2015年に初めて“重力波”が直接検出されて以来、この宇宙にはブラックホール同士の連星“連星ブラックホール”が、どの程度存在するのかに研究者の関心が集まっています。
特に注目されているのは、恒星の密集度が高い星団内における連星ブラックホールの存在です。
ただ、これまで行われてきたのは、年齢の古い“球状星団”についての研究がほとんど…
もう1つの星団の形態“散開星団”についての研究は行われてきませんでした。
今回の研究では、この種の研究が可能な散開星団“ヒアデス星団(Hyades Star Cluster)”についての調査を実施。
その結果、ヒアデス星団の中心部には2~3個のブラックホールが存在する可能性が高く、仮に星団を飛び出していたとしても、そのタイミングは1憶5000万年以内であることが示されました。
ヒアデス星団は、地球から約150光年彼方に位置しているので、もし本当にブラックホールが存在する場合、地球に最も近いブラックホールになるようです。
一般相対性理論によると、ブラックホールや中性子星といった高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪むことになります。
このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播していきます。
これを重力波といいます。
2015年以降、アメリカの“LIGO”や欧州重力波観測所の“Virgo”といった重力波望遠鏡の観測によって、比較的軽い恒星質量ブラックホール(※1)同士の合体などに伴って放出されたとみられる重力波が、何度も検出されてきました。
近くの物質が引き寄せられることで形成された降着円盤(※2)から、間接的に電磁波が放射されることはあります。
でも、そのようなブラックホールはかなり少数派で、宇宙のあちらこちらには降着円盤を持たないブラックホールが眠っていると考えられています。
特に影響が顕著に表れると考えられているのが星団内です。
その理由は、星団内は恒星の密度が高いので、ブラックホールの近くを恒星が通過する頻度も高くなり、恒星の運動方向や運動速度に生じた変化をとらえやすいと考えられるからです。
なので、より重い恒星は中心部に移動し、恒星の密度が高まることで明るさも増すと考えられています。
ただ、一部の球状星団は、この傾向から外れていて、中心部の恒星密度がそれほど高くないことがあります。
もし、ブラックホールが星団の中心部に存在すれば、近くを通過する恒星の運動が変化し、場合によっては星団を飛び出してしまうことも考えられます。
極端な例としては、逃げ出した恒星で形成されたとみられる恒星ストリームを持つ“パロマー5”のような球状星団も存在しています。
つまり、典型的でない球状星団は、その中心部にブラックホールが存在する可能性が高いと考えることができる訳です。
でも、このような研究は、これまで年齢の古い球状星団のみを対象に行われていたんですねー
もう1つの星団の形態“散開星団”(※4)については行われていませんでした。
その理由は、数百光年の範囲内に数万個以上の恒星が密集している球状星団に対して、散開星団は同じ範囲に数十~数百個の恒星しか存在していないからです。
散開星団では連星(※5)や潜在的な逃亡者(※6)の影響が大きくなるので、ブラックホールの存在を球状星団と同じ手法で予測するのは難しくなります。
ヒアデス星団は、中心部に向かうにしたがって恒星の質量が大きくなる傾向にあり、恒星ストリーム(※7)も観測されているなど、ブラックホールを持つとみられる球状星団と似たような特徴がありました。
“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。
可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
その測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)もあり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度があります。
つまり、ブラックホールによる恒星の運動に対する影響を、推定ではなく実測で調べることができる訳です。
研究チームでは、“ガイア”のデータから調べたヒアデス星団の恒星の運動をもとに、N体シミュレーション(※8)を実施。
このシミュレーションでは、ブラックホールが0個~5個の場合を想定して実施。
