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どのようにして太陽系は現在の姿になったのか? 公転周期が長い巨大ガス惑星“TOI-4600b”と“TOI-4600c”がヒントを与えてくれるかも

2023年11月01日 | 系外惑星
初めて太陽以外の恒星を公転する“太陽系外惑星(系外惑星)”が見つかったのは1992年のこと。
それ以来、5400個以上の系外惑星が発見されています。

でも、観測手法の限界から、これまでに公転周期が50日を超える惑星は、ほとんど見つかっていませんでした。

今回の研究では、NASAのトランジット惑星探査衛星“TESS(Transiting Exoplanet Survey Satellite)”の観測データおよびフォローアップ観測のデータから、新たに系外惑星“TOI-4600b”と“TOI-4600c”を発見しています。

“TOI-4600c”の公転周期は約483日で、現時点では“TESS”の観測で発見された最も公転周期の長い惑星になります。

また、2つの惑星は推定される表面温度をもとに、木星や土星のような低温の巨大ガス惑星と、太陽系の外で多数発見されている高温のホットジュピタ-の間の性質を持つと考えられています。
この研究は、ニューメキシコ大学のIsmael Mirelesさんたちの研究チームが進めています。
図1.“TOI-4600”の周りを公転する2つの惑星のイメージ図。(Credit: UNM Physics and Astronomy)
図1.“TOI-4600”の周りを公転する2つの惑星のイメージ図。(Credit: UNM Physics and Astronomy)

長い公転周期の系外惑星はめったに見つからない

恒星の周囲を回る系外惑星を直接観測するのは極めて難しく、これまでに発見された系外惑星の多くは、“ドップラーシフト法”や“トランジット法”といった手法を用いて間接的に検出されてきました。

ドップラーシフト法は、恒星(主星)の周りを回っている惑星の重力で、主星が引っ張られることによる“ゆらぎ”を、光の波長の変化から読み取ることで惑星の存在を検出する手法。
もう一方のトランジット法では、地球から見て惑星が主星の手前を通過(トランジット)するときに見られる、主星のわずかな減光から惑星の存在を探ります。

ただ、“ドップラーシフト法”や“トランジット法”は、どちらも惑星の影響による「恒星(主星)の周期的な変化」をとらえなければならないという問題があります。

恒星の明るさや波長の変化そのものは他の原因で生じることがあります。
でも、周期的な変化となれば惑星以外の理由で偶然生じる可能性はほぼありません。

そう、惑星を探索する上で周期性はとても重要な証拠になるわけです。

ある現象が周期的に発生しているかどうかを確認するには、最低でも惑星が主星の周りを1周する間、主星のデータを連続的に取得する必要があります。

ただ、任意の主星から惑星の存在を示す観測データが得られる確率は低く、言い換えればどの主星で惑星が見つかるのかを事前に予測することは難しいので、近年の系外惑星探査では、全天を複数の領域に分割したうえで、1つの領域を一定期間集中観測する手法が採用されています。

つまり、この手法では公転周期が1回の観測期間を上回る惑星を見つけることが、原則的に不可能になります。

このような観測手法上の制約があるので、これまでに発見された系外惑星は公転周期の短いものが多く、公転周期が50日を超える系外惑星はほとんど見つかっていませんでした。(※1)
※1.過去に発見された公転周期の長い系外惑星は、主星とは別の天体として撮影された惑星の位置が変化する様子から公転周期を予測するなど、ドップラー法やトランジット法とは別の方法で公転周期が推定されている。

精度の低いデータを追加の観測でフォロー

2018年4月18日に打ち上げられた“TESS”は、マサチューセッツ工科大学が中心となって実施しているNASAの衛星計画です。

2年間ほぼ全天のトランジット惑星を探索する計画を実施し、第1期延長計画までの4年間で発見したのは、5000個を超えるトランジット惑星候補。
観測は5年目に入っていて現在は第2期延長計画を実施しています。

“TESS”が狙うのは、地球からおよそ300光年以内にあり、恒星の明るさによって大気が照らされている惑星。
調査する恒星の多くは赤色矮星という銀河系に最も多いタイプで、私たちの太陽よりも小さくて暗い恒星になります。

“TESS”が目指しているのは、系外惑星探査衛星“ケプラー”よりもはるかに広い範囲を観測し、より多くの系外惑星を発見すること。
トランジット法による惑星の発見を目的に、多数の恒星の明るさの変化をとらえ続けています。

“TESS”の観測範囲は、ほぼ全天をカバーしていますが、1度に観測できるのは24℃×96度の領域。
なので、観測範囲全体のうち74%の観測期間は28日間に限られています。

“TESS”で発見された多くの惑星が40日未満の公転周期なのは、これが理由です。

また、“TESS”のデータ保存容量や地球へのデータ送信の都合から、ほかにもいくつか観測上の制約があります。

研究チームでは、“TESS”の観測データから候補の1つとして上げていた、りゅう座の方向約705光年彼方に位置する恒星“TOI-4600”に注目していました。
“TOI-4600”は、2021年の時点で別のワーキンググループからも注目されていた恒星の1つでした。

研究チームが“TESS”の観測データをさらに調査してみると、約3年の期間を空けて実施された2回の観測中に、“TOI-4600”が暗くなるイベントが複数起きていることが分かります。

