったのは、今から約20億年前~約10億年前までの10億年間は、自転速度がほとんど低下せず、1日は約19時間でほぼ固定されていたこと。

興味深いのは、この期間は地球史における“退屈な10億年(Boring Billion)”と呼ばれる期間とほぼ一致していることでした。
この研究は、中国科学院のRoss N. Mitchellさんとエバーハルト・カール大学テュービンゲン校のUwe Kirscherさんの研究チームが進めています。

地球の自転にブレーキをかけているもの

そもそも、なぜ地球の自転周期は長くなってきているのでしょうか?

それには、地球唯一の衛星“月”が関わっています。

月は重力によって地球を引っ張っているので、地球をわずかながらもラグビーボールのような細長い形に変形させています。

この時、力学的に安定するのは、わずかに変形した地球の長い側の頂点同士を結んだ線が、月と一直線に並ぶような配置です。

ところが、月の公転速度に比べ地球の自転速度は約30倍も速いんですねー
なので、変形した地球の長い側の頂点は、月と地球の重心を結んだ直線を追い越すことになります。

この時、月は追い越して行った部分を引っ張って一直線上に戻そうとすることに…
そう、このプロセスが地球の自転にブレーキをかける訳です。
この現象は“潮汐トルク”と呼ばれています。
図1.潮汐トルクの概念図。ある天体A(青)を公転する別の天体B(グレー)の公転周期と自転周期が一致している場合、てんたいBの長軸は天体Aと一直線に並ぶ(右図)。でも、公転周期と自転周期が一致していない場合には一直線に並ばなくなり、ズレを元に戻そうとする力が働く(左図)。この作用によって天体Bの自転周期が変化する現象のことを潮汐トルクと呼ぶ。(Credit: WikiMedia Commons / Matryosika)
図1.潮汐トルクの概念図。ある天体A(青)を公転する別の天体B(グレー)の公転周期と自転周期が一致している場合、てんたいBの長軸は天体Aと一直線に並ぶ(右図)。でも、公転周期と自転周期が一致していない場合には一直線に並ばなくなり、ズレを元に戻そうとする力が働く(左図)。この作用によって天体Bの自転周期が変化する現象のことを潮汐トルクと呼ぶ。(Credit: WikiMedia Commons / Matryosika)
潮汐トルクの影響を受け続けているので、地球の自転速度は少しずつ遅くなり、自転周期が長くなっている訳です。

液体の海水は固体の地殻に比べてずっと変形しやすく、潮汐トルクの影響を受けやすいので、月からの潮汐トルクは“海洋潮汐トルク”とも呼ばれています。

でも、地球には月からの海洋潮汐トルクだけでなく、太陽がもたらす“熱潮汐トルク”も働いています。

熱潮汐トルクは、太陽によって大気中の水蒸気やオゾンが加熱され、大気が膨張することで起こります。

その効果は、海洋潮汐トルクと比べて非常に弱いもの。
でも、海洋潮汐トルクとは反対に、地球の自転を加速させるトルクという点で注目されています。
図2.月の重力で引き起こされる海洋潮汐トルクによって、地球の自転は少しずつ減速している。一方で太陽の熱で引き起こされる熱潮汐トルクは、地球の自転を加速させる。過去には、これらが釣り合っていた時期があったと考えられている。(Credit: Nature Geophysics / Mitchell & Kirscher)
図2.月の重力で引き起こされる海洋潮汐トルクによって、地球の自転は少しずつ減速している。一方で太陽の熱で引き起こされる熱潮汐トルクは、地球の自転を加速させる。過去には、これらが釣り合っていた時期があったと考えられている。(Credit: Nature Geophysics / Mitchell & Kirscher)

先カンブリア時代の自転周期

自転速度が今よりも早かった過去の地球では、海洋潮汐トルクがかなり弱く、ある時期には現在の4分の1未満だったと考えられています。

この時期は、熱潮汐トルクと海洋潮汐トルクが釣り合っていたので、地球の自転速度が加速も減速もしない停滞期間だったことになります。

地球の自転周期の変化に停滞期があったとする考えは、古い時代の地層や化石の記録を詳しく検証できるようになった1980年代頃から提唱されてきました。

でも、この考えは長い間仮説に留まっていたんですねー
その最大の理由が地質記録の不足でした。

過去の地球の1日が何時間だったのかを推定する上で、サンゴや木の年輪のような化石が役に立ちます。
でも、そのような大型生物は5億4000万年前から始まる顕生代になるまで現れず、それ以前の先カンブリア時代には存在しませんでした。

そこで、顕生代よりも古い時代には、地球の自転周期を推定するのにストロマトライトが使用されます。
ただ、分析に使えるのは特定の条件を満たしたストロマトライトに限られていて、そのような標本はめったに見つかりません。
ストロマトライトは、シアノバクテリアなどの光合成をおこなう細菌と、泥などの粒が交互に積み重なった層を持つ岩石。光合成をおこなっていない夜間に層が成長するので、日中の時間変動が生じる季節変動から過去の地球の1日の長さを推定することができるが、そのためには層が一定速度で積み重なったことを証明する必要があるなど、いくつかの厳しい条件をクリアする必要がある。
また、分析に欠かせない条件の解釈も極めて困難で、同じ標本を分析しても、研究者によって結果が全く異なることも珍しくありませんでした。