すると、ヒアデス星団には星団全体の質量の9%以下を占める3個以内のブラックホールが存在する可能性が高く、シミュレーションでは2個もしくは3個と仮定した場合に最も良い結果が得られました。
いずれの結果でも、ブラックホール1個当たりの質量は太陽の8.7倍~11.0倍になるので、恒星質量ブラックホールになります。
また、ヒアデス星団の中心部からブラックホールが逃げ出している可能性も検討。
その結果分かってきたのは、ブラックホールが逃げ出したのは今から1億5000万年以内だとすると、現在のヒアデス星団の恒星の動きをよく表せることでした。
これは、ヒアデス星団全体の歴史の4分の1に相当します。
研究チームでは、ヒアデス星団には現在でも複数のブラックホールが存在するか、すでに逃げ出していたとしてもまだヒアデス星団の近くに存在すると考えています。
これが正しければ、地球から約150光年先という、観測史上最も近い場所にブラックホールが存在することになります。
この距離は、確実な発見記録としてはこれまでで最も近い、地球から1560光年先に位置するブラックホール“Gaia BH1”までの距離の10分の1以下になります。
研究チームでは、今のところ、ヒアデス星団内のブラックホールが実際に観測される可能性は低いと考えています。
もし、ブラックホールが複数存在する場合は連星を成している可能性が高く、重力波を放出しているかもしれません。
でも、予測される重力波の周波数やエネルギーは、現在あるいは近い将来に実行される手法で検出できる範囲から外れているので、重力波で検出される可能性はかなり低いと考えられています。
また、ヒアデス星団の背景には恒星がほとんど存在しないことから、重力マイクロレンズ法で観測される可能性も低いと考えられます。
重力マイクロレンズ法は、太陽程度以下の比較的低質量の天体が起こす重力レンズの観測から、レンズ源になっている天体の存在を検出する手法です。
暗い天体でも、地球から見た時に偶然遠くの恒星の前を通過すれば、天体の周りのゆがんだ時空がレンズの役割を果たして、遠い恒星からの光を増幅したり曲げたりします。
このような現象を利用して天体を見つけることができます。
一方、これまで未開拓だった散開星団の中にもブラックホールが存在することを証明する手法を示したという点で、今回の研究成果は画期的と言えます。
散開星団にブラックホールがどの程度の割合で存在するかを知ることで、宇宙全体のブラックホールの数や、重力波の発生源がどの程度存在するのかを推定することができます。
また、背景に恒星がある散開星団だと、重力マイクロレンズ法でブラックホールを直接発見できるかもしれませんね。
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特に注目されているのは、恒星の密集度が高い星団内における連星ブラックホールの存在です。
ただ、これまで行われてきたのは、年齢の古い“球状星団”についての研究がほとんど…
もう1つの星団の形態“散開星団”についての研究は行われてきませんでした。
今回の研究では、この種の研究が可能な散開星団“ヒアデス星団(Hyades Star Cluster)”についての調査を実施。
その結果、ヒアデス星団の中心部には2~3個のブラックホールが存在する可能性が高く、仮に星団を飛び出していたとしても、そのタイミングは1憶5000万年以内であることが示されました。
ヒアデス星団は、地球から約150光年彼方に位置しているので、もし本当にブラックホールが存在する場合、地球に最も近いブラックホールになるようです。
この研究は、パドヴァ大学のStefano Torniamentiさんたちの研究チームが進めています。
図1.ヒアデス星団。(Credit: ESO/Dss2, Giuseppe Donatiello) |
連星ブラックホールと重力波
時空間の歪みを遠くまで波のように伝える重力波は、ブラックホールなど質量の大きな天体が運動することで生じると考えられています。一般相対性理論によると、ブラックホールや中性子星といった高密度な天体の周りでは時空(時間と空間)が歪むことになります。
このような高密度な天体が運動することで、歪みが波として宇宙空間に伝播していきます。
これを重力波といいます。
2015年以降、アメリカの“LIGO”や欧州重力波観測所の“Virgo”といった重力波望遠鏡の観測によって、比較的軽い恒星質量ブラックホール(※1)同士の合体などに伴って放出されたとみられる重力波が、何度も検出されてきました。