ただ、不運にも分析されたデータには、いくつかの不利な部分が含まれていたんですねー
図2.“TESS”で観測された“TOI-4600”の明るさのデータ。緑色の▽は内側の惑星、赤紫色の△は外側の惑星の通過によって生じたとみられる減光のタイミングを示している。内側の惑星の通過中に観測が中断されたり、内側と外側の通過がほぼ同じタイミングで起きていたりと、このデータだけでは惑星の存在を確定することができなかったので追加観測が行われた。(Credit: Ismael Mireles, et al.)
図2.“TESS”で観測された“TOI-4600”の明るさのデータ。緑色の▽は内側の惑星、赤紫色の△は外側の惑星の通過によって生じたとみられる減光のタイミングを示している。内側の惑星の通過中に観測が中断されたり、内側と外側の通過がほぼ同じタイミングで起きていたりと、このデータだけでは惑星の存在を確定することができなかったので追加観測が行われた。(Credit: Ismael Mireles, et al.)
“TOI-4600”が暗くなるタイミングからすると、“TOI-4600”には公転周期の異なる2つの惑星が存在する可能性がありました。

不利な部分というのは、内側を公転する惑星が恒星の手前を通過している最中に、“TESS”が地球にデータを送信するため観測が中断されてしまっていたり、内側と外側を公転するそれぞれの惑星が、偶然にもほぼ同じタイミングで恒星の手前を通過したため、双方の影響による減光が重なり合って区別できなかったこと。

そこで、研究チームでは、地上と宇宙の両方での観測やデータアーカイブの探索を実施。
実際、“TOI-4600”に惑星が存在するのかを調べています。

まず、“TESS”の観測データを補うため、ラスクンブレス天文台のLCOGT望遠鏡(スペイン領カナリア諸島、テネリフェ島)、ヴェンデルシュタイン天文台の2.1メートルフラウンホーファー望遠鏡(ドイツ、バイエルンアルプス)、コティザロフツィ私立天文台の0.3メートル望遠鏡(クロアチア、Viškovo近郊)、ホワイティン天文台の0.7メートル望遠鏡(アメリカ、マサチューセッツ州、ウェルズリー大学)が、トランジット法による追加の光度変化観測を実施。
これらは、“TESS”ほど高精度ではないものの、お互いが独立したデータなので、相互に検証が可能でした。

また、フレッド・ローレンス・ホイップる天文台(アメリカ、マサチューセッツ州、ケンブリッジ)の1.5メートル ティリングハスト反射望遠鏡に設置されたTRES分光器で分光観測を行い、ドップラー分光法による質量測定も実施。
パロマー天文台(アメリカ、カリフォルニア州、サンディエゴ)では、光学補正を行うことで、これらの光学観測データに測定上のノイズが含まれていないかを検証しています。

さらに、ヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”のデータから、“TOI-4600”の近くに別の恒星や褐色矮星が存在していないかを確認。
これは、伴星が存在すれば、惑星とよく似たシグナルを発生する原因となるためです。

これらに加えて研究チームでは“TOI-4600”のモデルを作成。
もし、惑星が存在する場合の正確な公転周期を割り出すことを試みています。

“TOI-4600”の2つの惑星は珍しい特徴をいくつも持っている

多方面からの観測を行った結果、“TOI-4600”には恒星や褐色矮星など惑星以外の伴星は存在せず、2つの惑星が存在する可能性が高いことが突き止められました。

仮符号の命名規則から、内側を公転する惑星は“TOI-4600b”、外側を公転する惑星は“TOI-4600c”と命名。
特に、外側の“TOI-4600c”の公転周期は約482.819日(約15.8か月)で、これは“TESS”で発見された最も公転周期が長い系外惑星になりました。

“TOI-4600b”の公転周期も約82.687日(約2.7か月)。
なので、どちらの惑星も発見例が少ない公転周期が50日以上の系外惑星になります。

2つの惑星の直径を地球と比べてみると“TOI-4600b”が6.80倍、“TOI-4600c”が9.42倍あるようです。
“TOI-4600c”は土星とほぼ同じ大きさになります。

また、質量は木星との比較で、“TOI-4600b”が0.607倍、“TOI-4600c”が0.841倍だと考えられています。
このことから、“TOI-4600”で見つかった2つはどちらも巨大ガス惑星のようです。

“TOI-4600”の明るさと惑星までの距離をもとに推定した各惑星の表面温度は、“TOI-4600b”が約74℃、“TOI-4600c”は約マイナス82℃。
これは、かなり珍しい発見と言えます。

それは、系外惑星の観測手法上、最も見つかりやすいのは、恒星から極めて近い場所を公転する超高温の巨大ガス惑星“ホットジュピタ-”だからです。

その一方で、太陽系に存在する2つの巨大ガス惑星の木星と土星は低温なんですねー

“TOI-4600b”の推定表面温度は、ホットジュピタ-と木星・土星の温度のちょうど中間に位置していて、“TOI-4600c”は木星の平均表面温度の約マイナス108℃とほぼ同じ値です。

系外惑星の観測と研究が行われる理由の1つには、太陽系がどのように形成されたのかを理解することに繋がる知見を得るというものがあります。

でも、太陽系と似ている系外惑星はめったに見つからないので、これまで十分に比較できる研究対象は存在しませんでした。

このため、“TOI-4600b”と“TOI-4600c”の発見は貴重なものだと言えました。

“TOI-4600”星系に関する次の大きな疑問は他の惑星の存在になります。

他の惑星があったとしてもなかったとしても、恒星から離れた位置に巨大ガス惑星が存在するという点で、共通した特徴を持つ太陽系がどのようにして現在の姿になったのかを知る上で、“TOI-4600”星系の存在は何か大きなヒントを与えてくれる気がしますね。


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