そのため、先カンブリア時代の地球の1日が何時間だったのかという問いは、非常に難しい問題といえました。

今回研究チームは、“ミランコビッチ・サイクル”と呼ばれる地球の性質を利用。
これにより、推定が難しい先カンブリア時代の自転周期の算出を試みています。

ミランコビッチ・サイクルとは、地球の自転および公転の性質が非常に長い周期で変化する現象のこと。
自転周期が短かった過去の地球では、ミランコビッチ・サイクルがより短い周期で巡ることになります。
なので、過去のミランコビッチ・サイクルは、当時の自転周期を間接的に示すことになる訳です。
図3.分析された堆積物の例。縞模様は海面の高さを反映していて、これを分析することで地球の自転周期を推定することができる。(Credit: Ross N. Mitchell)
図3.分析された堆積物の例。縞模様は海面の高さを反映していて、これを分析することで地球の自転周期を推定することができる。(Credit: Ross N. Mitchell)

自転速度の減速がストップした期間

ミランコビッチ・サイクルは、地球の気候に周期的な温暖化や寒冷化をもたらします。

気候の変化は、海が凍ってできる氷床の発達度合いに影響するので、結果的に海面の高さが周期的に変化しています。

海岸線の近くで形成された堆積物には、
陸地に近い(浅い)場所ほど粒の大きな石が堆積し、
陸地から遠い(深い)場所ほど粒の小さな泥が堆積しやすい、
という関係性があります。
なので、“堆積物の粒の大きさ”⇒“海面変動の周期”⇒“ミランコビッチ・サイクルの周期”⇒“1日の長さ”という順番で、地球の自転周期を知ることができるはずです。
図4.今回の研究で推定された地球の自転周期の変化(赤線)。約20億年前から約10億年前までの10億年間、地球の自転周期の変化は横ばい、つまりほとんど変化していなかったことが分かる。また、変化が横ばいとなった時期の始まりと終わりには、どちらも酸素が大量に供給されるイベントがあった。(Credit: Nature Geophysics / Mitchell & Kirscher)
図4.今回の研究で推定された地球の自転周期の変化(赤線)。約20億年前から約10億年前までの10億年間、地球の自転周期の変化は横ばい、つまりほとんど変化していなかったことが分かる。また、変化が横ばいとなった時期の始まりと終わりには、どちらも酸素が大量に供給されるイベントがあった。(Credit: Nature Geophysics / Mitchell & Kirscher)
そこで、研究チームは、約26億5000万年前~5億5000万年前までの22の地層データを分析。
過去の地球の自転周期の変化を調べています。

その結果、明らかになったのは、今から約20億年前~約10億年前までの約10億年間、地球の自転周期はほとんど変化せず、1日が約19時間でほぼ固定されていたことでした。

分析されたデータは、約24億6000万年前~約20億年前のどこかの時点で、海洋潮汐トルクと熱潮汐トルクが釣り合い、自転速度の減速がストップしたことを示唆していました。

退屈な10億年

ただ、自転周期がほぼ変化しなかった時期は、地球の歴史においても興味深い時期に当たるんですねー

今回の研究で自転周期がほぼ固定されていたことが判明した時期と、ほぼ重なる18億年前~8億年前までの10億年間。
この期間は、地殻や気候がほとんど変化せず、生物の進化も極めて遅かった“退屈な10億年”と呼ばれる時期に相当しています。

退屈な10億年が、なぜ生じたのかは長年の謎ですが、地殻変動の原動力になる月からの潮汐力の変化が乏しかったという仮説が、候補の1つとして上がっていました。

地殻変動が乏しければ、火山活動による気候変動は起こりにくくなり、生物の栄養になる無機類(いわゆるミネラル)の供給も乏しくなります。

また、退屈な10億年の始まりと終わりには、それぞれ遊離酸素(O2)が大量に供給されるイベントがあったことが知られています。

酸素供給の大幅な変動が、退屈な10億年の開始と終了にどの程度影響したのかは、現在でも議論されていますが、今回の研究からすると、少なくとも地球の自転周期に影響した可能性はあります。

遊離酸素は紫外線の作用によってオゾンを形成し、オゾンは水蒸気よりも効果的に熱を吸収します。
つまり、遊離酸素の増加は、熱潮汐トルクを増大させた可能性がある訳です。

一方で、退屈な10億年の始まりでは酸素濃度が上昇してから減少するという順番だったのに対し、終わりでは酸素濃度が減少してから上昇するという順番で変化しました。

この違いが自転周期の変化に関わっていた可能性もありますが、はっきりとは分かっていません。

今回の研究は、果たしてどこまで正確に地球の歴史を描写しているのでしょうか? このことは、まだ不明です…

でも、“特徴がないことが特徴”ともいえる退屈な10億年について、より深い理解をもたらすきっかけになるのかもしれません。


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