※1.恒星質量ブラックホールは、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つブラックホール。宇宙に多数存在している。
重力波の発生源の探索や、宇宙に存在するブラックホールの数を推定する上で、ブラックホール同士の連星は宇宙のどのような場所に、どの程度存在するのかが注目されています。ブラックホールが重力を介して周囲に及ぼす影響
ブラックホールは、その強力な重力による束縛から光(電磁波)も逃げ出せない天体なので、光学的に観測することはできません。近くの物質が引き寄せられることで形成された降着円盤(※2)から、間接的に電磁波が放射されることはあります。
でも、そのようなブラックホールはかなり少数派で、宇宙のあちらこちらには降着円盤を持たないブラックホールが眠っていると考えられています。
※2.ブラックホールへ落下する物質は角運動を持つため、降着円盤と呼ばれるへんぺいな円盤をブラックホールの周囲に作る。降着円盤内のガスの摩擦熱によって落下するガスは電離してプラズマ状態へ、この電離したガスは回転することで強力な磁場が作られ、降着円盤からは荷電粒子のジェットが噴射し降着円盤の半径に応じて、可視光線、紫外線、X線と幅広い電磁波が観測される。
ただ、そのようなブラックホールでも、重力を介して周囲に及ぼした影響をとらえることで、間接的に調べることは可能です。特に影響が顕著に表れると考えられているのが星団内です。
その理由は、星団内は恒星の密度が高いので、ブラックホールの近くを恒星が通過する頻度も高くなり、恒星の運動方向や運動速度に生じた変化をとらえやすいと考えられるからです。
星団内の恒星の密度からブラックホールの存在を間接的に予測する
このような恒星の運動の変化は、恒星の密度が高い“球状星団”(※3)において、かなり顕著に表れると考えられます。※3.星団のうち多数の恒星が重力で集合し、概ね球状の形をとったもの。数百光年以内に数万個以上の恒星が密集している。
球状星団は中心に近づくほど恒星の密度が高くなり、重力も強くなる傾向にあります。なので、より重い恒星は中心部に移動し、恒星の密度が高まることで明るさも増すと考えられています。
ただ、一部の球状星団は、この傾向から外れていて、中心部の恒星密度がそれほど高くないことがあります。
もし、ブラックホールが星団の中心部に存在すれば、近くを通過する恒星の運動が変化し、場合によっては星団を飛び出してしまうことも考えられます。
極端な例としては、逃げ出した恒星で形成されたとみられる恒星ストリームを持つ“パロマー5”のような球状星団も存在しています。
つまり、典型的でない球状星団は、その中心部にブラックホールが存在する可能性が高いと考えることができる訳です。
でも、このような研究は、これまで年齢の古い球状星団のみを対象に行われていたんですねー
もう1つの星団の形態“散開星団”(※4)については行われていませんでした。
星団のうち、1つの分子雲から同時に形成された多数の恒星が集合しているもの。
恒星の密度からブラックホールの存在を間接的に予測する手法は、球状星団の研究では行われていて、散開星団には適用されていません。その理由は、数百光年の範囲内に数万個以上の恒星が密集している球状星団に対して、散開星団は同じ範囲に数十~数百個の恒星しか存在していないからです。
散開星団では連星(※5)や潜在的な逃亡者(※6)の影響が大きくなるので、ブラックホールの存在を球状星団と同じ手法で予測するのは難しくなります。
※5.連星は遠くから見れば1つの重力源として振る舞うため、同じ重さの恒星2個からなる連星は、2倍重い恒星が1個だけの天体のように振る舞う。恒星数の多い球状星団だと連星の存在がもたらす誤差はわずかになるが、恒星数が少ない散開星団では問題となり、中心部ほど重い恒星になるという傾向とは逆のものになる。
※6、星団の位置にあるものの、実際には重力的に結合していない恒星のことを指す。星団とは無関係な天体なので除かないといけないが、区別することは難しく、恒星数が少ない散開星団では大きな誤差となる。
球状星団と似たような特徴を持つ散開星団
今回の研究で対象となっているのは、おうし座の方向約150光年彼方に位置する散開星団“ヒアデス星団”です。ヒアデス星団は、中心部に向かうにしたがって恒星の質量が大きくなる傾向にあり、恒星ストリーム(※7)も観測されているなど、ブラックホールを持つとみられる球状星団と似たような特徴がありました。
※7.重力により恒星が移動した跡のことを恒星流(恒星ストリーム)という。星が他の場所から移動してきた証拠になる。
ヒアデス星団の中心部にブラックホールが存在するのかを調べるため、研究チームが用いたのは位置天文衛星“ガイア”の観測データでした。“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。
可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡です。
その測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)もあり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度があります。
つまり、ブラックホールによる恒星の運動に対する影響を、推定ではなく実測で調べることができる訳です。
ヒアデス星団に恒星質量ブラックホールが複数存在する可能性
恒星の位置から星団内のブラックホールを直接調べる試みは、今回が初めてのことでした。研究チームでは、“ガイア”のデータから調べたヒアデス星団の恒星の運動をもとに、N体シミュレーション(※8)を実施。
※8.物質分布や速度分布を統計的にサンプリングし、多数の質点の位置と速度で表現する手法。
この手法は、コンピュータ上にヒアデス星団を再現した恒星の集団を作り、お互いが与える重力の影響によって、個々の恒星の運動速度や星団全体の大きさがどのように変化するのかを調べるものでした。このシミュレーションでは、ブラックホールが0個~5個の場合を想定して実施。
すると、ヒアデス星団には星団全体の質量の9%以下を占める3個以内のブラックホールが存在する可能性が高く、シミュレーションでは2個もしくは3個と仮定した場合に最も良い結果が得られました。
いずれの結果でも、ブラックホール1個当たりの質量は太陽の8.7倍~11.0倍になるので、恒星質量ブラックホールになります。
また、ヒアデス星団の中心部からブラックホールが逃げ出している可能性も検討。
その結果分かってきたのは、ブラックホールが逃げ出したのは今から1億5000万年以内だとすると、現在のヒアデス星団の恒星の動きをよく表せることでした。
これは、ヒアデス星団全体の歴史の4分の1に相当します。
研究チームでは、ヒアデス星団には現在でも複数のブラックホールが存在するか、すでに逃げ出していたとしてもまだヒアデス星団の近くに存在すると考えています。
これが正しければ、地球から約150光年先という、観測史上最も近い場所にブラックホールが存在することになります。
この距離は、確実な発見記録としてはこれまでで最も近い、地球から1560光年先に位置するブラックホール“Gaia BH1”までの距離の10分の1以下になります。
研究チームでは、今のところ、ヒアデス星団内のブラックホールが実際に観測される可能性は低いと考えています。
もし、ブラックホールが複数存在する場合は連星を成している可能性が高く、重力波を放出しているかもしれません。
でも、予測される重力波の周波数やエネルギーは、現在あるいは近い将来に実行される手法で検出できる範囲から外れているので、重力波で検出される可能性はかなり低いと考えられています。
また、ヒアデス星団の背景には恒星がほとんど存在しないことから、重力マイクロレンズ法で観測される可能性も低いと考えられます。
重力マイクロレンズ法は、太陽程度以下の比較的低質量の天体が起こす重力レンズの観測から、レンズ源になっている天体の存在を検出する手法です。
暗い天体でも、地球から見た時に偶然遠くの恒星の前を通過すれば、天体の周りのゆがんだ時空がレンズの役割を果たして、遠い恒星からの光を増幅したり曲げたりします。
このような現象を利用して天体を見つけることができます。
一方、これまで未開拓だった散開星団の中にもブラックホールが存在することを証明する手法を示したという点で、今回の研究成果は画期的と言えます。
散開星団にブラックホールがどの程度の割合で存在するかを知ることで、宇宙全体のブラックホールの数や、重力波の発生源がどの程度存在するのかを推定することができます。
また、背景に恒星がある散開星団だと、重力マイクロレンズ法でブラックホールを直接発見できるかもしれませんね。
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